「スミカ」 について

皆様こんにちは、お世話になっております、ボイスドラマ制作サークル「elpis.」主催の奈緒弥でございます。

今回は、HLUG様主催、「DJC1」に寄稿いたしました作品、「スミカ」について少し書いてみようと思います。 ネタバレを含みます為、まだ聴いていないという方はご注意下さいませ。


さて、「スミカ」ですが、まずざっくりとしたあらすじをお話しますと、「双子の姉の恋人に恋心を抱いていた主人公・スミカ(栖)が、その姉の死を境に、『姉になるため』に女装をして、その恋人に迫る…」と言った感じでしょうか。

スミカは、とても自分勝手な男の子です。 普通に考えて、姉になりかわったところで相手が好きになってくれるはずはない。むしろ、嫌われる可能性、相手を傷付ける可能性のほうが高い。現に、スミカは好きな人…アマネ(周)にこっぴどくフラれてしまうわけですし。

それでも、スミカはどうしてもアマネに好きになってもらいたかった。

スミカが女装をしているのに、あくまでも一人称が「俺」のままであるのは、彼の心の根底に「姉としてではなく、自分自身を好きになって欲しい」という想いがあったからです。女装をしているのは、そうしないと好きになってもらえない、当たり前だ、という彼の思い込み。でも、この一人称ひとつから、スミカの本心が滲み出てしまっているのです。

そんな彼に、お前はお前のままでいいのだと教えてくれたのが、親友のシズカ(閑)でした。彼はスミカが普通に男の子として暮らしている頃からずっとスミカのことが好きでした。他の誰でもない、「スミカ」という男の子が、好きでした。

だから多分、シズカにはスミカが痛々しく、悲しく、でも同時に愛しく見えていたことでしょう。度々「本当に良いのか?」と尋ねるのは、スミカの滲み出る本心にきっと気付いていたから。彼はずっとスミカを見ていたので、分かるんですね。多分。

冒頭で書いたように、スミカはひどく自分勝手な男の子です。けれどそれを指摘せず、お前はお前のままでいいのだと伝えたのは、スミカの心が分かっていたから。 本当は『自分自身』を見て欲しいという彼の悲痛な想いを分かっていたから。そして見事に、もしかしたらスミカ自身すら気付いていなかったその本心を言葉として引き出し、「スミカ」を受け止めたのです。

では、アマネは酷い男なのでしょうか

答えは、否です。

アマネはアマネなりの優しさで、スミカを突き放しました。アマネももしかしたら、スミカの心に気付いていたのかもしれません。だから彼の姿が痛々しくて見ていられない。せめて好きになってあげられたら良いけれど、自分にはそれが出来ない。 だからスミカを突き放すことで、彼に彼自身を取り戻させようとしたのだと思います。やり方は少々乱暴だったかもしれませんが、彼は自らが悪役になることを厭わなかったのです。

こうしてスミカは、最終的に自分の本心に気付き、それを認め、その上で自分自身を愛してくれるシズカに本当の意味で心を開きました。


「スミカ」は、スミカが『自分自身』を取り戻す物語です。身勝手で愚かだった哀れな少年が、周囲の力で『姉である自分』から『スミカである自分』に戻る。

そんな、優しい物語なのでした。

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