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友達と恋愛 3話 友人との食事

 俺は約10分後、紗江のアパートについた。アパートの反対側に車を停め、

<着いたよ>

 と、いうLINEを送った。LINEは既読が付き、

<今、行くから>

 という返事が来た。

 5分程待って、彼女は出て来た。クリーム色ベースのセーターを着ており、黒いショートブーツを履いている。膝上から下は素足だ。思わずそそられた。

 たまに紗江とご飯を食べに行く時も俺の車だ。だから、慣れたもので、俺の車の助手席に香水の匂いをプンプンさせながら乗った。

「紗江、飲み屋のおねえちゃんみたいだな」

「え? そう?」

 俺は足を見ながら、

「ああ。生足が何とも言えん」

 彼女は笑い出し、

「おっさんみたいなこと言わないでよ」

 と、言った。

「まあ、四捨五入したら30だからおっさんかもな」

俺はそう言いながら笑った。

「そこで四捨五入する必要はないよ」

「そっか」

 と、言って爆笑した。

「ところで何食べる?」

 俺が訊くと、

「お肉がいい!」

 紗江はハイテンションで答えた。

「杏沙ちゃんは来れないのか?」

 紗江は少し考えている様子で、

「あの子は実家暮らしだからねぇ、来れないかも」

 と、言った。仕方ないな、と俺は思った。

「親がうるさいのか?」

「あたしもよくわからない」

 そうかぁ、と返事をしたあと、

「焼肉屋か? それともたまに行くハンバーグ屋か?」

 紗江は迷いもなく、

「焼肉屋ー」

 そう答えた。

 俺は、車を発進させた。焼肉屋でビールを飲めるのは紗江だけ。俺は運転だから飲めない。代行も頼めるが、そこまでしなくてもいいと思った。

 以前、友人と行ったことのある焼肉屋にいくか。俺は腹が減ったからライスをメインに食べよう。いくら割り勘でも、高額になるのは避けたい。俺は今月、金欠だから。給料日は毎月15日だ。今日は12月4日だから11日後だ。余裕はあまりない。一緒に食べる相手は女だ、そんなに食べないだろう。でも、どれだけアルコールを飲むか分からない。だから、支払いが恐ろしい。まあ、自分で食べたり飲んだりした分は自分で払うだろう。

 俺は紗江に、呼び出しのボタンを押してくれと頼んだ。はいよ、と返事をした紗江はテーブルの右端にある赤いボタンを押した。少しして赤いエプロンをした店員がやって来たので、俺たちは注文した。

「カルビ2人前、タン2人前、ホルモン2人前、あとライスで。飲み物は紗江、ビールでいいのか?」

 彼女は頭を縦に振った。

「あと、ビール1つと、ウーロン茶1つ」

「かしこまりました」

 言ってからその若い女性店員は厨房の方へと戻って行った。

 紗江がこちらを見ている。どうしたのだろう。

「お酒飲まないの?」

「俺、運転だから飲まないよ」

 紗江はクスっと笑い、

「真面目だね」

 と、言った。

「そこはな、捕まって免停になるのは嫌だから」

 確かに、と紗江は呟いた。

「杏沙ちゃんって子はどんな子か見てみたかったな」

 紗江は俯いた。どうしたのだろう。

「あたしの車が直ってからになるかなー」

 そう言った。

「俺の車じゃ駄目なのか?」

 そう訊くと同時に、先程の女性店員が飲み物を運んできた。

「ビールとウーロン茶になります」

 女性店員は、ビールを紗江の前に置き、ウーロン茶を俺の前に置いていき、

「今、お肉をお持ち致しますので、少々お待ち下さい」

 と、言って忙しそうにいなくなった。

 隣との席は屏風のようなもので仕切られている。結構古い造りの店だ。店主は俺を裏切った健太の父親だ。どうしてそんな奴の父親の店に来たかというと、肉は上手いし安くしてもらえるからだ。

健太とはまだ仲直りしていない。旅館のキャンセル料はとりあえず、俺が全額払っておいた。後から半分もらうつもりだ。

「ここの肉、旨いんだぞー」

「そうなんだ、楽しみ」

 紗江は笑顔を浮かべている。相変わらず、綺麗な顏をしているな、と思った。でも、俺は面食いじゃないから、いくら顏が綺麗でも性格が不一致だったら好きにはならない。紗江とは性格の不一致とまではいかなくても、彼女は少々、自分さえ良かったらいい、という部分がある。だから、遊んだりはするが恋愛感情には発展しない。友達止まりだ。紗江の方からも恋愛の話はしてこないし。これでいいのだ。

