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エイリアン ロムルスで考えさせられた 死者の復活の是非(ネタばれ有り)

今朝起きて、顔を洗う際に洗面台の水栓から出てくる水に触れたときに「あ、冷たっ…」と感じた。なんだかとても久しぶりの感覚。秋分の日になってやっと“秋の気配”を感じています。オフコースでも聴くかなぁ…

先日、「エイリアン ロムルスはラーメンの全部乗せ」というコラムをアップしましたが、本日はロムルス関連の続編です。この先はネタバレ有りなので映画を未見の方はここで閉じて下さいね。

絶賛売り出し中、ケイリー・スピーニー

「エイリアン」というゴシックホラーSFの名作には、数々の際立ったキャラクターが存在します。その中でこの物語をより複雑・困難に陥れたり、あるいは解決の糸口になったりするトリックスターが“アンドロイド”の存在でしょう。初作に登場する「アッシュ」がアンドロイドと判明するシーンのショックは大きかったです(その後はクルーにアンドロイドが必ず入っています)

エイリアン2のビショップのナイフ芸シーン

その「アッシュ」が今回の“ロムルス”に登場しました。正確に言えば「見た目がアッシュの機能停止したアンドロイド」が出てきています。壊れたアンドロイドを簡易的につなぎ直してその記憶(記録)を探り、事故・事件の概要を把握しようとするこのシリーズ定番の展開です。それはそれでいいのですが…。なぜ“アッシュ”にしたのでしょうか?アッシュは英国の俳優イアン・ホルムが演じており、2020年に88歳で亡くなっています。今回演じているのは英国の俳優ダニエル・ベッツで、顔だけイアン・ホルムに似せたCGに置き換えられています。過去のフィルムを繋ぎ合わせたとかではなく、CGで亡くなった人を再現して別人が演じている。生成AIによる完全な死者の復活・再現ではないですが、見ていてなにかしっくりこない感覚がありました。

昨今のハリウッドは、2016年に起きた「白すぎるオスカー」問題をきっかけに、多様性と包括性を重視した作品づくりにシフトしています。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは白人男性過多の会員構成を是正するため、女性と非白人の会員を倍増。アカデミー賞作品賞のノミネート対象には映画芸術科学アカデミーが提示した多様性に関する条件のクリアを求めるようになりました。また最近頻繁に使われるキーワードに「レプリゼンテーション」というものがあります。直訳は「代表」や「表現」ですが、意訳すれば「作品中に社会の多様性を反映させること」となります。人種のみならず、性別や性的嗜好や障がい者など、社会の多様性を作品へ適切に反映させるのが目的です。そこに高度化した生成AIが登場しました。文書や画像だけでなく、手軽に動画も作ることが可能になりました。日本では2019年の紅白歌合戦に“AI美空ひばり”が登場し賛否両論が巻き起こりましたが、現在の生成AI動画のクオリティはその比ではありません。中国ではすでに生成AIに死んだ人の画像や声などを学習させることで、亡くなった人と対話ができるサービスが登場して、大事な人を亡くして落ち込んでいる人たちの心の支えに一定のニーズがあるとの報告があります。このサービスは死者の存命中に生成したコンテンツを反復・再構成するのではなく、新規コンテンツを生成する能力があるため、このサービスに使われるAIは「生成ゴースト」と呼ばれています。
今回の“ロムルス”での「アッシュ」の登場は生成ゴーストの使用ではなく、CGを使ったカメオ出演といえばそう言えなくもないかと思いました。ただ、大胆に生成AIを使った作品が登場するのも時間の問題かと思います。
肖像権や著作権等の権利問題もさることながら、死者を死後にどう扱うべきのか、どう扱えるのかという倫理的・哲学的な問題や宗教的な側面など、より根本的な命題が立ちはだかってくるでしょう。映画はエンタテイメントであると同時に「アート」ですから、こういった重要な“問題提起”を行うことはある意味必然なのかもしれません。

問題に立ち向かうレイン

映画やドラマは「based on a true story」と断り書きがあってもフィクションであることに間違いはなく、制作者側の意図が色濃く反映されています。生成AIで作られた再生俳優は、俳優部なのかSFX部かVFX部か監督付きか何なのか… いずれにしても製作サイドの考え方次第ですが、事前に再生キャスト自身への出演に対する考えや希望の確認は現実的にはやりようがありません。今後は遺言書保管制度のように、俳優としての終活として死後の出演作品の取り扱い方や肖像権の扱いをどのようにするかを弁護士や司法書士などを交えて法的文書を作成しておくことがスタンダードになり「この映画の“故●●△△”の登場シーンは自筆証書遺言書の内容に則って作成されています」というようなキャプションが提示される日も近いかもしれません。

  ああ、嘘でもいいから
  ほほえむふりをして
  ぼくのせいいっぱいのやさしさを
  あなたは受けとめる筈もない
  こんなことはいままでなかった
  ぼくがあなたから離れていく
        #秋の気配 (作詞・作曲 小田和正)


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