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【連載小説】一途な気持ち 5話 親父の急変

#一途な気持ち

 子どものようだと俺に突っ込みをいれる律子はかわいい。彼女に対する「好き」という気持ちが増した。律子は俺に恋愛感情はないのだろうか。
 訊いてみる勇気が今の俺にはない。訊くのが怖いというのもある。もし、ない、と言われたら俺のショックは大きい。大ダメージだ。

 ラーメンが食べたい。律子を誘って行くかな。明日にしよう。もし、今日でもよければ今日行く。早速メールを送った。
<オスッ! 今夜か明日、ラーメン食べに行かないか?>
 時刻は21時。夜飼いは終わっているはず。15分くらいして返事がきた。
<こんばんは! 今日はもうこんな時間だから無理だわ。明日ならいいよ>
 やっぱりそうかぁ、と思いながら、
<じゃあ明日の夜、夜飼い終わったらメールくれ。迎えに行くから>
<わかった、待ってるね>
 俺は思いついた。今回はラーメン屋に行くけれど、次回はカラオケに誘うかな。

 それと、無理かもしれないが、今度、律子と2人で旅行に行きたい。でもお金もかかるし、時間もないかもしれない。俺は自営業だから時間はいくらでも融通がきく。問題は律子の方。1泊2日か2泊3日になるかわからないけれど、社長がそんなに休んでいいと言うかわからない。厳しい社長のようだから尚更。牧夫は、正月休みもお盆休みもない職業だから。それに律子が言うには人手不足のようだ。確かに朝は早いし、夜も仕事があるから本当に馬が好きじゃないと無理だと思う。でも、彼らにとってみれば好きなことをしているから、凄い大変な仕事とは言えないのかもしれない。むしろ馬と触れられて嬉しいのだろう。

 翌日、俺はミニトマトのハウスに入って仕事をしていると、ガサガサという音がした。何だろう? と思い、見に行くと親父が倒れていた。俺は驚いて傍に駆け寄った。
「親父! どうしたんだよ!」
 と、俺は叫んだ。すぐに救急車を呼んだ。
 声を掛けても反応しない。ちょうど、ハウスの外側に母親がいたので叫んだ。俺の声に気付いてこちらを見た。
「親父が倒れてたから、救急車呼んだ!」
「え! 今、そっちに行くから」
 母親は走ってやって来た。
「お父さん! お父さん!!」
 反応がない。
「俺も声を掛けたけど反応しないんだ」
 
 15分くらいして救急車のサイレンのけたたましい音が聴こえてきた。
「俺、救急隊をハウスまで案内してくる! 母さんはいてくれ!!」
「わかったよ!」

 俺は無我夢中で走り、救急隊に声を掛けた。
「こっちです!」
 男性の救急隊は2人いた。一番手前のハウスに案内し、中に入ってもらった。彼らは走って父の傍に行き、脈を測った。そして俺に話しかけてきた。
「倒れたのを発見したのはいつですか?」
「ガサガサっと音がしたので俺がすぐに駆け付けました」
「かかりつけの病院はありますか?」
 今度は母親が答えた。
「町立病院にかかっています」
 救急隊は電話をかけた。多分、町立病院にだろう。
 話し終えて、
「町立病院に運びます!」
 親父を担架に乗せ、救急車に乗せた。
 再びけたたましい音をたてながら救急車は走って行った。その後を俺の車に母親を乗せ、急いで後を追った。

                             つづき……

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