孤独な男の子にサンタクロース?がやってきた

僕は本当に孤独だ。なんでこんに孤独なんだろう?僕の名前を呼んでくれる友達も居ない。何も理由がないのに、時々涙が出てくる。何も理由がないのに、時々怒り出したくなる。何も理由がないのに、差し伸べてくれた誰かの手を叩き飛ばして逃げてしまう。本当に孤独だ。でも悪いのは僕なんだ。周りの皆は、精一杯できることをやってきた。僕はその優しさを拒否し続けてきたんだ。僕のせいだ。涙が止まらない。カレンダーは12月24日だ。クリスマスイブの真っ最中。窓から道路を見下ろすと、皆楽しそうにしている。あちこちでイルミネーションがキラキラ光っている。友達と一緒に歩いている同年代。会話の内容は聞こえない。ああして、心を通じ合える人が居るのは、羨ましいな。2人で手を繋いでいる20代前半くらいのカップル。もはやその姿を見てもなんの感情も感じない。別世界から来たのだろうか。宇宙人と思うことにしている。どうせこの先の人生で、この手の「リア充」とやらと、接点があることなど絶対にないからだ。気分が悪くなってきて、窓を閉じて布団に寝っ転がった。また涙が止まらなくなった。両親も僕にはあまり関心が無いようだ。一応ご飯は食べさせてくれるし、必要最低限のことはやってくれる。でも、本当に必要最低限だ。良いことをしても褒めてくれたことなんか数えるほどしかないのに、悪いことをしたらこっぴどく叱ってくる。両親同士で会話しているのもあまり見たことがないし、なんで2人は結婚したんだろう?ってよく思う。でも、そういうことは聞きづらいから、聞いたことないけど。なんか疲れたな。スマホでも見るか。つまんないけど。結局、スマホの画面の向こうだって、学校の教室とか、窓から見える景色と何も変わらないんだ。SNSでは皆楽しそうにしている。僕は何も書くことがない。書くことと言えば、暗い悩み事ばかり。あまりに暗い投稿をしすぎるから、よくフォロワーが減る。誰がフォローを外したのかなんて、最近は怖くて見ることもなくなった。そんなことを延々と繰り返し考えはじめる。どうせ皆、僕なんかいてもいなくても何も変わらないと思ってるんだろ。僕なんかが消えても、少しほっとするんだろ。1週間もしたら、僕のこと忘れるんだろ。別にいいよ。僕は友達なんかいらない。勉強しまくって、いつか会社の社長になって、お前らなんかボロぞうきんのように使ってやるんだ。覚えてろよ。お前らなんか、友達じゃないからな・・・。「なにをそんなに独り言を言ってんの?」突然部屋に響き渡る声が僕の思考を一気に中断させた。「!?ごめんなさいお母さん!許してください!」反射的に布団に隠れる。「お母さんじゃないよ。大丈夫?」「え?」恐る恐る布団を取って見てみると、僕と同年代くらいの女の子がそこに立っていた。誰?大きなサンタクロースの袋を持っている割には、Tシャツとショートパンツってカジュアルな服装で、謎。でも、サンタクロースの袋を持ってるくらいだから、サンタクロースってことなんだろう。「私はサンタクロースだよ。」「は、はい。」「私は子供にプレゼントを配って回ってる。でも、今年はお前の家だけだね。」「僕の家だけ?」「そう。私は何もタダでプレゼントをあげるわけじゃない。子供の願いの力を代わりにもらってるの。」「そ、そうなのか。」「でも、近頃の子供は皆ダメだね。皆サンタなんかいないって思ってるし、なんかどこか冷めてるっていうか、現実的っていうか。ネットのせいか知らないけど。だから、お前の家だけ。」「な、なるほど。ありがとう。」「はぁ~。お前、プレゼントはどこ?って目をしてるね。お前、顔に出てるから見るだけで分かるよ。ちょっとはサンタとの会話を楽しんだらどうなの?ま、そういう子供、私は好きだけどね。」「ご、ごめんなさい」「謝らなくて良いよ。