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レコーディング日記

Youtubeに自作の曲を手作り多重録音でデモにしてアップしている私だが、そのうち本物の録音のものを出したいなぁと思っていたところ、良いご縁で機が熟したり!
三軒茶屋は夢弦のとむをセッションにちょくちょくお邪魔しているうちにできたそのご縁、セッションの重鎮でもある紅ちゃんが立ち上げた、音楽事業を担うSuper Red Officeで音源を作ることになった。
ただ闇雲にそういったところを探してお願いするよりも、気心知れた方々におまかせして方が数段やりやすい!
演奏の意味でも感覚もそして人柄も、信頼できる!と分かっているわけだし。
とりあえず、5曲、オリジナル4曲にカバー1曲を作ることを決定。
非常に迷いながら自分的に定番っぽい曲、推しにしている曲、そしてバラエティに富んだ曲目を決める。
更に悩んだのがカバー曲。カバー曲というものはある意味裏の名刺。
このような音楽が好き、ルーツの一つでもある、それをこんな風にやっています、と自分の音楽性をある意味オリジナルよりも語り得るのがカバー曲。
ブルースにしようか、しかし幅が広すぎる、クイーンの某曲にしようか、色々と悩んだ結果、やはり自分の音楽の原点の一つであるビートルズにすることに。
といっても、すごくメジャーな曲、カバーが多い定番曲は避けたい。妙に偏愛している少しマイナーで、アレンジのしがいもあり、自分なりに歌える曲…で、たどり着いたのはSexy Sadie。上記の条件を全て満たしている!と思うのだよ。

曲目が決まり、もともとある自作デモからイメージを汲んでもらった上に言葉でも伝え、音楽的に的確な指示を出せない私の言葉はひたすらざっくりとしたイメージの羅列、その結果届いた仮の音源はまるで魔法を見るよう。プロデュース、アレンジのとむさんは魔法使いね…
古いジャズっぽく…とか、もうとにかくいろんな音が増していくというか…とか、かなりソウルっぽく…とか、ソウルの人はフォークをカバーしている感じ、とか、フォーキーかつ壮大な…とか、とにかくビートルズっぽく、とか、そんなざっくりを伝えた結果出来上がってくる音源を聴いてまるでジョージ・マーティンを後ろ盾にしたビートルズ気分ですよ。
特にジョンはざっくりイメージ常習犯、世界が終わるような感じ、1000人の坊さんがお経を唱えてる感じ、オレンジ色って感じ、おがくずの匂いがする感じ等々キレキレのイメージ型、それを音楽知識が多少上でジョンの考えていることをほぼ把握できる、更に言語化に長けているポールがジョン用音楽翻訳機と化して伝えたものをマーティンさんが具体化する…というのが中期ビートルズ。
私にはポールがいないことが決定的に弱いところだが、その分とむさん達が懸命に具象化してくれたわけですよ…

そんなこんなで徐々に固まっていく音源、他パートのレコーディングもいくつか済んで、いよいよボーカルのレコーディングが始まった。

1日目。
4日連続、最終日はオールナイトというスケジュール、まずは免疫力惰弱にもほどがある私がこの真冬に風邪を引かずに迎えられたというだけでもありがとう神様。
スタジオの場所がかつてよく通った駅周辺なのが幸先良いぞ、と何もかも運命論的に捉える象徴主義者な私はいそいそとスタジオに向かった。
この日々を共にする方々はとむさん、紅ちゃん、そしてエンジニアである芦沢さん。セッションでもお会いしたこの芦沢さんが、心底優しい、人の良い方!
これでエンジニアが初対面、更に高圧的もしくは気難しいタイプの方だったら私の軟弱極まりないハートは緊張ボルテージ破裂するところだったわ。
そんな最高の仲間達、ではあるがそれでも緊張しいのザ・チキンハートの私はミキシングルームに背を向ける配置にしてもらう。
ライブは人に見られるものなのである程度は表情への意識もあるが、レコーディングは全く違う。
もっと内に入り込まないといけないし、声を出す、その行為に全てをかけないといけないので、他のことに構ってはいられない。
顔はぐしゃぐしゃ、手を握りしめ、時には腹を押し、とても人様に見せられるものではないので、この配置は実にありがたい。
それは私が未熟だからに他ならない…と思いながら、マイケルだってあの曲では家具の影で誰にも見られないようにして歌ったっていうし…と自分に言い訳するスタイルでGO。
普段自分の部屋で独りで録音しているし、今までやったことのあるちょっとしたレコーディングは誰かの部屋か事務所的な部屋で簡易に、しかなかったので、本格的なレコーディング形態では緊張のあまり全くちゃんと歌えないのではないか、とずっと危惧していたが、そのような配置と、3人のおかげでアットホームなムードだったため、案外割とすぐに慣れる。
ガラス越しのミキシングルームに背を向けているので、レコーディングの合間はヘッドフォンで向こうの指示や伝達を聞く。
孤独で、ミキシングルームのみを頼っているその状況はまるで宇宙飛行士。
This is major Tom to grand control…

