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きみは僕の正しい光 27


「知恵ちゃん」



 那由多のお葬式が終わり、それから数日が経ったころ。
 なんの気無しに図書館を訪れたら、入り口で館長さんに呼び止められた。

 相変わらずふくよかで、温厚な顔立ちの。
 少し眉を下げて笑う彼に軽く会釈をすると、歩いてきて何かを差し出される。


「…これ」

「え?」
「那由多くんのね、鞄の中に入ってたの。中は見てないから」


 ひとつの白い封筒を渡されて、それを両手で受け取る。

 その日、空は白んだ曇り空で。
 受け取って、顔を上げたら、またやさしく微笑まれた。


「一生懸命書いてたよ」


 外のベンチに腰掛けて、封筒の裏を見る。

 知恵ちゃんへ、とへたくそな字で書かれて、封もされていない便箋を、中身から出す。

 その、文字をひとつひとつ、読んでいく。

 手が震えて、便箋がよれてしまう。その便箋の上に、ぽた、ぽたと雨が落ちる。

「…………、っぁ」

 そこで、もう。

 涙が、あふれ出した。

 そこまできてやっと、自分が犯した罪の大きさに気が付いた。

 どれだけ泣いても、叫んでも、後悔しても、呼んでも、もう那由多は還って来ない。

 ベンチに座って大声を上げて子どもみたいに泣きじゃくる私を、後ろを通った人が白い目で見ているのがわかる。それでも。


 私はただ、その場で大声を張り上げて泣き続けた。


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