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【連載小説】一途な気持ち 9話 余命

#一途な気持ち

 律子からメールがきた。あれから約1週間が経ち、律子の父は亡くなって、葬儀も終了して落ち着いたところのようだ。聞いた話に寄ると、律子は父に溺愛されていたらしい。東京に家族で住んでいた時も、心配だから、という理由で両親も一緒に北海道の馬産地に引っ越してきた。とは言っても、律子は牧場の宿舎に住んでいるので両親とは同居していない。母親はアパートに住んでいるらしい。なので、休みの日は母親のもとへと遊びに行っているらしい。彼女が言うには、友達と呼べる人は職場の男性1人と俺くらいらしい。牧場の従業員は10人くらいいるが、気の合う仲間はその1人だけらしい。もしかして律子はその仲間と交際していたりして。わからないけれど。

 メールはもう1通きた。
「この前はごめんね。今夜なら大丈夫だよ」
 俺は思った。その男と交際していたら、俺とは会わないだろうと。ていうことは交際していない、ということになる。本人にも確認はしてみるけれど。

 今日は午後から母親とじいちゃんと、ばあちゃんを車に乗せて、親父の見舞いに行く予定だ。52歳という若さで病に倒れた親父。孫の顔も見ないで他界しないでほしい。でも、どうなるかわからない。
 病院に着いて親父が入院する3階に向かった。3階は重篤な患者が入院している。病室に入る前にナースステーションに寄り、名前と住所を書かなければならない。誰が来たかわかるように。他の階はそういうことはしなくていいらしい。俺は4人分の名前と住所を書いた。正直、面倒。担当医は母と俺を別室に呼んで、じいちゃん、ばあちゃんは病室に行ってもらった。俺はどうしたのだろうと思った。よくない話しかな。

 担当医は、大きめな椅子にどっかと座っており、僕と母は丸椅子に腰かけた。医師がまっすぐこちらを向き、
「単刀直入に言います。星山信二さん。余命3ヶ月です」
「え……」
 僕は絶句した。
「主人、回復に向かってないんですか……?」
「残念ですが、むしろ悪くなっています。もちろん、こちら側としては全力で治療するつもりですが、ご自宅で死期を迎えるまで生活されるという方法もあります。どちらを選ぶかはご家族です。それを伝えたくて来ていただきました」
 長い長い沈黙のように感じられた。俺は、
「わかりました。家族で話し合ってみます」
 主治医は顔をこちらに黙って向けていた。
「では、失礼します」
 母は既に泣き崩れていた。
「母さん、今はまだ泣く時じゃない。堪えるんだ」
「だって……」
 俺は母の姿を見ていられなかった。でも、逆に考えれば、覚悟ができたとも考えられるだろう。俺は思う。世の中仕方のないことが多いと。自分の力ではどうすることもできないことがある。それもまた、仕方がない。俺はそう思う。
 
 

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