 少しして、さっきの赤いエプロンをした女性店員がやって来た。両手に肉を乗せたトレーを運んで来た。まずはカルビの二人前を。

 その女性店員は、焼き台を上げて、先の長いライターで火を点けていった。

「ごゆっくりどうぞ」

 ふわっとした笑顔でそういうと、次の肉を取りに行ったのだろう。去って行った。

「食べようぜ!」

 と、俺は言いながらカルビを鉄板に乗せた。紗江は玉葱を乗せている。

「あたしは玉葱をメインに食べるわ。勿論、お肉も食べるけどね!」

「遠慮せず、沢山食えよー」

 紗江は笑みを浮かべながら、

「ありがと」

 そう言った。

「カルビが焼けてきたから、食べる前に乾杯しようか」

「そうね」

 俺と紗江はグラスを持って、

「カンパーイ!」

 と、言いながらグラス同士を軽くぶつけた。カチンっと高い音がした。俺はウーロン茶を一口飲み、紗江はビールをゴクゴク飲んでいる。いい飲みっぷりだ。

「ぷはー! 生ビールはやっぱ、美味しいわ」

 俺は飲みたい気持ちを抑えている。

 焼けたカルビを2、3枚タレの入った皿に乗せ、食べた。

「旨っ!」

 紗江もカルビと玉葱を皿に載せた。食べてみて、

「ホント! 美味しいね!」

「だろ? 俺もビール飲むわ。我慢出来ない」

「じゃあ、帰りはハイヤー代行?」

「そうだな」

 俺は腕を伸ばして赤いボタンを押した。ピンポーンという音が鳴った。店の従業員達は、

「はーい! 只今参りまーす!」

 と、威勢のいい声が聞こえてきた。そして、先程とは別の若い男性店員がやって来た。

「はいっ! ご注文でしょうか?」

「ビール1つ」

 そう注文した。

 次に店員が来た時は2人だった。先程のように、両手にトレーを乗せて肉を持って来た人と、ビールをジョッキで一杯、ステンレスのトレーに乗せて運んで来てくれた。

「久しぶりの焼肉だ! 飲むぞー!」

「あたしも!」

 そう言って俺達はバクバク食べながら飲んだ。

 久しぶりに食べた焼肉は旨かった。ビールも冷えていて最高だ。全て食べ終え、ビールも2人で6杯くらい飲んだ。紗江もかなり酔ったようで、こちらを見ながら笑っている。きっとその笑みに意味はないだろう。酔っているからだと思う。

俺は、煙草に火を点けた。紗江は、相変わらず笑顔を浮かべながらこちらを見ている。

「どうした?」

 俺も笑顔で質問をした。

「楽しかったね! ありがとう」

「俺も楽しかったよ!」

「なら、良かった」

 店員に、代行を呼んでもらい、俺達は支払いのため、レジに向かった。紗江は少しふらついていた。ビールのせいだろう。俺も同じだ。

「転ぶなよ」

 と、声を掛けると、

「ありがとう」

 そう返事をした。

 会計は1万円を少し超えたくらいだった。5千円ずつ出し合って、足りない分は俺が出した。俺は、また来たいと思っている。きっと、紗江も同じだと思う。暖簾をくぐって奥から顏を出したのは健太の父だ。

「おっ! 竜也、来てたのか」

「あ、おじさん、こんばんは!」

「なんだ、今日は女連れか」

 俺は苦笑いを浮かべた。

「彼女ではないですよ」

 おじさんは笑っていた。

「また来ますね。今は代行待ちです」

「そうか、寒いし道路凍ってるから気をつけろよ。じゃあな」

 そう言って、おじさんは暖簾の向こうに戻って行った。

 それにしても、楽しい時間は経過するのが早い。まあ、そんなものだろう。次、遊ぶ時は、杏沙ちゃんもいたらいいなぁ。

 そういえば、紗江に質問して、まだ答えてもらっていないことがあったことを思い出した。店のカウンターから離れて、代行を待つことにした。

「紗江」

「うん?」

「杏沙ちゃんと遊ぶの俺の車じゃ駄目なのか?」

 少し考えている様子で、

「うーん、駄目じゃないとは思うけど、竜也の車は初めてだし、竜也に会うのも初めてだから緊張するかな、と思って」

「まあ、確かに」

「今のおじさんが、竜也の友達のお父さん?」

 俺は笑顔で頷いた。

「そう。それで、杏沙のことだけど、あたしの車の修理が出来上がるまで待ってよ」

「わかったよ」

 その時だ。

「代行でーす」

 と、運転手が来た。

「俺らです」

「どうぞ」

 そう言って店を出た。

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