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旧約聖書物語 14

民族の神であるヤウエイと
ヤウエイとの約束を記した律法を忘れ
民の心を結びつける基軸を失って
自ら崩壊の道を歩み始めたヤコブ・イスラエルの民
それを戒める預言者エレミヤと
エレミアの言葉を聞かない民や王
そしてすでに滅びたイスラエル国に次いで
ついにバビロニアによって滅ぼされる
エルサレムを都とするユダヤ国。

谷口江里也 構成訳
ギュスターヴ・ドレ 画
©️Elia Taniguchi

目次
1 その後のユダ国の王と預言者エレミア (列王記下21-22)
2 その後のユダ国の王と預言者エレミア その2 (列王記下21-22)
3 その後のユダ国の王と預言者エレミア その3 (列王記下21-22)
4 その後のユダ国の王と預言者エレミア その4 (列王記下21-22)
5 エレミアの言葉 (エレミア書)
6 エレミアの苦しみ (エレミア書)
7 エレミアの苦しみ その2 (エレミア書)
8 エルサレムの陥落 (エレミア書)
9 エレミアの弟子バルク (バルク書)
10 シオンを哀しむ歌 (哀歌)


1 その後のユダ国の王達と預言者エレミア 

  (列王記下21-22)

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ヒゼキアの後を継ぎ
十二歳で王となったマナセは、しかし
父のようには正しく紙い仕えようとせず
せっかく父ヒゼキアが取り壊した
異教の儀礼のための高台
バアルの祭壇を復元し
アシュラの像を造って崇めた。
マナセは息子らに火をくぐらせ
呪いをし、呪術者を介して
死者の霊を呼ぶ口寄せを行うなど
神の目に悪と映る事を
ことごとく犯した。
こうしてマナセは悪の限りを尽くして
55年間王位に在ったが
その王の下でユダの民もまた
かつて悪ゆえに滅びた
他の国々の民にも増して悪を行い
悪に染まった。
マナセは死後
エルサレムの宮殿のウザの庭園に眠り
息子のアモンが後を継いだが
彼もまた父と同じ道を歩み
神の目に善しと映ることをしなかった。
アモンは2年間王位に在った後
家臣達の謀反に会って命を落とした。
エルサレムとユダの民は
謀反に連なる者を全て処刑した後
アモンの子、8歳のヨシヤを王とした。
ヨシヤは父祖ダビデの歩んだ道を
たがう事なく歩み
神の目に善しと映ることをした。

旧約聖書ではこれから、王の息子だというだけで、まだ何もわからない子どもが王の地位を受け継ぎ、神の目に悪と映ることをし続けて国が滅びて行く様子が盛んに描かれます。ヤコブ・イスラエルの民にとって善とは、彼らの神ヤウエイを信じること、具体的には神がモーセに伝えた律法、つまりはルールを守って暮らすことです。律法は実に細かなところまで決められていますから、それを守るものこそがヤコブ・イスラエルの民であり、そうでないものはヤウエイの民ではないということになります。ルールによって共同体のありようを決めるというのは、近代国家における国のありようを定めた憲法がそうであるように、ある意味では近代的な考え方です。これはヤコブ・イスラエルの民が先祖から代々受け継いだ特定の領土を持つ民ではないということと深く関係しています。つまりこの民の結束は血縁や地縁によってもたらされるのではなく、あくまでもこの民独自のルールである言葉で書き表された律法に他なりません。ですからそれを知らしめる預言者、そこから外れればそれを神に代わって言う預言者が民を率いてきたわけです。
しかしカナンという他の民族の領土を奪い取って国を築き上げて定住を始めたこの民は、世襲によって王を決め、そこにもともとあった土着的で呪術的な宗教に染まるようになってしまっています。つまり民のありようを決めるルールを、この民にとっての結束のかなめを、もはや見失ってしまったということです。憲法を無視すれば国が成り立たないように、国の基盤としてのルールを無視して国が成立するはずはありません。旧約聖書における神の怒りというのは基本的に常に、神と民が交わした約束(ルール)を無視することに対する怒りです。


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