そんなこんなで段々と慣れ、2曲分のメインボーカルを録り終える。
こうして1日目は、自分のベストではないだろうが、思ったよりもそれなりにちゃんとやれたかな?という気分で一安心して帰路へ。

2日目。
この日は歌に重きを置く曲をやる予定だったので、自宅での練習から張り切る。
前日、練習と本番と合わせて3時間近く歌ってもむしろ声の出が良かったので、今日はもっと歌いこんでから行こう♪と思ったのがいけなかった。
過信とは恐ろしいものだ。
念入りにウォームアップの後、喉鳴らしに色々と歌う。
よく練習中に「音程がしっかりして音域が広く声を前面に出す曲」が多くかつ大好きなので世界名作劇場の主題歌を歌ったりするのだが、
調子に乗って何曲もフルで歌ったのもまずかった。
その後もソウル風の曲やら色々やって、いよいよその日の課題曲の練習、
歌い方にいまだに悩みがある、というのもまずかった。
割とフルな力加減で試行錯誤、何度もやり続け、気づけば練習だけで3時間。
あれ…?喉疲れてる…?
と思ったときには後の祭り。
それでもスタジオまで時間あるし、ちょうどいいさ!と前向きになったところでそうは問屋が降ろさない。
更にこの日はべらぼうに寒く、乾燥もして、そして寒いくせに花粉症の魔の手が近づいていた。
花粉症って、喉も乾燥するのよ…
スタジオに近づきながら徐々に膨らむ焦りと不安。
案の定、歌ってみたらメタメタ。
声が伸びない、音程キープですら必死、ロングトーンが立ち消える、高い声が不安定、の不調の特徴がコンボの絶不調。
これではまずい!今日が無駄になってしまう!と焦り、
なんとか声を出そうと腹式呼吸にかけて腹を殴る勢いで押し続け、その腹まで弛緩してゆく体たらく。
声に潤いがないのでどうしても語尾がブレッシーになってしまい必要以上に気だるげに。
これでは伊勢佐木町ブルースではないか…
おまけに息に頼りすぎて酸欠状態で目眩までしてくるし。
それでもミキシングルームの3人は暖かく見守ってくれる。
調子悪い日っていうのは誰でもありますよ!
さっきよりずっといいですよ!
と励まされ、嬉しい気分と申し訳ない気分でいっぱいに…
ひたすら水を飲み、のど飴を狂ったように摂取するものの喉は白旗をあげたまま。
終盤になんとかマシなテイクを録れたものの、始終やりきれない感じのままこの日は終了。
嗚呼、どうなってしまうのかしら…
リカバーする時間はあるのかしら…

3日目。
前日のことで凹んでる暇などない。
この日は自分的に非常に重きを置いている、「レノンマッカートニーに捧げる曲」をメインにやる予定。
前日の愚かな過信と向こう見ずな計画性の無さを反省し、練習は控えめに…
ジョンとポールがラブラブな写真をファイルに仕込み、
そんな写真を見返してはtwitterにまとめてアップするなど精神面から己を奮い立たせる作戦。
実際歌うときは、喉の疲れはあるものの前日の酷さと比べたらあら、歌えるわ、声ってコントロールできるものなのね!
というほどマシな状態だった気がする。
思い入れの強い曲、というのはその思い入れをどのくらい反映できるかが要になると思うが、さて如何に。
紅ちゃんが「和訳を読みながら聴いていると泣ける!」と言ってくれたのが嬉しかった〜!
大事。気分大事。
バックボーカルは完了しなかったが、なんとかメインは録り終えて一安心。

4日目。
最終日のこの日は23:30から5:30までの深夜パック!
10000%夜型の私には好都合なシステム。
同じ時間でも朝から昼まで、だったら死ぬかもしれないわ…
6時間あるのも非常にありがたい。
しかし安心はできない。
2日目に納得できなかった2曲のメインをできれば撮り直したいし、コーラスが数曲分残っている。
そして今日は最終日だ。よっぽど無理を言って再びスタジオをおさえてもらわない限り、今日で最後なのだ。
迷惑はかけられない。でも納得いくものにしないとならない。

