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病と恋愛事情 二十六話 見舞い①

 翌日の午後二時を過ぎたのであたしは娘のさくらを連れて車で晃の入院する精神科の病院に向かった。

 病院には十分程で到着した。この町周辺では一番大きな建物で六階建て。ビジネスホテルなどもあるけれど、三階建てだし。

 建物の割には駐車場は車が十台位しか止められない。今はほぼスペースが埋まっている。駐車場をぐるんと一回りすると、一台分のスペースがあったのでバックで停めた。

 車の中は暖房が入っているから暖かいけれど、外は寒い。冬だから仕方ない。凍えながらあたしとさくらは院内に入った。

 中は広い。初めて入った。建てられてそんなに経ってないはず。多分、築五~六年だと思う。入って右側に受付と会計がある。左手の少し奥まった所に売店があった。あたし達は売店で晃が好きそうな甘いお菓子とお茶を三本買った。それとさくらは、ミルクティー。あたしは、カフェオレを買った。やっぱり、売店は高い。来る途中のスーパーマーケットで買って来れば良かった。大分、節約出来たのに。まあ、仕方ない。今更戻す訳にもいかないし。

 買い物袋を片手に、受付に晃の病室の番号を訊きに行った。受付は若い女性と若い男性。女性に声を掛けた。
「あのう、」
「はい!」
病院では使わない言葉だけど、営業スマイルってやつを見せた。
「昨日、入院した伊勢川晃の病室の番号が知りたいのですが」
「失礼ですがご家族の方ですか?」
「いえ、友人です」
「そうですか。ご家族以外の方は教えることは出来かねます」
「じゃあ、自分で探す分には良いですよね?」
「はい、それなら大丈夫です」
あたしは玄関に戻り晃にLINEを送った。
[晃、どこの部屋? 職員に言っても家族以外は教えないって言うのよ]
十五分位待ってようやく返信が来た。
[605だ]
ぶっきら棒な返信だなと思った。でも、
[今、行くね]
と、送った。さくらが、
「ねえ、何号室?」
甘えた声で訊いてきた。何故、甘えているのだろう。分からない。
「605よ。どうしたの、そんな声出して」
あたしは思わず笑ってしまった。
「だって、晃さんって頼れる男性って感じがするじゃん? それが良いのよねぇ」
あたしは(えっ!)と思った。
「あなた、ホントにそんなこと思ってるの? 彼氏いるじゃない」
娘は頭をひねり、
「彼氏は子どもっぽくて」
子どもが子どもに言うとは、また、笑ってしまった。
「とりあえず、行くよ」
さくらは頷いた。エレベーターを見つけ、上向きの矢印を押した。扉はすぐに開いた。
中には誰もいない。さくらを先に乗せ、後からあたしが乗った。6と表記されているボタンを押した。スーっという音と共に六階についた。扉が開き目の前にナースステーションがあった。
「605はどこだ」
と言いながら探し、ようやく見付けた。中を覗くと彼がいた。

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