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或る日の年齢確認

少し前、Xに何げなくつぶやいた私のポストがバズった。

いや、バズりなのか。
はたまた炎上なのか。

その辺り微妙なところなのかもしれないが、とにかく見たことがない驚異的な数字に、『な、なんじゃこらぁ?!』とひっくり返った。

簡単に書くと、
『どう見ても歳のいってる私が年齢確認されて驚いた』というもの。

何作か脚本として関わらせていただいている、こねこフィルムさんの『年齢確認』という大バズり作品と同じようなシチュエーションがリアルに起きたため、少し絡ませてつぶやかせていただいた。
最初は日常の一コマ的にふわりとつぶやいたものの、あの作品と同じことが起きたということをもう少し明確に書いた方がいいよなあと思いつぶやき直した。

それに気づいた方のコメントが次々とついて、改めて影響力が強く、クオリティーの高い作品を作るカンパニーなんだと感動した。

ところが、一晩経ってXを開いてみると…。

見たこともない表示数と引用ポスト、返信で溢れかえっている。

最初、Xに重大なバグが起きたのかと思ったけれどそんなわけはなく。
私のポストは明らかにバズりを起こしていた。

表示数が増えるということは色々な方々にポストを閲覧されたことになる。
増えれば増えるほど予想もしなかったコメントや見解が増えてきて、『こうやって受け取られてしまうこともあるのかあ』と驚愕しつつ、感嘆のため息を漏らす。

自分が書いたものが意図通りすべての人に伝えることは非常に難しいことを実感したが、どのように受け取られてもそういうツールなのだからやむを得ない。
Xという限りある文字数の中、数回に分けて書いても言葉足らずであろう。
どれだけ話題になった事や作品だって知らない人はたくさんいる。


様々な意見の中で、私と同じく年確をされるには歳がいってるが仕方ないと提示したら『マジか!』と反応をされ、腹立たしい思いをされた方もいた。

『若いと思われて喜んでる
         勘違い承認欲求お化けおばさん』
と思った方もいた。
たしかに字面を見るとそう思われても仕方ない文章とも思うので、お目汚し、かつ、えらく不快な思いをさせてしまい本当に申し訳ない。

年確をしないともしもの時に起こる店側のリスク、何歳までに見えたら聞かなければいけないマニュアルがあることを教えてくれた方もいた。

バズったことで普段は聞くことがない、知ることができない意見や情報をこんなにも得られるのかと心躍り、(たかだか一回バズったくらいで言えることではないが)バズり続ける方の苦労が少しだけ知れた気がする。
端くれながらももの書きとして、色々なことに気づき学んだ良い機会になったと思う。


私は今まで一度も年齢確認をされたことがない。

若い頃からずっと、年齢より上に見られてきたので無縁だったのだ。
最近やっと、顔つきに実年齢が追いついてきたくらいである。


あの日私は、自分の店で出すシャンパンを買うため某量販店に出向き、お目当ての物を見つけレジに向かった。
商品を置いて財布を出そうとバッグをゴソゴソしていると、



店員『年齢確認のため、身分証明書の提示をお願いします』


私『……へっ?』



予想もしなかった言葉に自然と出てしまった、突拍子もない声の『へっ?』。
驚いて思わず店員さんを凝視。
同時に思い出した、こねこフィルムさんの『年齢確認』。

財布を出して身分証を探しながら、マニュアルとはいえ明らかにとうがたった客にも確認しなきゃならないのはしんどいよなと思ったし、こちら方側の気持ちを言えば『明らかに見えないんだから聞く必要ないのに』と思ったのも事実だ。

探している間、何気なく、

私『これって皆さんに聞かれるんですか?』
(今思えば、これを聞かなければよかったのだと思う)

すると、

店員『いえ、お若く見えますので…』

私『……』


んなわけない。



これもおそらくマニュアルなのだろう。
店員さんは何も悪くない。


だけどせめて、せめて…
『はい。全員にお伺いしてます』
と言って欲しかった…。

この後私は、『ど昭和生まれ』『今年46歳』であることがしっかりと刻まれた身分証を水戸黄門よろしく、ドーン!と掲げなければならないのだ。
掲げなくとも少なくともこの店員さんにはしっかり確認される。
正直しんどい。
『お若く見えたので』というマニュアルを明らかにそうは見えない女に告げ、さらに身分証を見てどう思うのだろうか。
ポーカーフェイスをしてくれたとして、『やっぱりいい歳だよな』くらいは思うのではないだろうか。

気にしすぎ』『自意識過剰』と言われたらそれまでだが、明らかにそこそこいってること思われてる上で身分証を提示するのはやっぱりキツイ。
噂には聞いていたが、なかなかの辱めだと思う。
そんなことを思いながら身分証が財布ではなくカードケースに入れていたことを思い出し、早く終わらせたいのにと自分の鈍臭さを呪いながら財布をしまいコインケースをバッグから出す。

その間、何度も店員さんと目が合う。
申し訳なさそうな表情をしている。
こちらも自分の鈍臭さに申し訳ないと思いながらも、(この後、せめて無で受け流してほしい)と強く願う。
そんなことをグルグルと考えながら、身分証を見つけて提示する頃には、いよいよいたたまれなさに耐えられなくなり、『やられる前に自分で自分をやってしまえ!』と、咄嗟に

『私、今年46なんですけどね…』

そう言いながらヘラヘラと身分証を出した。

ここまでの時間、わずか数十秒だったが永遠のように感じた。

すると、私のいたたまれなさに気づいていたのであろう。
店員さんは身分証をチラリと見ると、「大丈夫です!ですよね!わかりました!確認できました!しまっていただいて!」と慌てたように矢継ぎ早に言うと、シャンパンをレジに通してくれた。

そして小さな声で、
『なんかすみません…』
と言われた。
『いえいえ…』
とは返したものの、こちらも自分の鈍臭さも含めとても申し訳なくなった。

何とも言えない空気が流れる微妙な時間であった。



年齢確認。
どうにかならないものなのだろうか。

口頭で聞くのは廃止にし、コンビニのように『はい』ボタンを自ら押させる機械、カメラに映すと超超高性能コンピューターが年齢を認識してくれるとか、そういうものを小売店から大型量販店まですべて、国が導入しなくてはならない法律とかできたらいいのに。

それこそ10代の時の私みたいに、成人には見えてしまう人も存在するので聞かないわけにはいかないのだろう。
ただやはり、聞いて実年齢を確認しなければならないほうも、聞かれて実年齢を知らせなければいけないほうも、時にとんでもなく微妙な空気になる例は私だけではないはずだ。
実際に実体験を書いてくれた方もいましたし。

これからは年確をされても、素っ頓狂な声を出さずに、身分証を水戸黄門のように掲げるメンタルを持ち、スマートに対応できるよう心がけようと思う。



そういえば昔よくいた、夜職やテレクラのティッシュ配り。
あれをやってる兄さんたちの年齢洞察力は非常に高かったと思う。
25歳を過ぎたあたりからピタっともらわなくなった。
連続して規則よくティッシュ配る場所で、私やおばさまが通る瞬間だけ手が止まってそのままスルー。

ヒョイッ!
ヒョイッ!
ヒョイッ!
……
ヒョイッ!
ヒョイッ!
……

みたいな。

新宿東南口のエスカレーターのところでこれをやられた時、なんだかリズム天国みたいだなと思った。



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