まずメインの録り直しをお願いする。
ここでも3日目の再来。
つまり2日目が酷すぎて、その落差のせいで、しかも同じ曲なものだから余計に、あら、歌えるわ…状態になった。
技術的な意味で歌えると、余裕が出来てニュアンスをつけたり、感情を込めたりすることも数段やりやすくなる。
それでもベストなものにはならなかったかもしれないが、
これくらいならいけるかな!というテイクに割と早めにたどり着くことができた。
私自身そう感じていたわけだが、ミキシングルームの3人も今日はまだのびのびと歌っているな、と感じただろうと思う。
それほど2日目は四苦八苦していた。
この日に録れたものを使う感じになり、「2日目が全く無駄になって申し訳ない…」的なことを言った私を励ましてくれる3人。
芦沢さんなんて、「あの日があってこそのこの日ですよ!あの日が不調じゃなかったら今日不調だったかもしれませんよ!」と爽やかな笑顔で言ってくれた。
菩薩だわ、菩薩。

2曲の録り直しを終えて羽が生えたように一旦楽な気持ちになった私。
これで残りも頑張るわ!
とはいえ、不安大なコーラスのまとめ録り。
私はコーラスを作るのが大好きだが、歌うのはすこぶる苦手。
コーラスは慣れもあるだろうが、センスの良い人というのがいて、
そんな人はなんとなく的確なコーラスをつけられるし、ラインもすぐ覚える。
私は全くセンスが無いので自分で作ったコーラスもいちいちメモしてそれ通りに音を鳴らしながらではないと殆ど出来ない。
なのでレコーディングでも、私の独自譜面を解読して作ってもらったガイドラインを流してもらって、ガイドラインを聴きながらどうにか細切れに歌う、というのをひたすら続けてもらった。
故に、時間がかかる。
それでも根気よく付き合ってくれる3人のお陰で、なんとか一歩ずつこなしていった。

ここのスタジオは深夜パック利用者には隣にある蕎麦屋のチケットをつけてくれる、という粋なシステムがある。
残念ながらこのシステム、というか深夜パック自体1月予約分で終了してしまったのだが、その蕎麦屋さんの利用時間は5時まで。
深夜パックは5:30までだが、なんとしても蕎麦にありつかないといけない。

刻々と迫る5時、何種もあるコーラスで4時台には焦りも感じたが、
ついに最後のトラックに近づく。
最後に残ったのは「ただひたすら叫ぶ」というもの。
スタジオ内でヘッドフォンをつけてわめく私、
奇妙な金切り声が響き渡るミキシングルーム、
という連日レコーディング最終日の最終にある意味ぴったりなカオスっぷり、
はっちゃけたテンションのまま、無事4:50頃、レコーディング全て終了!

叫んだこともあってやりきった感半端ないまま、急いで蕎麦屋へ。
間に合った!
初めてコロッケ蕎麦なるものを食す。
連日の、そしてオールナイトのレコーディングの、更にシャウトを終えた身に沁みわたる暖かい蕎麦は本当に美味しかった。
レコーディングの仲間と共に食す蕎麦は極上の味。
この秘密の憩い的な素晴らしいおまけ付きのシステムが終わってしまうなんて残念だなぁ。

こんな感じにレコーディングをしたのであった。
ミキシングルーム、歌っているのを大音量で聞かないといけないなんて大変だろうな…。
同じ曲を何度も何度も、それに声が変だったり咳払いしたりむせて地獄の咳き込みしてるときも常に大音量。
みなさん、なんて根気が良いのでしょう。

録音中は宇宙飛行士気分かつ、信頼できるお医者さんを前にした患者気分でもあった。
不調も試行錯誤も精神統一も何もかもさらけ出しておまかせする、
なんてことは普段あまりないこと。
丸裸になった気分で信頼を頼りに身を任せていたようなものだ。
音程が乱れていたり、タイミングが合わなかったりした時に的確なアドバイスを指示というより提案的な形で伝えてくれて、
良かったときには褒めて気を楽にしてくれたプロデューサーとむさん、
きめ細やかなサポートを始終してくれて、意見をくれる紅ちゃん、
面倒な要求にも嫌な顔ひとつせずにこやかに対応してくれる芦沢さん、
この3人とレコーディングできて本当によかった!
感謝が絶えない。

これからミキシングや、さらなるサウンドの吟味、最終決定などやることはまだまだあるが(特にとむさん達に)、
このように最終的には納得のいくレコーディングが出来てまずは安心。
出来上がりが本当に楽しみ!
またレコーディングしたいな、
他の曲もこうやって本当の形ができたらいいな、
とまだ終わっていないうちからもうそんな期待を抱いてしまうのであった。

ついでに、最終日は自宅最寄り駅でハイボール缶を買って独り祝杯。
日曜の7時ともなると行楽や何か用事に繰り出しているだろう健全な人々が行き交う。
そんな中、朝日を浴びながらすするハイボールは、背徳感溢れる充実の味がした。

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