見出し画像

動向

 僕はゲイだ。こうやって堂々と言えるようになったのは、最近のことだ。それまでは、差別や偏見がひどく言えなかった。でも、時代の移り変わりとともに理解してもらえるようになった。100%ではないにしろ。

 僕にはゲイの友達のほかに、レズビアンやバイセクシャル、トランスジェンダーの友だちもいる。どこで知り合ったかというと、イベントがあったのだ。性に悩みを抱えている人たちのためのイベント。まずは、出逢いから始まる。それから、お互い気に入れば連絡先を教え合う。この田舎町では毎年こういうイベントがある。あと、牧場や農家の人たちのところに嫁にいく企画もある。

 この町は高齢化していて、若い人が定着しない。いたとしても、独身の男女ばかり。稀に、都会からこの町に移り住んでいる家族もいるが。

 彼氏が欲しいと常日頃から思っているがなかなかできない。

 僕の容姿は太目の体型で、身長は165cmで体重は75kg。髪はピンクで背中まで髪が伸びている。いまの服装はピンクの半そでTシャツで白いジーンズを履いている。ちなみに僕は26歳で独身。まあ、ゲイだから独身だろう。でも、同性婚ができる地域もあるらしい。そういう地域に引っ越そうか、と本気で思ったこともあった。でも、北海道に住んでいてそういう地域は東京にあるようなので、1からの生活はむずかしいと判断してやめた。仕事だって探さないといけないし。住む場所も必要だ。そう考えていくと無理だと思った。親にそういう理由で引っ越すから、支援して欲しいとは口が裂けてもいえない。第一、両親は僕がゲイだということは知らないから。僕には弟がいるが、彼もゲイなのだろうか? 今度、機会があれば訊いてみようと思う。
ちなみに僕の職業は、理容師だ。父が理容院を経営していて、僕はそこで手伝いをしている。給料もきちんともらっている。

 祖父の代から続く老舗だ。将来的には僕があとを継ぐことになるのかもしれないけれど、僕の野望は、自分の店をもつこと。僕はピンクが好きなので、外観も内装もピンク一色にしたい。父にそれを話したことがあって、父は「オカマみたいな店だな」と言い笑っていた。僕はその話を聞いてショックを受けた。「オカマみたい」って。それが父の口から出るということは、ゲイを差別しているというふうに解釈したけれど果たしてどうだろう。

 僕も同じだが、弟も理容師の資格をとるために専門学校にいかせてもらった。でも、弟は父とはあまり仲が良くなくこの店では働いていない。東京渋谷区にある理容院で働いている。まえに弟と話していて、「資金がたまったら独立する」と言っていた。弟は僕とは違い、生きるのがうまく、気が強い。自分の意志もきちんともっている。逆に僕は、気が弱くひとの意見に流されやすい。これが、いいのかそうじゃないのかはわからないけれど。僕は、どちらかと言うとネガティブが多いかもしれない。でも、ひとの意見にながされるということは、柔軟性があるということでは? と思う。

 どこかに出逢いはないものか、独りの時間が長くて寂しくて死にそう。まるで兎のようだ。

 この前のイベントでも、いい出逢いは無かった。要するに、好みのタイプの男性が居なかったのだ。

 またの機会に期待するしかない。
 それと、弟にLINEで訊いてみた。
<訊きたいことがあるんだけど、お前はゲイか? 僕はゲイだ>
 今は夜10時過ぎ、1時間くらい返信が来るまで待った。
<何だよ、急に。兄貴はゲイなのか! 俺もゲイだ!>
<そうなのか! やはり、兄弟だな。血は争えない>
<兄貴に彼氏はいるのか?>
<いないよ、募集中だ>
<俺は彼氏いるぞ!>
<おっ! そうなのか! いいなぁ>
 弟は僕の1つ年下の25歳。彼は東京渋谷区に住んでいる。その地域は同性婚も確か、認められているのかな。好きなひとと籍を入れられるなんてこの上ない幸せだ。羨ましい限り。

