企画書「ゾンビはギターを弾かない」

タイトル「ゾンビはギターを弾かない」

企画者 池月

あらすじ 
大きな大戦があり、核戦争によって荒廃した世界。放射性降下物によって、世界は汚染された。動物はほとんどいなくなり、人口も減少した。そんな世界で、たった二人で生きている兄弟がいる。兄弟の楽しみは、二人でバンドを演奏すること。あるとき、河原で演奏していたら、ゾンビに襲われる。弟はゾンビに殺され、復讐に燃える兄。自警団のゾンビハンターチームに入り、仇討ちを決意する。無茶な戦い方をして、ゾンビに襲われかけた時、可憐な少女に助けられる。二人でバディを組み、ゾンビの正体に迫っていき、その絶滅を目指す。(246字)


第一話
 舞台は、戦争は無くなったが、放射性降下物によって環境は荒廃した近未来。技術が進歩し、人々は情動抑制装置によって感情や行動をコントロールするようになった。

 人口は五億人を割り、もはや国単位での統治は成り立たなくなった。お金持ちや権力者はみんな地球を脱出し、宇宙に造ったコロニーで生活している。地球に残ったのは、出て行きたくても出ていけない貧困者と沈みゆく船と命運を共にすると決めた物好きだけ。

 そんな世界に取り残されている兄弟の物語。両親は戦争で他界している。朝、情動抑制装置のアラーム機能によって目覚めた主人公のシン(12歳)は、まだ眠っている弟のノイズ(10歳)(いつも寝坊している)を起こし、路上ライブに出かける準備をする。二人は、ロックバンドが大好きで、ギターとベースだけのバンドを組んでいた。楽器は、曽祖父が保管していたものだった。遺品整理の時に出てきたもので、捨てられそうになっていたのを譲り受けた。

 灰色の水が流れる河原で、いつものように演奏を始める。しかし誰も足を止めることはない。音楽が聞こえていることにも気づいていない様子。
感情は抑制装置によって「選べる」ようになり、感情誘導効果や覚醒水準調整効果を期待されていた「音楽」というものは廃れた。人々は、音楽ではなく装置のつまみを捻ることで気分を調整するようになったからだ。人々は出生時に脳にチップを埋められており、そこに感情抑制装置からは微弱な電流が流れて感情をコントロールしている。

 例えば、怒りを感じた時に、視床を抑圧するように情動抑制すると、怒りの感情が消え、落ち着いた気分になる。つまり、音楽を聴いて気分を変えたり、リラックスしたりする必要は無くなったのだ。

 しかし、弟のノイズはあまり感情の抑制が効かない。情動抑制装置と相性が悪いらしい(本当の理由は、ノイズが捨て子で、脳にチップが埋められていないから)。思いつきで行動したり、感情のままに振る舞ったりする。
河原で演奏していると、人が川に流されているのが見えた。警察(統率の取れていない自警集団と化している)に通報しようとするシン。しかしノイズが流れていく人を追いかけて川沿いを走っていってしまう。仕方なく二人で追いかける。川幅はどんどん狭くなり、気がつくと、立入禁止区域に入ってしまっていた。人も見失い、引き返そうとした時、兄弟は「ゾンビ」に襲われる。(983字)


第二話

 ゾンビの正体は、大戦中に開発された戦闘用人口生命体だった。
  2年後。自警団から派生したゾンビハンターのチームに入ったシンは、弟の復讐に固執するあまり、仲間に止められても、立ち入り禁止区域に一人で突っ込んでいく。チームには、音楽で動きを止める先行部隊と脳を破壊する攻撃部隊がいるのだが、先へ行きすぎたせいで、攻撃部隊が追いつかない。ついにベースの弦が切れてしまい、ゾンビに殺されかけたとき、天使の歌声を持つヒロインに助けられる。セイレーンの歌声かと思うくらいきれいな声。ゾンビは動きを止めた。シンは驚く。その曲は、小さいころに母親が眠る前に歌ってくれていた歌だった。雨が降っている。気が付くとシンも泣いていた。
 シンの見ている夢。幼いころ、自分とノイズを寝かしつけるときに必ず母親が歌を歌ってくれていた。子どもに音楽を聞かせる親は珍しかったが、二人は毎晩楽しみにしていた。歌詞の意味を聞くと、母親が解説をしてくれる。「この歌は、旅に出る一人の女の子の心境を歌ったものなのよ」「どんな旅?」「それは旅をしてみないと」。母親の歌を聞いて眠ると、いつも楽しい夢が見られた。
 目を覚ますと、ゾンビはおらず、先ほどの少女に膝枕されていた。慌てて起き上がろうとすると、首にナイフを突きつけられ「動くな」と脅される。
少女はレインと名乗った。曰く、記憶を取り戻したいが、追手がいて自由に動けない。隠れ蓑になってくれるならシンの復讐にも協力する。承諾するシン。「それに、ボーカルは必要でしょ。あなた、歌下手だもん」「ああ?」
口論になりかけるが、そこで覆面の男数人がレインを追ってやってくる。どうやら人間なので、歌や音楽では対抗できない。路地を利用して身を隠し、なんとかやり過ごす二人。

