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鈍色のトレンチコートとメタルフレームの丸眼鏡。
スタイリングのインテリっぽさを抑えるのは、耳元の黄色いまんまると枯葉を敷き詰めたような色のタッセル。
彼はこの丸を茶化して『栗の甘露煮』と呼ぶ。
私もわざと耳を出して出掛ける。
ロマンチックの欠片もない呼び名だけれど、二人向かい合ってくつくつ笑えるのが楽しい。
見上げれば、今日も悪戯っぽい目が私を見下ろしている。
「秋ですから」
ふふんと私が笑うと、お腹が空く秋ですからねぇと彼は嬉しそうに言った。
大きくて温かい手が私の手をすっぽり包み込む。
「さて、今日は何を食べに行きましょうか」
「どうしましょうか」
「あったまるものが良いね」
いつだって彼はもこもこの毛布みたいに私を甘やかすのだ。
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