宮下隆二『イーハトーブと満州国 宮沢賢治と石原莞爾が描いた理想郷』

 法華経を絶対視して『立正安国論』で仏教的ユートピアを唱えた日蓮を信奉する宗教団体・国柱会にそれぞれ入信していた宮沢賢治と石原莞爾。詩人・作家・教員の宮沢と軍人の石原で立場は異なるが、いずれも東北出身であり国柱会の影響下でイーハトーブ、満州国という理想郷を思い描いた共通性を古川日出男『おおきな森』は、モチーフとしてとりこんでいた。同作で2人の対比に興味を持ち、そのことをテーマにすえた宮下隆二『イーハトーブと満州国』に手を伸ばした。
 著者は、宮沢賢治、石原莞爾だけでなく北一輝、井上日召という日蓮主義に連なるものが活動し、創価学会、霊友会、立正佼成会という法華経系教団が相次いで立ち上がった昭和初期を「法華経の時代」と呼ぶ。この本を読むと、この国における日蓮および『立正安国論』の影響の根深さを感じる。
 そういえば映画『人間革命』で創価学会第二代会長の戸田城聖を演じた丹波哲郎は、映画『日本沈没』(音楽は『ゴジラ』で有名な伊福部昭)では消滅する列島から国民を避難させようと奮闘する首相役を、映画『ノストラダムスの大予言』では予言詩を参照して人類滅亡の危機を警告し国会で演説する環境学者役を務めたのだった。そのように一人の同じ俳優が宗教と政治の両面で憂国の情を説いたこと、また3つの映画の政策がいずれも田中友幸であり、『人間革命』と『日本沈没』のシナリオがどちらも橋本忍であったこと、『人間革命』と『ノストラダムスの大予言』の監督が舛田利雄だったことは、宮沢賢治と石原莞爾の意外な共通性にも通じているようで興味深い。

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