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コインランドリー3

楽しく時が過ぎ、時計を見ると22時になろうとしていた。

「サチさん、もうこんな時間ですね。
すみません。つい、長居してしまいました。」
「いや、こちらこそごめんね。トキ君の話が面白かったので、私も時間を忘れてたわ。」
「すみません。明日は月曜日で語学の授業が1限からあるので。」
「そうなの。流石にサボっちゃえっては、言わないわよ 笑」
「そうですね。まだ、クラスの様子もわからないし。ただでさえ、坊主頭の僕は変わった奴と見られてるようなので 笑」
「うん、わかったわ。本当に楽しかった。また、いらっしゃっいよ。遠慮は無用よ。トキ君のアパートは電話は引いてるの?」
「まだなんです。親からは電電公社に申し込む債権のお金はもらってるんだけど、あんなに高いとは思わなかった」
「そうね。不動産屋さんが手続きしてくれると思うけど、相場で変わるわね。8万円から10万円くらいはするわね。」
「なんかおかしなシステムですね。三公社五現業って、政治経済の授業で習ったけど、国に守られてるこんな事業はいずれ民営化されないと独占っていうのは納得いかないな」
「へー、トキ君ってよく社会の仕組みも知ってるのね!」
「そりゃ、伊達にW大学を目指した訳ではないですから」
「何を目指してるの?」
「はっきりとは言い切れないけど、マスコミとか広告とか、なんか、社会の凝り固まった風習のようなものを変えるきっかけに自分はなりたいと考えてます。」
「そうなの。頼もしいわね❕また、おしゃべりしてると遅くなっちゃうわ。そうだ、電話の話してたのよね。もし、電話を引いたらここに連絡して」

サチさんから電話番号を書いたメモを渡された。
そこには本名が綺麗な文字で書かれていた。
佐々木幸子
03-○〇〇-〇〇〇〇 
私はそのメモを大事にズボンのポケットに折りたたんで、入れた。
「本当にご馳走様でした。美味しかったです。料理上手なサチさんに会えて良かったです」
「君、なかなか女心をくすぐるようなこと言えるのね 笑」
「いや、そんな、本心を言ったまでですよ」
「わかったわ。それじゃ、明日は英語頑張ってね。私も仕事頑張るから」

そんな会話を最後に僕は家路に着いた。
サチさんとの楽しい会話を思い出しながら、ニヤついた僕はなんかふわふわした気分だった。
サチさんについてわかったことは、整理するとこんなことだった。

秋田県立の女子高校でバレーボールをしていたこと。
親が厳しく、地元の国立大学か公立大学しか行かせないと言っていたこと。
しかし、親の反対を押し切って、W大学を受験していたこと。
地元の国立大学を合格したが、親から勘当同然に実家を飛び出して、W大学に入学したこと。
4年間秋田の実家には帰らなかったこと。
大学入学後は学費と生活費そして演劇サークルの活動費用を稼ぐために、朝7時から新しくできたコンビニという業態のお店でアルバイトを11時までやり、13時から演劇サークルの活動。15時から22時まで授業。そして、土日に演劇サークルの活動と土曜日に塾の国語の講師をしていたとの事だった。

今はその塾の専任講師をしながら、午前中は劇団に所属して活動してるとの事だった。

僕はそんなことを反芻しながら、いつのまにかアパートの前に着いていた。

階段を登りながら、ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。

何か部屋の空気が変わったような気がした。

続く

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