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ライアーゲーム〜もしもあの3人がJCSポケカ部門に出場していたら



2024年6月横浜。
ポケモンカード・ジャパンチャンピオンシップ2024が開催。

およそ2000人の猛者が凌ぎを削る予選DAY1。
天才的な頭脳を持つ秋山深一(アキヤマシンイチ)の助言を受けた素直すぎる一般的な女子大生、神崎直(カンザキナオ)は愚行とも思えるエネルギー30枚入りのミライドンデッキを駆り、強者たちを後1で薙ぎ払い続け見事DAY2進出を決めていた。


「秋山さん!DAY2進出おめでとうございます!全勝だなんて流石です!」


「ああ」


「ほんとにすごいです!私、あんなにエレキジェネレーター当てたのに2回も負けてしまいました。秋山さんはこの調子なら無料ホノルルも目の前ですね!」

「そう簡単にはいかないんじゃないかなあ」

背後から急に現れた。
いやらしい声、時代遅れのキノコ頭。
福永ユウジだ。

「秋山、キミのリザードンデッキは確かに強力だけどオレのカビゴンとの相性はサ・イ・ア・ク。たまたま今日はオレと当たらなかったから全勝しているようだけど、明日当たったその時は・・・?
ンンンンンンん!!!!勝つのはオーレ!オレ様!アハハハハハハハ
フゥォオオオオオオオゥウウウウゥ!!!」


無駄に高いテンションで煽る福永。
そんなハイテンションに動じることもなく、秋山が冷たく応える。

「随分余裕だな、福永。明日はデッキを変えることができるのを忘れたのか?」

「いや〜あまりにも余裕だからさ。この優しいオレ様は使用デッキを公開してあげることにしたんだよ〜ん。・・・まあせいぜい俺と当たらないことを祈りなよ。優勝は明日、俺がいただいちゃうからさ」

じゃあね、ナオちゃん。
そう言って福永は夜のみなとみらいに消えていった。


直は不安になった。確かに秋山の今のデッキでは福永のカビゴンLO相手には分が悪い。

「秋山さん、どうするんですか。確かにリザードンだと福永さんには」

「慌てるな」
そう嗜めると秋山は続けた。


「・・・福永はカビゴンを握らない」


え、と声が漏れる直。

秋山はたんたんと続けた。

「このJCSポケカ部門。DAY1とDAY2は似ているようで全く別物のルールになっている。DAY2はBO3、つまり3回勝負。ここまではわかるな」

はい、と小さな声で頷くことしかできない。どんな説明が待っているのだろう。

「大事なのはここからだ。3回勝負ということは基本的には2勝できれば勝ち。そして制限時間の50分間をたっぷり使っての1勝0敗での勝ち上がりも認められている。しかし今回のルールでは勝ち点というものが導入されている。2勝0敗なら勝者に5点。2勝1敗なら勝者に4点、敗者には1点。1勝0敗なら勝者に3点入る。というルールだ。どの勝ち方に1番価値があるか理解できるか」

「えーとつまり、2連続で勝利するのが1番価値が高くて、同じ勝利でも1回しか戦えなかった時の勝利は価値が低い。ってことですよね」

「その通り。そして福永の使うカビゴンLOはどうしても時間がかかってしまうデッキ。勝ったとしても勝ち点は3で勝利の価値が薄く合理的ではない。アイツは非合理な戦い方はしない。合理づくめの男だ。」

直が理解するまでのほんの少しの間をあけて、最後に秋山は結論を言い放つ。


「つまり、福永はDAY2でカビゴンは握らない。」


「でも、さっき福永さんカビゴンで戦うって」

フフ、と秋山が笑った気がした。いや、少しバカにしているのだろうか。


「お前は相変わらずだな」


相変わらず・・・?どういうことだろう
それよりも・・・


「では福永さんは一体どんなデッキでくるんでしょうか」


あの自信たっぷりの態度。とても無策とは思えない。あの福永さんのことだ。勝算があるに決まっている。私は不安でたまらない。

───なのに。

目の前のこの人はなんでこんなにも自信たっぷりで笑みを浮かべているのだろう。


「もしかして、秋山さん・・・」


「ああ」


もう私はこの次に来る言葉を予想できる。





「福永に勝つための必勝法がある」




「秋山さん、ありがとうございます!」

JCS2日目。
会場で落ち合った直は挨拶もないまま感謝を述べた。

「いきなりだな、どうしたんだ」

「私、昨日一晩よく考えたんですけど、DAY2に残れているのが信じられなくって。でも秋山さんがいてくれたからここまで残れたんだな、って思ったらお礼を言いたくなったんです」

