おめでとう
記憶なんて朧気で、時には何かにすり変わってる事もある案外信用できないモノだ。
それでも俺にとって「いつも通り」の方がよっぽど怖いのは、人は時に不都合なものを「無かった事」にしてしまえるからだろうか。
俺が4歳の頃。
祖母の家に移住してから母から殴られる事もほとんどなくなって生活も安定した。
祖母の家にはよく親戚の従兄妹達が家に来て、大人の代わりに遊んでくれる。
その中で1番よく遊んでくれたのは、母親の2番目の兄の子どもである従兄(15)とその妹である従姉(13)。
けれど2番目の伯父さんは従兄にあからさまに冷たく、従姉に甘い。
さらには離婚騒動の事もあって、今思えばかなりのストレスが溜まっていたんだと思う。
殴られる事はないものの、従兄は俺に対してだけ「黙れ」「喋るな」と暴言を吐いてくるようになる。
しばらくして些細な事でボロクソに言われていた所を従姉に止められたからか、それ以来暴言はピタリと止んで2人きりになる事も特になかったので俺は油断してしまった。
彼が抱えているモノ、周りの大人が思うよりずっと凶暴だったのだ。
ある日、皆が買い物に出かけて俺だけ家に残っていた。
するとバタバタと慌しく家の中に入ってくる音と共に現れたのは、息遣いの荒い従兄。
嫌な予感がした俺が怯えながらも「どうしたの?」と聞いても返事はなく、従兄は俺の腕を掴み上げて無理やり立たせるとそのまま引っ張る。
連れて行かれたのは祖母以外ほとんど使う事のない2階。
いくつか客室があるが、位置的に誰かが帰ってきたとしてもその部屋に入ってしまえば助けを求めてもきっと誰も気付かないだろう。
絶対殴られると思いながら身構えてその部屋まで無理やり引っ張って来られると、鍵を閉められて客室のベッドに投げられる。
その勢いで上半身だけベッドにうつ伏せになるが、恐怖でその場から動くことができなかった。
従兄は中学3年生ながら身長もそこらの成人男性より高く、柔道部だった為体格も良い。
大人とはいえ身長も小さく華奢な母に殴られるのとはわけが違うのだ。
もしかすると今日殴られ過ぎて死んでしまうかもしれないと怯えていると、想定外の事が起こる。
従兄はうつ伏せで固まっている俺の上に覆いかぶさってきて、何やらカチャカチャと自分のベルトを外し始めた。
上から聞こえる荒い息と拘束された両手首、逃がすまいと押し潰すように圧迫されてる上半身から伝う体温を鮮明に覚えている。
結局自分が一体何をされてるのか分からないまま、俺は性欲のはげ口にされたワケだが、挿入が無かったことだけは救いだろう。
4歳で処女喪失とかしてたら、さすがに俺もマジで笑えねぇや。
「誰も言うなよ」
そう言った従兄との行為は、小学校に上がるまで続いた。
俺がこの記憶を思い出したのは、中学3年生の時。
元々男絡みで問題を起こしていた一つ下の妹の「売春」が発覚して、警察沙汰になった。
証拠である売春相手と妹の性的なやり取りを母の代わりに見て反吐が出そうになってる時に、俺はある言葉を目にする。
「内緒だよ(誰にも言うなよ)」
そのメッセージがトリガーとなって全てを思い出してフラッシュバックした俺は、風呂場に駆け込んで冷水を浴びながら何度も何度も体を擦った。
次の日、従兄は「いつも通り」俺を見かけると話かけてくる。
会話はすぐ終わるが、この「異常」な光景に冷や汗が止まらなかった。
その日から2年後、俺が高校2年生の時。
彼は動物病院の看護師と結婚した。
俺は「親戚」として彼の結婚式に行ったが、ほとんど誰とも話すこと無く升で日本酒をかちこむ。
行われた過去の行為については、その日に全て酒で流す事にしたのだ。
結婚おめでとう。
どうかお幸せに。
「いつも通り」の日々を楽しんでくれ。
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