 翌日、僕は休みだ。9時頃起きて、お腹が空いていたのですぐに朝ご飯を食べた。それから自室に戻り、趣味で小説を書いているので続きを書き始めた。いま書いているジャンルはミステリーで初の試み。果たして上手く書けるかな。まあ、最初から上手く書けるひとはいないから、インプットしながらアウトプットしていこうと思う。その為には、読書が必須。その他にはいろいろな体験をすることも大切だろう。会話をしたり。地道にやっていけば効果はあるはず。

 小説を書くのもいいが、やはり僕は出逢いを求める。イベントで知り合ったバイセクシャルの男性にLINEを送ろう。
<こんばんは! いかがお過ごしですか? 今から会いませんか?>
 返信は数十分後にきた。
<いいですよ。今からですね、どこで待ち合わせしますか?>
 結構簡単に会ってくれるんだな、まあ、1度イベントで会ってはいるけれど。彼は僕のことをどう思っているのだろう? 気になる。僕は、今後の発展を期待して今回誘ったのだけれど。とりあえず夕飯を一緒に食べながら様子をみよう。
<この町の中学校の近くにあるコンビニで待ち合わせしませんか?>
<わかりました>
<夕飯を一緒にどうですか?>
<あっ! いいですね、そうしましょう!>
「何か食べたいものはありますか?」
<うーん、そうだねぇ。ラーメンたべたいなぁ。どこか、旨い店知ってますか?>
<そうですね、知ってますよ。何回か行ったことのある店です>
<なら、美味しいんでしょうね、そこに連れていってください、自分は車ないので>
<じゃあ、僕の車で行きましょう>
<よろしくね>
 LINEを終えて僕は着替えた。赤いTシャツに黒いジーンズを履いた。髪はピンク一色で洗面所にある鏡の前に行き、とかした。
 よし! バッチリだ、行こう。そう思い、僕はピンクのトートバックにピンクの財布、ピンクのスマホを入れ鍵は手に持ち、部屋を出て家の鍵をかった。外に出て目の前にあるピンクの乗用車に乗り、勢いよくバックした。だが、後ろをよく見ないでバックしたせいで走って来た車に衝突してしまった。僕は焦った、どうしよう……。とりあえず、車を元の場所に停めて外に出た。相手も車から降りて来た。開口一番、
「おい! 貴様! どこ見て運転してるんだ!」
 と、怒鳴られた。
「す、すみません……。決して業とじゃないので……」
「当たり前だ! 警察を呼ぶからな!」
「は、はい……」
 5分ほどでパトカーが2台やってきた。
 警察官が左側に路上駐車し、僕と僕より少し年上に見えるお兄さんがそれぞれパトカーに乗り、事情聴取された。免許証も要求されたので自分の車に戻り免許証を取って再びパトカーに戻った。訊かれたことに答え、警察官は免許証を見ながら何やら紙に書き込んでいる。10分くらいで解放された。僕は警察官に、「この車どうしたらいいですか?」と訊いた。警察官は苦笑いを浮かべながら、「車、保険に入ってないの? 保険屋に電話したらは?」と言われた。そういえば、この車の保険の話ししてたな。親に言ってみよう。その場で父の携帯電話にかけた。数回目の呼び出し音がなり、繋がった。
「父さん」
『何だ、どうした?』
「家の前で事故っちゃって……」
『は? 何ですぐそばにいるのに呼ばないんだ! 全然気が付かなかったぞ! 今行くから待ってろ』
 車好きの父にこの車を見られたら怒るだろうなぁ……。
 すぐに父は出て来た。
「どこぶつけたんだ!?」
「うしろ」
「あっ! こんなにへこんで! 何やってるんだ、保険使わないと払えないだろ!」
 父は激怒している。少し、怖い。
「保険使ったらお金払わなくていいの?」
「そうだけど、等級が下がるだろ、相手の車も直してやらないといけないし。修理代は自分もちだぞ? 払えないだろ?」
「分割なら払えると思うけど」
「仕方のないやつだ! クレジットカード持ってるなら、それで分割で払え」

 とりあえず、保険会社に電話をし、事故った旨を伝えた。事務所に来て欲しいと言われたので行くことにした。

 事故った車で行くのは恥ずかしいが、仕方がない。
 5分程走って到着した。事故車から降り、事務所に入った。
「こんにちはー」
 入口で挨拶すると、中から担当者が出て来た。
「どうもー。こんにちは。怪我しなかったですか?」
「それは大丈夫なんですが、父に叱られました」
「まあ、それは仕方ないですね」
 担当者は苦笑いを浮かべていた。