「やっぱり変わらないな」

やはりどこかバカにしたような笑い方をする秋山。だが不思議と不快感はない。

「礼を言うのはホノルルが決まってからでいい。昨日より厳しい戦いになるが、今日も勝つぞ」

「はい!!!」

「・・・そろそろだな」

スマートホンに対戦相手が表示される。

「知らない人だ・・・。テラダケイトC・・・?Cってなんのこと・・・ですかね?秋山さんはなんて人と当たりましたか?」

少し間が空いた後、秋山は無言でスマートホンを直に見せた。

「これって・・・!」

画面には
フクナガユウジ
と表示されている。

「勝ってくる」

そう言い残して去ろうとする秋山。

「待ってください!結局必勝法ってなんなんですか!教えてください!」

結局、昨日は必勝法の詳細については聞けず仕舞いだった。
秋山のことは信用している。だが、相手はあの福永だ。どうしても不安が過ぎる。一筋縄で行くはずがない。


「お前のおかげで俺は勝てる」


え。
あまりに意外な言葉に直は言葉が詰まる。

「どういう意味・・・」

「お前は自分の戦いに集中しろ」

そういうと秋山は会場の人混みの中に消えていった。

改めて考えても意味がわからない。
私が秋山さんのために何かできただろうか。
わからない。
わからないけども。

「・・・私も勝とう。」

鼓舞するように呟き、直も戦場へと向かった。



「対戦ありがとうございました!」

開始時間5分。種切れ2回で即勝利を収めた直は秋山を探しに向かった。

福永さんはどんなデッキを使うのか。
秋山さんの言葉の意味は。

頭に浮かんでは消える不安と疑問。

その答えは2人の戦いを見届けることでしか払拭されない。

「いた」

戦っている2人を見つけた。
近づいていくと秋山の場が見えた。
悪タイプのリザードンex。昨日の同じ、秋山の得意デッキだ。

そして

「嘘でしょ・・・」

福永のバトル場を見てつい声が出てしまった。


そこには、このDAY2にいるはずのないカビゴンがいた。



「アレ?ナオちゃん〜?もう終わったのかい?早いね〜」

対戦中であるにも関わらず、余裕の笑みを浮かべながら福永が話しかけてくる。

「福永さん!そのデッキ・・・」

「ン〜??言ったでしょ〜???カビゴンLOを使うって」

確かに言ってはいたが、秋山が説明してくれた理論も正しかったはず。ではなぜ・・・?

「不思議そうな顔しちゃってるね〜???DAY2のルールだとカビゴンLOは弱い。だから俺は使わない。そう思ったのかもしれないけどンフフフフ。アハハハハハハ。ほんとうに君たちって!バーカだーよねええええええええええええ!!!!!!!!」

「・・・番を返す。」

テンションが高い福永と静かに宣言をする秋山。

「福永さん!1-0で勝っても勝ち点は3で価値としては低いはずです!どうして!」

「勝ち点3ならね。」

急に冷たく返す福永。

「でもさあこれ、勝ち点3にする人っているわけなくない????」


「・・・どういう意味ですか」

「本当にナオちゃんはバカだなあ。いいかい?確かに1-0した場合の勝ち点は3で勝利の価値としては1番低い。でもね??負けた相手からしたら"2勝1敗だったこと"になれば僕には4点。負けたやつにも1点入ることになる。つまり、1-0よりも2-1の方が双方に得になる。事実上、1-0の卓はあり得ないんだよ!実際に1-0になっちゃっても2-1だったことにして勝敗登録を済ませてしまえばいい!!!俺って頭良い〜!!!!」

「そんな、相手がそんなの了承するわけが」

「了承"しない"わけないよね??だって勝ち点0より1の方が価値があるんだから。」
「ルールの取り決めによってカビゴンLOは窮地に追いやられた。でもそれは裏を返せばカビゴンへの警戒は緩んでより勝ちやすいデッキになる、ということ。後はルールの穴をついてじっくりゆっくり息の根を止めるだけ。」
「ルールはね??穴を突くためにあるんだよ」
「そして秋山!お前は俺にまーけるんだよ〜ん」

勝利のカラクリを一気に捲し立てる福永。
とても試合中とは思えない。勝ちが確定しているかのような余裕だ。

「少し黙ってろ福永。俺のターンだ」

「はいはい〜どうぞどうぞ」

余裕綽々の福永。それに対し秋山の感情は読めない。

「フトゥー博士のシナリオを使い、バトル場のマナフィを回収。リザードンでカビゴンを倒す。」

「お、フトゥー2枚も持ってたんだ。良いデッキだね。じゃ、俺のターン。お囃子笛を使って・・・お、じゃあロトムVを2体お前のベンチに出せ!か〜ら〜の、カウンターキャッチャーでロトムVをバトル場に!そして野盗三姉妹!ともだち手帳をトラッシュに置け!!!!」