「それで、一緒に連れて行ってくれるの?」「一つ条件がある」「条件ってこれ?」この国でおそらく唯一の楽器屋に来ている二人。店主は、かわいい女の子に甘い女性・バム。

 ベースの新しい弦を買いに来た。同時に、情報屋も兼ねているバムの元で賞金首になっているゾンビの情報を得る。かわいいレインを気に入ったバムから、格安で情報を得られ、上機嫌のシン。二人は協力してゾンビを倒す。レインの圧倒的な強さに驚くシン。そして、レインの歌は、どの歌も聞き覚えのあるものだった。

 戦闘後、どこで歌を覚えたのか訊ねるが、レインは「覚えていない」という。報酬を受け取るために二人でバムのところに行くと「いいコンビだ」と言われ、高額の賞金首の情報を得る。仕留めに行く前に腹ごしらえをすることに。道中、シンは母親が、音楽が人類にもたらす効果について研究していたことを話す。レインの記憶の断片がよみがえる。苦しむレインを介抱するシン。空腹のせいだと、料理屋に急ぐ。

 一方、レインの歌声を観測した追手が彼女の居場所を突き止める。自分たちの存在を知られたくない追手は、隣のシンが邪魔で、排除しようと計画をたてる。


 シンが通っている、場末の料理屋。数少ない「本物の食事」を出す店。レインは食事をとらなくてもよいが、おいしいものを食べるのが趣味。(味の好みが母親と同じで、懐かしく思うシン)。シンは、久しぶりに誰かと食べる食事に感動する。
 食事中、料理屋付近にさきほど情報を得たばかりの賞金首が現れる。店内はパニックになりかけるが、少女の歌声とシンのベースで、鎮圧。そのまま二人でセッションして、シンはノイズと二人でバンドをしていた時を思い出す。店主にとても感謝され、無料で食べ放題にしてもらう。レインが喜ぶ。客たちもレインに興味を持ち、質問を投げかけるが、食事に夢中で不愛想。一人の男性客が、レインに下心で近づき、肌を触ろうとする。やんわり止めようとするシン。しかしレインが怒って、ナイフでその男性客を切りつける。事情が分からず、少女がナイフを出した状況だけ見たほかの客たちがパニックになり、英雄扱いだったシンとレインは殺人未遂犯として多額の請求書(レインが大食いした)と一緒に店から追い出される。

 いきなり切りつけたレインを、なだめつつもやりすぎだと怒るシンと、不愉快だったからあれくらい仕返して当然だと開き直るレイン。二人はケンカになり、コンビを解消に発展する。シンはバムのところに戻り、報酬を得ようとする。しかし、バムは「報酬ならすでにレインに渡した」と言って、支払いを拒否。「相棒じゃなかったのか」「ついさっき解消した」。   

 シンは、報酬を取り返すため、レインを探しに行く。目撃情報をバムから買おうとするが、教えてもらえない。ひとまず、高額請求に文句を言うため、料理屋に戻る。そこにレインがいた。報酬を返すように迫るが、それを無視して「この店に自分の追手が迫っていて、無関係の人間にも危害が及ぶかもしれない」と警戒するレイン。「高額請求を踏み倒せるならありがたい」とレインを連れて逃げようとするシンだが、「自分のせいで人が死ぬのは嫌」だと断られる。レインと残るか、一緒に戦うか、二択を迫られるシン。シンは、報酬を取り返すためだと言い訳して、レインと残ることを選ぶ。意外そうな顔をするレインは、対策を教える。ついに追手がやってきて、料理屋は守れるが、レインを連れ去られてしまう。
料理屋に協力を求めるが、危機を救ってもらったとはつゆほども思っていない店主と客はそれを拒否。

 バムに情報を求めると、目撃情報からレインは昔にシンがノイズと母親と暮らしていた、今はゾンビの出現によって閉鎖された区画へ連れ去られたと分かる。バムは一応止めるが、最終的にシンが以前使っていたギターの改良版を渡して見送る。「相変わらずだね。さすがあんたの子だよ」。一人で立ち入り禁止区域に行くと歌が聞こえる。歌の聞こえるほうに行くと、母親の研究施設にレインがいた。しかし、最後に会った時とは別人で、助けられることを望んでいなかった。「私があなたと会う前、どこにいたかわかる?」ゾンビに囲まれていてもお構いなし。「今日は、助けに来なくていいって言いに来たの。私を作ったのは、あなたのお母さんよ」

 レインが歌唱アンドロイドだと知って驚愕するシン。それでも、レインのことを一人の人間として扱おうとする。「アンドロイドとか人間とかゾンビとか知らねえ。お前はお前だろ」。レインの心は変わらない。おもむろにギターを取り出して弾き始めるシン。それは、ノイズとシンを寝かしつけるときに母親が歌ってくれた曲だった。レインの周りにいたゾンビたちが溶けていく。レインはアンドロイドなのでゾンビに襲われても死ぬことはない。自分のベースをレインに渡して弾かせる。ノイズとバンドをしていた頃みたいに好きな曲を好きなように歌う。心をひらいたレインが、追手は人心掌握、感情を操作できるような周波数を含む歌唱アンドロイドに改変しようとしていると教えてくれる。戦うことを決意した二人は、閉鎖区域の奥へと向かう。そこには、ダンスを踊っているゾンビがいた。まず人間の前にゾンビで人体実験をしている。今までのように音楽を奏でるだけ。情報屋がくれたもので戦い勝利。しかし、大切な実験体を壊されて怒るラスボスとノイズが現れる。

ノイズは、今までの敵と違い、音楽を知っているので、手ごわい。シンの想い出の曲、レインの持つ力を最大限に発揮できる曲だけで戦い、ノイズを鎮魂する。(2999字)





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