そういう子供、何万って見てきたし。ほら、欲しいものを言ってみなさい。お前の口で。」「欲しいもの?」「そう、欲しいもの。お前の願いの力を見て私は来たんだよ。あ、一番欲しいもの1つだけでお願いね。1年で2つ以上の願いは叶えられない決まりになってるの。」「でも、欲しいものなんかないよ。」「えぇ!?」「だって、ゲーム機は一昨年買って貰ったけど、1ヶ月もしないうちに飽きて、放置してたらどこかに消えたし、去年買って貰ったスマホがあれば、だいたい無料で何でもできるし。」「はぁ~。なんか変なとこで現実的なんだねあんた。しかもなんか無気力。無気力くんにはがっかりした。家間違えたんだっけ。今年はもうこれで良いか~。」「え!?」「だって、願いが何もないんなら、私はここにいる意味はないもの。じゃ、元気でね。メリークリスマス。」「ま、待ってください!」「何。まだなんかあるの。」「欲しいものあります!それも、とびっきり欲しいもの。」「へぇ。無気力くんの割には良い目つきしてきたじゃん。じゃ、欲しいもの言ってみな。」「友達です!!」部屋に静寂が響き渡った。サンタの子は少し驚いた目つきをしていた。何に驚いたのだろう。僕の声の大きさ?それとも、年頃の女の子にいきなり言うことじゃなかった?「ご、ごめんなさ」「すごい願いの力じゃん!無気力くんすごいよ!こんなに強いパワー、いつぶりだろ?」「え」「良いよ。お前気に入った。私がお前の友達になる。ただし、クリスマスが終わるまでね。」「えぇ!?短すぎない!?」「お前なぁ…サンタと友達になれるってすごいことなんだぞ。私は今までに何万人もの子供にプレゼントをあげてきたけど、私がプレゼントになったことなんか、今回が初めてなんだからね。」「は、はぁ…」「それで、どこ行きたい?クリスマスなんだから、一緒にどっか行くでしょ。普通さ。そこらへんの店とかじゃつまんないでしょ。一緒にフィンランドでオーロラでも見に行く?それともシンガポールでマーライオンでも見に行く?どっちも一瞬で行けるけど。」「うーん…」「え?そ、そんなにつまらなかった?じゃあ、秋葉原のゲーセンにでも行く?私が居る間は、コインなしでずっと動くようにするけど。」「あんまり、遊びに興味ない。」「はぁ。そうなの。無気力くんなだけあって、ほんとつまらないねお前。そりゃ、友達できないわけね。」「なっ…お前、言っていいことと悪いことがあるだろ!」僕が怒って女の子に近づく。「ちょちょっと落ち着きなよ!女の子殴ろうとするなんてお前最低だよ。落ち着きな。お前、願いの力はすごかっただろ。友達欲しいってさ。私は確かに見たもん。間違いないよ。落ち着いて考えてみな。必ず、私とやりたいことがあるはずよ。」「…」「ま、日付変わるまでは一緒に居て上げるから、ゆっくり考えなさい」「…びたい」「え?何?」「空を飛びたい」女の子は大声で笑った。「やっぱり。お前面白いね。いいよ。一緒に飛びましょ。ほら、良いから布団から立ちなさい。こんな暗い部屋にいるのも飽きた。窓開けるよ。」「えっ、ちょっ、ちょっと待」「それっ!!」「ぎゃああああ!!!」僕は女の子に窓から投げ出された。地味に凄い力だった。窓が小さくなっていき、地面が近くなっていく。「ちょっと、死ぬ!死ぬ!助けてーー!!」地面スレスレのところで、僕はU字状のラインで空に昇りはじめ、飛行機みたいなポーズで空に上がっていく。通行人達が驚いて一斉に僕を見上げる。そして、通行人達は見えなくなる。「まったく、こんなことで怖がるなんて。楽しみなさいよ。窓から落ちるなんて、一生にそう何度も体験できることじゃないのに。」「そんなこと言ったって、やり方くらいあるだろ!」「もう…ほら、無気力くん、下を見て。キレイでしょ。」言われるまま下を向くと、一面に無数の小さな小さな明かりが広がっている。