企業法務×予備試験の相互作用

【自己紹介】

学部新卒で大手メーカーの法務と営業を経験後、転職して現在は中小IT企業の法務を担当(ほぼ社会人10年目)しております。

P-chan-nel(YouTubeでの法務情報のコンテンツ等)

@elv_p_chan(Twitter)

転職活動中から司法試験予備試験の勉強を開始し、フルタイムの仕事と両立しながら論文合格まで辿り着きました。

しかし、口述落ちというエグい経験をしております。

こうしたユニークな経験をしたというのもあり、今回は(特に企業法務部門で働く)社会人が予備試験を受験する際の留意点をお伝えします。


【目次】
1.はじめに
2.受験勉強と両立しやすい職場環境
3.受験が日常(法務)業務にもたらすメリット
4.受験が日常業務にもたらすデメリット(副作用)
5.社会人が論文合格までに何をすべきか
6.おわりに


1.はじめに

#LegalAC 投稿に当たり、当初は以下のテーマにするか迷っておりました。

・ メーカーとIT企業/グローバル企業と中小企業の法務業務の異同
・ 経産省「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」のパブコメ考察
・ 電子署名等リーガルテック導入にあたり予見される社内のゴタゴタ
・ それでも進めるなら「部門のご判断に任せる」モードの基準

しかし、企業法務界隈で有資格者の存在感が増している昨今、予備試験の制度が気になる方や、既に勉強を開始している方もいるのではないでしょうか。
自分も最終合格に至っていないという意味ではまだ受験生ですが、こうした方々のお役に立てないかと思い今回のテーマにしました。

本投稿をご覧になる方々には最終合格者や有資格者の方もいると思いますが、「こんな奴もいるんだなぁ」程度に眺めてみてください。


2.受験勉強と両立しやすい職場環境

予備試験は以下のとおり長丁場ですが、それぞれ試験の直前期に集中できる環境が必要です。

①短答(5月中旬)→②論文(7月前半)→③口述(10月後半)

しかし、日本企業の一般的傾向として、各期末に差し掛かると繁忙期となりがちですが、あいにく各々の試験の直前期と重なります。
更に、6月末に株主総会が実施される企業も多く、5月中は法務部門も業務量が増えますが、ちょうど①の時期と重なります。

そのため、先手先手を打つ発想がマストです。
また、できる限り疲れを残さず勉強モードに切り替えられるよう、以下の職場環境があることがアドバンテージと考えております。

・ 残業時間が少ない(月20~30時間以内に収まる)
・ 休日がカレンダー通り+直前に有休が取れる
・ 総会対応業務が少ない(主管が総務部門、非公開会社等)
・ 周辺業務(内部統制、文書管理、輸出管理業務等)との棲み分けが明確
・ 緊急対応に陥る案件(紛争・トラブル対応系)が少ない
・ 海外とのテレコンや出張等により勤務時間が不規則になることが少ない
・ 古き良き大企業にありがちな稟議手続が少ない

現在の勤め先も上記のいくつかを満たしております。
こうした特性を把握して仕事と勉強を両立できるかを分析し、戦略的にスケジュールを立てていく必要があります。


3.受験が日常(法務)業務にもたらすメリット

基本的には、受験勉強の知識が日常業務でダイレクトに役立つ場面はそう多くはないでしょう(個別具体的な取引によりますが)。
業務内容は企業毎に異なりますし、そもそも業界や取引によって適用される法令が異なります。

また、釈迦に説法ですが、法律知識のみで法務マンとしての価値が向上するわけではなく、仕事の進め方、思考パターン、コミュニケーション能力等、知識面以外の部分も重要です(もちろん知識はあるに越したことはありません)。

この点、全ての法務(ビジネス)マンに共通して必要な「基礎能力」が存在すると考えます。
(下図ご参照/結構思いつきなのであまり突っ込まないでください)

受験知識が即座に役立つわけではないと言いましたが、この「基礎能力」に対し、受験勉強により以下の効果がもたらされることを実感しました。

・ 論文対策を通じて、法的三段論法のフレームワークが身につく(より論理的に思考できる)。
・ 未知の法規制を扱う場面でも、根拠条文の趣旨や目的、関連判例等を踏まえて、回答を導くことができる。
・ 以上の相互作用として、弁護士への相談にあたり論点や懸念事項を鮮明にできる。
・ 契約交渉の場面では、損害論、要件事実、民事手続といった知識が意外と役立つ場面がある(確固たる知識があれば相手は反論する気を失う)。
・ 和文契約書のドラフティングに限定していえば、適切な表現を導くことが容易になる(類似文言をストックしているためe-Gov等の条文から容易に引き出せる)。
・ コーポレートやM&A絡みの案件で手続の質問をされることが多くなる(会社法の構造に明るいため)。
・ 訴訟対応で目にする準備書面や答弁書の読解が(以前より)苦にならない(民事手続の流れに明るいため)。
・ 最近話題となっている債権法改正の対応する際も、改正の経緯や内容を把握しやすくなる。

なんかいいことばかりですね!
…といいたいところですが、結果としてパフォーマンスが上がるというより、むしろ業務量が多くなるのが実感です。


あと、次に少し怖いこと話します。


4.受験が日常業務にもたらすデメリット(副作用)

