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旧約聖書物語 19

神から使命を受けながら
それを無視した奇妙な預言者ヨナ
優柔不断に見える神。
大国に翻弄される
エルサレムのユダヤの民の危機を
たった一人ですくった女性ユディット
欲望と腐敗が渦巻き末期的な状態に陥った
エルサレムのユダヤ人社会。

谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 ヨナの逃避 (ヨナ記)
2 ヨナの救済と悔悟 (ヨナ記)
3 ヨナの救済と悔悟 その2 (ヨナ記)
4 イスラエルの民を救うユディト (ユディト記)
5 イスラエルの民を救うユディト その2 (ユディト記)
6 イスラエルの民を救うユディト その3 (ユディト記)
7 大国に翻弄されるユダヤ (マカバイ記)
8 大国に翻弄されるユダヤ その2 (マカバイ記)
9 罰を受けるヘリオドロス (マカバイ記)
10 ヤソンとメネラオスの悪行 (マカバイ記)
11 ヤソンとメネラオスの悪行 その2 (マカバイ記)


1 ヨナの逃避 

  (ヨナ記)

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ある日、神が
アミタイの子ヨナに言った。
大いなる都ニエベに行け。
そしてそこで教えを広めよ。
ところがヨナは神の言葉に背いて
タルシュに向かった。
そのつもりでヤファまで行くと、折しも
タルシュ行きの船が帆を上げており
ヨナは金を払ってその船に乗り込み
神から逃れようとタルシュ向かった。
すると神が大風を海に送ったので
海は大荒れとなり
船は今にも砕け散りそうになった。
怯えた船乗り達は皆それぞれ
自分の神に向かって叫びながら
積み荷を海に投げ捨てた。
ところがヨナといえば
船底でぐっすり眠りこけていたので
船長は、寝ている場合か
とヨナを叩き起こして言った。
早く自分の神に祈れ
運が良ければ助けてくれるかもしれぬ。
そのうち人々は、一体誰のせいで
こんな目に遭うのかハッキリさせよう
と言い始め、全員で
籤を引くことになった。
そこで籤を引くとヨナに当たり
人々は、何処の誰だ、何処で生まれて
何処へ行く、仕事は何だと詰め寄った。
ヨナが、俺はヘブライ人。
私の主は海と大地を創った天の神。
その神から布教のため
ニエベに行けと言われたので
タルシュに逃げようと思った
と答えると皆、何ということを
どうしよう、と驚き恐れ
ヨナにすがったのでヨナは
俺を海に放り込めばよかろうと言った。
それでも船乗りたちはなんとか
船を漕いで岸に寄せようとしたが
それもかなわず、遂に
ヨナを海に投げ入れた。
すると海は静まり、そして一方ヨナは
神が遣った巨大な魚に飲み込まれた。

もう一つ、旧約聖書の最終盤になって、どうしてこんな話が、と思われるような物語が登場します。主人公はヨナという預言者ですが、真っ正直なヨブとは正反対です。なにしろ神から、アッシリア帝国の首都のニネベに行って布教しろと言われたにもかかわらず、その命令を無視して、迷うこともなく、神から逃げるために海の向こうのタルシュに向います。その態度には、神がどうした、とでもいうようなふてぶてしさがあります。神はあきれて海を荒らし、嵐の原因を占うくじに当たったヨナを船乗りたちが問い正せば、俺は神から布教のためにニネベに行けと言われたのが嫌で、タルシュに逃げようと思って船に乗った、などと言います。異教徒ながら船乗りたちは、ヨナの罰当たりぶりに驚き、ヨナの神を恐れ、必死になってヨナに、早く自分の神に懺悔(ざんげ)して祈りを捧げてくれと懇願しますが、ヨナは、嵐を鎮めたければ俺を海に放り込め、などと言います。それにしてもヨナの態度の悪さ、神を神とも思わないふてぶてしさには驚きますが、そんなヨナに対して神がとった態度は、かつての厳しく厳格な神と同じ神とは思えません。アダムとエバを楽園から追放した神、洪水を起こして自らが創った人間を滅ぼした神、カナンに攻め上る際に、異教徒たちを殲滅せよと命じた神。自分に従わない民を離散させた神。砂漠の中でアブラハムに神が降りてからすでに4000年の月日が流れるなかで、神はもうかつての神ではないのでしょうか。あるいは自分を信じる人がもうどこにも見当たらなくなってしまったのでしょうか、自分の言葉を民に伝える預言者もまた、かつてのような預言者とは大違いのヨナくらいしか現れなくなってしまったということでしょうか。


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