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きみは僕の正しい光 22


「知恵」



 愛しいひと。私が私でいていいと、証明してくれる世界でただひとりのひと。

 オブジェクトの影から現れたその人に微笑んで階段を駆け上がったら、西陽が先輩の髪を赤く照らして、私を強く抱きしめた。ほぼ倒れ込むようだったそれに私は先輩を抱きとめて、その腕の中で小首を傾げる。


「…先輩、どうしたの?」

「…ちょっと、辛いこと、あって。知恵に会いたかったんだ」
「…そうなんだ。私も先輩に会いたかった」


 抱きしめ返せば、髪を梳くようにやさしく頭を撫でられる。その肩に頬を寄せたら先輩の匂いがして、ほっとする。


「知恵」
「なに?」
「大好きだよ」


 夕陽の下で微笑まれて、私も心から破顔する。

「…私も。先輩さえいてくれれば、世界がどうなったっていい」

 そこで、ピコン、と録画が切れるような音がした。


「だ——————ってよ」


 録った今の? と半笑いになった先輩が誰かに問いかければ、オブジェクトの影から知らない男の人二人がスマホを向けながら親指を突き立てた。動画を、回している。そこで突然体を剥がされて、先輩がおつかれーいとか言いながらその二人とハイタッチして、スマホに向かっていく。

 なに、これ。


「…え、先輩、これ、」

「あー! おつかれおつかれ! いやナイスレスポンス、世界規模の返答来るとは思わず俺も心震えたわ、世界の終わり感凄かった! かつロマンティック! 知恵ちゃん、ないすう!」
「なに、どういうこと、」

「何って。〝マインドコントロール〟」


 頭が、真っ白になる。話についていけず視線をあちこちに向けていたら仲間からペットボトルの水をもらった先輩が一口それを飲んで、石段に腰掛ける。


「いやー。それが修士論文? で結構ガチでテーマ悩んでてさ、教授もテキトーかましたんじゃ全然頷いてくんねーしどうする? って話してた頃に偶然知恵ちゃんと出逢いまして。はじめはホントにスマホ届けて終わりの予定だったんよ? けど図書室でしょげてたあたりでピン、と閃いちゃってさあ。ほら、俺臨床心理士志望だから。テーマに紐付くしいいカモ・・みっけ、って」

「…え、ちょっ、と…まって、でも、先輩、私に優しくしてくれたし、好きだって」

「うん好きよお〝研究テーマのお題〟として。実にナイス人材だった、でもそれ以上悪いけどないね。自分無いやつ嫌いだし、そもそもきみの顔がちっとも俺のタイプではない」


 一ヶ月でオトせたら五万だったんだけどなー、と仲間から壱万円札数枚を貰って足を組み、石段にふんぞり返ってお金を数える先輩に、私の彼氏だった面影はない。

 それで「圭、ナイス」とか「さすが」とか完全に祝杯モードに入っているから、やっとその辺りで理解が及んでふつふつと怒りが込み上げてくる。


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