 保険会社の事務所で保険を使う手続きをし、一旦、自宅に戻った。これからは、父と一緒に板金塗装の会社に行って修理してもらう。父の知り合いらしい。

「はあ……約束したのにいけないな、これじゃ」
 友だちに事故って行けなくなったと、LINEをした。友だちは、
<そうなんだ、大丈夫? けがなかった?> 
と、心配はしてくれたものの残念でたまらない。だから行くとしたら徒歩で行くしかない。それも伝えると、
<うん、じゃあ歩きますか>
 理解力のある友人でよかった。ありがたい。
 一応、父にも友だちと出掛けてくる、ということを伝えた。すると、
「歩いていくのか?」
「うん、そうだよ」
「女か?」
「いや、違う」
「そうか、気をつけて行くんだぞ」
「わかった」

 こうして父とのやりとりは終わった。これでようやく出掛けられる。ようやくだ。

 15分くらい歩いて中学校の近くのコンビニに着いた。彼はまだ来ていないようだ。少し待つか。

 それから約5分後彼が来た。青いTシャツにグレーのカーゴパンツを履いていてカッコいい。髪型は金髪で前髪が目に被さっていて髪が刺さらないか気になった。訊きはしないけれど。細身だ。見た目はイベントがあったときよりいい感じだ。思わず好きになりそう。いや、好きになってもいいと思う。彼はバイセクシャルだから。もしかしたら、もしかするかもしれない。

「こんばんは! お久しぶりですね」
 僕はそう言った。
「お久しぶりだね。元気してた?」
「元気だけど、車の修理代が大きくて」
「うーん、それは仕方ないよね。今度から気を付ければいいことだと思うよ」
「ですね。じゃあ、行きますか」
「うん」

 僕と友達は歩いてたまに行くラーメン屋に向かった。
 約30分くらい歩いて目的地に着いた。いい匂いが漂ってくる。僕は食べるメニューをすでに決めていた。味噌ラーメンと炒飯。混み具合いはどうだろう? 駐車場には5~6台車が停まっている。その中に、大型ダンプもあった。ナンバープレートを見てみると、札幌ナンバーだ。この辺のひとじゃないことはわかった。荷台を見ると、砂利が積んである。僕が大型ダンプを見ていると友達は、「どうしたの?」と、訊かれた。「いや、なんでもない。どこから来たダンプかな? と思ったから見てた」友達は、「そうなんだ」と、言った。
 ラーメン屋のドアの前に立つと、自動ドアだった。中に入ると、熱気がすごい。でも、美味しそうな匂いが店内を充満していた。
「いらっしゃいませー!!」
 勢いよく店員の挨拶が聞こえた。僕達に近づいてくるなり、
「2名様ですか?」
 と、訊かれたので、
「はい」
 答えた。
「奥の席どうぞー!」
 そう案内されたので奥に行った。店員は、
「ご注文がお決まりになりましたら、そこの赤いボタンを押して下さい」
 言って、店員は別のお客さんの接客をしていた。
「僕はもう決まってますよ」
 笑顔でそう言った。
「さすが、来てるだけのことはあるね」
 僕は思わず笑みをこぼしながら、
「ありがとう」
 と、言った。
「俺は醤油ラーメンの大盛りと、餃子とライスの大にするかな」
「結構食べますねえ」
「腹減ってるからね」

 混んでいたので、注文したものがくるのに30分くらいかかった。
 食べ終えるまで約1時間かかった。彼は、「腹減ってるのに来るのおせえ!」と息巻いていた。
 2人とも完食した。
「ふー、旨かった」
「美味しかったですね」

 僕としては、彼と気持ちを共有出来たことが嬉しかった。これからも、彼と一緒にいろいろな所に行きたいと思う。あわよくば交際出来たらなぁとも思っている。
 辺りは暗くなっていて、道路を走る車のライトやお店の灯りだけになっていた。
 今後の僕らの付き合いが長く続けばいいな、と思っている。
 空を見上げると三日月が見えた。
 今後の動向が気になるけれど、焦ってはいけないと思い彼に一瞥をくれた。

                              (終)

 


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?