熱情の想い出と熱情への思慕
「恋愛がテーマだし、多分自分には刺さらない」
この本を手に取ったときは、そう思っていた。
じゃあなぜ読んだかというと、ノーベル文学賞だし、フランスの作家だし、このくらいはフランス好きを公言している以上、読んでおかなくてはいけない気がしたからだ。
そんな不純ともいえる動機で読み始めた、アニー・エルノーの『シンプルな情熱』だったが、当初の予感を気持ちいいくらいに裏切ってくれた。
この作品は、アニー・エルノー自身が、外国から来たとある既婚男性への文字通り燃えるような恋に夢中に