「くっ・・・」

「もうこれでお前のデッキにロトムを逃して俺のサイドを取り切る手段はない!完全ロックの完成だっちゅ〜のおおおおおおお」

「・・・本当にそうかな」

福永の顔から笑みが消える。

「福永。お前は俺に勝てない。」

「いつまでも強がっていられると思うなよ秋山ァ!!!」

「俺のターンは終わりだ」

15分経って残り時間は35分。まだ秋山はまだサイドを1枚しか取れていない。

トラッシュにはフトゥーが既に2枚。手帳も落ちている。バトル場はロトムが完全にロック。普通のリザードンなら絶望的な盤面。


しかし

「秋山さんなら・・・秋山さんなら必ず勝ちます!」

「ホントにナオちゃんはバカだよね〜!!この状況、俺の勝ちは決定してるのがわかんないかなあ???」


「いや」
「この勝負。俺が勝つ」

「だ〜か〜らぁ。やれるもんならやってみろよおおおおおおおお」

熱を帯びる2人。しかし盤面は硬直したまま既に30分が経過していた。

「俺はナンジャモを使う」

「いいのか??時間がかかるだけでお前の不利な状況は変わらないぜ???詰んでるんだからさあ」

お互いの手札がリフレッシュされ、山札に枚数が戻る。

「言っておくけどさあ〜俺もうロトムもイーユイも出さないぜ??黙ってカビゴン以外出さずにおけば俺の勝ちだし。いくらナンジャモ使われようが50分の前にはお前の山札は尽きる。それくらいの計算はできるんだよね〜。お前にもできると思うけどさあ!」

「・・・ターンエンド」

「これはほんとにほんとにマジな話でさ、今すぐ投了した方が次わんちゃん勝てる可能性あるんじゃないの??ねえ?秋山くん」

「・・・」

「あれ???負けそうになると黙っちゃうタイプ????ネクラだなあ。ナオちゃんも見てるのに。さっきまでの威勢はどうしたの???」


「・・・秋山さん」

私のおかげで勝てるってどういう意味だったんですか。
わからない、わからないけど。
最後まで信じたい。

だけど・・・。

『残り時間3分です』

無常にも制限時間が迫ってくる。まだ秋山のサイドは5枚。

「のんびりやっちゃったけど残り3分ならOKかな。んじゃイーユイ出して手張り。ボタンでカビゴン回収〜。ねたみこがすでお前のデッキはゼ〜ロ〜。対戦ありがとうございました♪」

「・・・次のマッチだ」

「ハイハイ、じゃシャッフルしてっと。それじゃあ1敗したお前が先攻後攻選びな。

「先攻」

「じゃ7枚引くぞ〜!ぽ・け・も・ん・か・あ・どっと。あ!」

福永のニヤケ顔が一層ニヤける。

会場にタイマー音が鳴り響いた。

「・・・そんな」

決着がついてしまった。
1戦目でLOが決まり、2戦目は対戦することもなく終了。


この瞬間、秋山深一はゲームに負けた。



「イェーイ!俺の勝ちぃィィ!!」

「・・・」

喜びに舞う福永と無表情の秋山。

直は目の前の信じ難い光景を受け入れれずにいた。
「秋山さんが・・・負けるなんて」

「いや〜俺も実はけっこうビビってたんだけどね??いざ蓋開けてみたらリザードンなんだもん!しかもマナフィスタートしてるし、速攻で手帳落ちちゃうし!あの秋山にこんなに楽勝できるなんてホントついてる部分もあったよね〜!!!でも、ここはこのルールの穴をついた戦法を思いついた俺の方が上手だった、ということで!!!」

流石にイラついているのか、福永を睨む秋山。
しかし、今の福永には何の影響もない。

「睨んでも睨まなくても俺の勝ちは変わらないんだからさあ??仲良くやろうぜ秋山。それじゃあ2勝1敗ってことでさ、勝ち点1上げるからこの先もがんばろ!な!!!!う〜ん、俺っていい奴だな〜!!!」


「おい、今なんと言った???」

「え?俺って良いやつだな〜って」

「その前だ」

「は?ルール知らないのお前??2勝1敗だったことにしてやるよ、その方がお前も得だろ??」

「そうか。そうだよな。フフ。アハハハハ」

「え?今さら理解した感じ???アハハハハハ」

『アハハハハハハハハハハ!!!!!!』



ダンッ!!!!


