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病と恋愛事情 二十五話 入院

 私の名前は平さくら。十五歳。高校一年生。お母さんは麻沙美といって、伊勢川晃さんの彼女。私は晃さんの書く小説が大好き。お母さんと晃さんの家に行く度読ませてもらっている。楽しみの一つ。

 それとは別に私には彼氏がいる。付き合って半年の同級生。背はそれほど高くないけれど、かわいい感じ。私の好みのタイプ。エッチはまだしていない。でも興味はある。彼氏は奥手だから私に手を出して来ないかも。私から誘っちゃおうかな。お母さんがいない時に私の部屋で。

 今日はお母さんが就職したからそのお祝いに食事に三人で行く予定。晃さんのおごりみたい。ラッキー! 何食べようかなー。

 彼氏も大好きだけど、食べ物や晃さんの書いた小説も大好き。晃さんの書く小説の登場人物は凄く魅力的で面白い。勿論、ストーリーも深みがあって凄く良い。

 私は思いついた。ステーキが食べたい! 和牛ステーキ。しかも、焼き方はミディアムがいい。暫くステーキは食べていない。三百グラムを食べようかな。晃さんが良いと言えばだけれど。そんなに食べられるのかって突っ込まれそうだけれど。

 時刻は十八時過ぎ。私は母に声を掛けた。
「晃さん、仕事終わったかなぁ」
母はふふんと鼻を鳴らした。
「終わってるかもね。連絡待ちだからね」
「わかってるよ」
すると、母のスマートフォンに電話がきた。画面を見て母に渡す。晃さんからだ。
「もしもし」
母の声が浮かれている。
『麻沙美、すまん。入院になった。さくらちゃんにも謝っといてくれ。食事に行くって約束してたのにな。ほんと、すまん……』
「そうなんだ……」
母は何やら残念そう。どうしたのかな。
「わかったよ。たまにお見舞いに行くから。早く元気になってね」
お見舞い? まさか……。母が電話を切った後、私は母を問い詰めた。
「お母さん、晃さんはもしかして……」
「うん、残念だけど食事会は無しね」
私は母からそれを聞いた時溢れんばかりの涙を流しながら泣いた。
ヒックヒックと嗚咽を漏らしながら、
「楽しみにしてたのに……! 晃さんの小説だって読めなくなったじゃない……!」
母は私を睨みつけるように見た。
「さくら! 仕方ないじゃない! 晃にだって事情があるんだから! わがまま言わないの」
怒鳴られた私は黙ってしまった。
「……わかった」
母の一言はまるでボディブローのように効いた。
「……そうだよね……仕方ないよね……」
私は母の一言を反芻していた。
「さくら。納得できた?」
「うん、出来た」
「なら良かった。近い内にお見舞い行こうか」
「うん、行きたい!」
母は笑っていた。
「さくらはほんと晃に懐いてるわね。あたしとさくらのどっちが恋人だかわからない」
恋人はお母さんでしょ。私なわけない。そう言うと母は笑っていた。

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