僕が住んでいた町はどこだろう。こんな高い場所に来て、帰れるのだろうか。いや、そんなことより、すごく見晴らしが良い。寝間着のまま来たから、半袖越しに鳥肌が浮き上がってくることに気づいた。サンタの子が鳥肌に気づいたのか、「はは!体は正直だね!」と言ってきた。「うるさいなぁ…」僕がばつが悪そうにぼやく。「ほら、私についてきて!」サンタの子はぼやきに気づいていないふりをしているのか、さらに上空に飛んでいく。僕は慌ててついていった。サンタの子は速かったが、なんとか追いつけた。「早いねあんた。まぁ、この飛行魔法の速さは、身長の高さで決まるから。」魔法だったのか。確かに僕はサンタの子より少しだけ身長が高いけど、それは男だから当たり前か。「ここは私たち以外誰もいないからね。飛行機だって、もっと下を飛んでるから。」見下ろすと、無数の明かりではなく、黒い雲が一面に広がっていた。「下はちょうど天気が悪いみたいね。誰も私たちのことには気づかないから、思う存分はっちゃけて良いのよ。」「ほんとに、こんな所で勝手なことしちゃっていいのかなぁ…。」「何よ。あんた子供でしょ。子供ならもっと自分の気持ちに素直になりなさい。最近の子はあんたみたいな夢のない子ばっかりでつまらないね。」「そ、そんなこといっても…。」「まったく気が弱い子だね。そうね…これでも食らいなさい。」サンタの子はそういうと、間髪入れずに僕の股間にキックを入れてきた。「いっ…」かなり痛い。いきなり男の急所に、それも力いっぱいキックを入れてくるなんて、最低な女だ。「悔しかったらこっちまでおいで~」サンタの子はムカつく笑顔を僕に向けてから飛んでいった。「逃がすか!」怒りが頂点に達した僕は、すかさず後を追った。「お前には追いつけないよ~」挑発に挑発を重ね続けるサンタの子の言葉に構わず、僕は一直線に追いかけた。魔法の性質で僕の方がちょっと速いので、サンタの子との差が少しずつ縮まっていった。近づいていくごとに、サンタの子のウザい笑顔に、焦りの表情が混ざっていった。とうとうサンタの子は僕の手に左足首を捕まれた。「ま、待って、私の負けだから、乱暴はよしなさい。」「別に乱暴なんかするつもりないよ。なんで突然僕の股間蹴ったんだよ。」「だって、お前これくらいしないと、動こうとしないじゃん。」「それはそうかもしれないけど…」僕は言葉に詰まってから、自分でも驚くような言葉が思わず口から出た。「でも、今すごく楽しいよ。ありがとう。サンタさん。」サンタの子は、予想外の言葉に、恥ずかしそうな表情を見せる。その性格に似つかわしくない表情で顔を赤らめ、言葉が出ないサンタの子は、なんだかかわいかった。女の子がこんなにかわいいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。そして、またしても予想外の言葉が、僕の口から出ようとしていた。「サンタさん。僕、あなたのことが・・・」そこから先の記憶が無い。気づいたら僕はベッドの上で寝ていたのだ。夜が明け、道行く人々も普段の生活に戻り始める。「塾に遅刻するよ!」母に叩き起こされて、僕は慌てて準備を始める。気のせいかもしれないが、母がいつもより優しいような気がした。あれは夢だったのだろうか。夢にしては出来過ぎだし、今までに見たことのないタイプの夢だった。何より夢であって欲しくない。あのサンタの子はどこにいったのだろうか。どこかへ帰ってしまったのかな。来年も、また会えるのかな。僕は、自分の気持ちに素直になろうと思う。あの子に言われたように。なんだか、塾までの道のりがとても軽快で、楽しかった。

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