突然立ち上がる秋山。

そして。




「ジャッジーーーーー!!!!!!!」



秋山さん。こんな大きい声が出るんだ。と場違いな感想を直は抱いていた。



今、秋山は
ジャッジを呼んだのだ。



すぐに近くのジャッジがやってくる。

「対戦相手に虚偽の対戦報告を提案されました。」

秋山は、淡々とジャッジにそう言った。

「はあああああああ?????」

混乱する福永。
「お前、自分の勝ち点いらないのかよ!?!?」

「誰が勝ち点をいらないと言った?」

秋山は冷静に続ける

「まず、お前がDAY2でもカビゴンを使うことはわかっていた。ルール上カビゴンが不利だからこそ、1-0での勝利を狙うなら警戒が薄くなっているカビゴンは刺さりやすい。1-0した上で2-1に持っていく交渉ができれば、ルール上でのカビゴンの不利要素は消える。お前がそう考えるのは自然なことだ。そしてこのルールは敗者であっても1-0よりも2-1の方が得なシステムであるから、お前は交渉は可能と考えた。合理的な思考ができる人間であればあるほど、この交渉は通りやすい。
だから当然、お前は俺に虚偽報告を持ちかけた。今までのライアーゲームを通して俺が合理的思考をすることをお前はわかっていたからな。」

「だか、そのライアーゲームが仇となった。俺たちはルールの穴をつくことに慣れすぎていたんだ。」

秋山が続ける。

「福永、俺たちが今やっているのはライアーゲームじゃない。"ポケモンカード"なんだ。」

「ルールは穴を突くためにあるもんじゃない。ルールは守られるためにあるんだ。コイツが俺にそれを教えてくれた。」

直の方に目をやる秋山。

「そうです。黒いことして手に入れる勝ち点1よりも、正々堂々勝負をし、相手の不正をジャッジに適切に報告。その上で手に入れる真っ白な勝ち点5。どっちの方が人として正しいかは明確なはずです。」

自分の心情をただただ述べる。
きっと、これが正しいのだと信じて。

「これがお前と戦う時の必勝法だ」

「何が真っ白だ!!!!!何が必勝法だ!!!!最初からジャッジキル狙いのどこが正々堂々だ!!!!」

キレる福永。

「いや?俺は最初から正々堂々戦うつもりだったさ。だがお前の昨日の発言から、1-0狙いののプレイングをすることはわかっていた。実際にプレイしていても時間以内に2回LOする勝ちプランが見えなかった。だから俺もわざとお前のプランに乗らざるを得ない盤面や残り時間にしつつも、お前に勝つ!と宣言しプレッシャーを与えて、イーユイで山を削らせる強気な選択を選ばせないようにした。1-0プランに乗せられていたのは本当はお前だったんだ。」

複数人のジャッジで相談していたようだが、1人のジャッジが近づいてきてこう言った。


「フクナガ選手の虚偽報告の提案は非常に悪質なものとみなし、失格処分。勝敗はアキヤマ選手の勝ち点5での勝利とします。」




「福永」

「お前の負けだ」





「クッソオオオオオオオオオオオオ」


福永の絶叫がこだまする。



失格になった福永は屈強なジャッジ達に掴まれて会場の外に連れ出されようとしていた。

暴れる福永。しかし屈強なジャッジ達は屈強であり、屈強だ。

「待ってください!!!」

屈強なジャッジ達を直は呼び止めた。

「福永さんを、失格にしないでください!お願いします!!」

ジャッジも秋山も、そして福永さえも、この直の行動に驚いている。

「確かに福永さんはルールの穴をついた戦略を使ってしまいました。でもDAY1でも同じデッキを使って、福永さんはちゃんと制限時間内に勝っているんです!だから、きっとこの先の戦いでは、1-0に持ち込んで交渉なんてせずに正々堂々と2回も3回も戦ってくれると思うんです。」

「ナオちゃん・・・」

「福永さん。カビゴンLOは確かにDAY2のルールに正面から立ち向かうと不利かもしれません。でも、福永さんのプレイングなら、このルールの中でもしっかり勝ち切ることができる。」

「だから・・・また私とも戦ってください」

「ナオちゃん・・・ごめん。ありがとう」

泣き崩れる福永。

屈強なジャッジ達も戸田恵梨香そっくりな女性の心からの優しさを無碍にできるほど屈強ではない。

福永はDAY2一回戦、勝ち点こそゼロの敗北だが、失格にはならずにこの先も戦う権利を得た。


「たくっ、ほんと相変わらずだな。不正したやつを庇うとロクなことにならねーぞ。追放して、根絶やしにしないと意味がない」

呆れたように秋山が叱る。

「私も不正はいけないと思うし、根絶やしにしたいと思っています。でも、私は私のやり方で不正を無くしていこうと思っています。」

「・・・そうか」

また呆れたように、そして少しバカにしたような笑みを秋山は浮かべる。

でもやっぱり不快じゃない。
そんな笑みだった。



「さ!まだまだDAY2は始まったばっかりです!目指しましょうホノルル!WCS!!!!」





※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。また、対戦中に私語をする行為、及び物語内で出てくる不正行為、煽り行為などは絶対にマネをしないでください。

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