仕事と試験勉強との両立は諸刃の剣であると実感することも多いです。
具体的には・・・

・ 精神的に追いつめられると、仕事×受験勉強×家庭いずれも中途半端になり、必要以上にワークライフバランスを犠牲にするリスクがある。
・ 受験生である事実を上司に伝えた場合、人によっては(どうせやめる人材と思い)重要な仕事を任せてもらえず、キャリア形成に響く可能性がある。
⇒自分の職場は人手も多くなく身分相応の仕事を頂いていると思う。
・ 配偶者がいる方は、(子育ても含めて)数年単位で一緒に過ごす時間が犠牲にされることの承諾を得ないと、一瞬で家庭が崩壊する。
⇒現実的に、実家のサポート体制や財力の有無に大きく左右される。
・ 平日(営業日)は勉強に割ける時間が少ない(ない)ので、大事な予定がない限り休日は空けておく必要がある。
⇒基本的には休日がリフレッシュ日であるという感覚を失う。

本気で合格を考えている方は上記の覚悟が必要です。

自分なりのストレス解消法(なるべく長時間かからないもの)を見つけ、「勉強をやる時は仕事を忘れる」といったオンオフを切り替える意識が非常に重要です(自戒を込めて…)。

ちなみに僕の一番のストレス解消法は旅行です。
下手すれば1週間以上かかります(ダメな例)。


5. 社会人が論文合格までに何をすべきか

僭越ながら、自分の勉強方法についてポイントだけ紹介します。

必ずしも万人にベストな方法とは思わないのであしからず。
また、僕が合格していない口述試験と本試験以降は対象外とします。

〜スタート〜

はじめは黄色い塾の在宅(オンライン)受講を活用しました。
もちろん、基礎マスター+論文マスターまで一気に聞き流すのは大変でした。
膨大な量の講座を限られた期間で終わらせようとしましたが、睡眠時間も削られることもあり、半分ノイローゼになりそうでした。
実際今まで視聴していない講義もあります。

〜独学VS予備校〜

既に学者に匹敵するリーガルマインドがある人でない限り、社会人で独学はオススメしないです。非効率です。
僕も凡人レベルだという認識はあったので、予備校にお世話になってます。
不明点解消のため様々な文献に当たることは勉強姿勢としては大事ですが、わざわざ基本書や演習書を買い込むのはやめた方がよいです。
実際に購入しても読む時間はないからです。
また、膨大な知識があるのもよいですが、実際に本番で使いこなせなければ意味ありません。

逆をいえば、僕自身は薄っぺらな知識になりすぎるきらいがある(口述不合格の1つの要因)のですが、そこはバランスですね…

〜フレームワーク〜

前述のとおり、①短答の合格発表→②論文本番までは実質1か月ちょっとしかないですが、その短期間で論文の実力をゼロベースから合格レベルまで上げることは不可能です。
そのため、自分の置かれている位置を把握した上で、戦略的な計画を立てておく必要があります。

まず①短答までには、全ての科目について基本的な論文の「型(フレームワーク)」を身に着けている必要があります。
そのためには、予備校の基本テキスト(インプット)と論文過去問(アウトプット)の繰り返しが必要ですが、基本的にはそれで充分だと思いました。

(ん? 何かこの記事、予備校の(不)合格体験記の匂いがする…それはともかく…)

~アウトプット~

1人で過去問を解くのみではなく、論文答練でも試験の感覚をつかもうとしてました。
社会人であっても、週末(可能であれば勤務終了後)1回以上は答練に参加して場数を踏むことが何より重要です。

学生ほど知識がなくても、文章力と現場思考力でカバーできるのが論文試験です。
そうした力を養うためにトレーニングを重ねてました。
特に社会人が優位に立つべき部分はここでないかと思います。
今回あまり触れませんが、仕事が試験にもたらすメリットというところでしょうか。

~インプット~

それぞれの試験の直前期に向けて、特に覚えておきたい部分(カスタマイズ情報)のみ、情報の一元化をするのは有効です。

情報の一元化でいえば、僕は「モバイル学習」をオススメします。
通勤時間が長かったり出張が多いという方は、テキスト何冊も持っていけませんよね。
カスタマイズ情報は、どんな場所からもアクセスできるフォーマットに転記しておきましょう。
通勤中や出張中でも、スマホから片手で定義や論証を確認できる環境を構築すると便利です。
確かに、本番の試験室ではスマホ利用ができませんが、カスタマイズ情報のうち必要な部分を印刷して持っていけばよいだけの話です。

また、僕は法務情報+試験情報の収集ツールとして、Twitterを積極的に活用してます。
特に皆様のツイートやブログ記事から多くのことを学ばせてもらってます。

一方、スマホを片手にすると別のアプリを起動しちゃって集中できない、という声もよく耳にします。
僕もそういう時はありますが、その辺のメンタルコントロールは自分で何とかしてください。

~メンタル~

…勉強の話が続いてしまいましたが、もちろん趣味や教養、親しい人達と過ごすための時間は一定量確保しなければなりません。
心の栄養がなくなればいくら時間があったってモチベは湧いてきません。

6.おわりに

激動の社会の中、法律自体の存在意義や法律家の役割も変容していくとは思いますが、これからも古いものと新しいものとの懸け橋になるべく、アンテナは広く張っていきたいと思います。

一方、アンテナを張るのも良いですが、仕事も勉強も「結果」がすべてであり、「ほんとは頑張ってたんだ」では周囲は認めてくれないのも現実です。
(社会人受験生で100人に1人しか通らない)論文に合格しても、口述に落ちる限り「不合格者」扱いです。
勉強開始直後に応援してくれた方々からも冷めた目で見られるのを痛感します。

全ては自分の努力不足に起因するものであり、過去の自分に対する裏切り行為だと反省してます。

以上、徒然と思いつくまま語ってみましたが、息抜きになりましたでしょうか。

7.補遺

僕の独断と偏見で、予備試験の科目(実務基礎科目除く)のうち企業法務パーソンに役立ちそうな科目をランキングしてみました~

以上です。
次は、タンザニアネコさん(@Tnatz2010)にバトンタッチします。よろしくお願いします!

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