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#4-2 プロジェクト

 会見まで5分を切った。

 恐らく金丸はすべてを説明するようなことはしない。萩中に対してもそうだ。わざと余白を作り、こちらの思考を刺激する。

 あの時も同じ。核心に迫ろうとしたところで、「またお前の意見も聞かせてよ」とかわされた。いよいよ計画が大詰めになってきた時も、中岡さんを招き入れる旨は聞かされたが、「やりたいと思ったらいつでも言ってきて」と肩を叩かれた。こちらが意思を示すまで、金丸はじっと待っている。だからこそ、この会見を観たうえで、自分の意思を示そうと考えた。


 会見まであと1分だ。タブレットには新しく開設されたCyber FCのMETUBEチャンネルの画面が映っている。TOKIWAの白壁だと萩中にはわかった。ワイヤレスイヤホンを装着した。少しだけ心拍数があがっていることが自分でもわかる。萩中がもう一度深く深呼吸をしたところで、画面にスーツ姿の金丸が白壁の前に現れた。

 「皆さん、こんにちは。金丸健二です。ご無沙汰しています、という表現の方が良いかもしれません。こうして皆さまの前でお話させていただくのは、引退以来のことですから。まずは、私の引退後の活動について簡単にご説明致します。当時の会見の時に少し触れたので、覚えている方がいらっしゃるかもしれませんが、引退後はそのまま堺東大学院に進学し、生態心理学の研究をしていました。論文を投稿し、研究をどのように現場に活かしていくのか苦心する毎日でした。修士2年生の時には、未曽有の事態が起こりました。皆さんの記憶にも鮮明に残っているであろう、感染症の流行です。私は、修士の研究と並行して、卒業後に香川県にクラブチームを新設する予定でした。ですが、その計画は感染症の影響で延期され、卒業して1年の準備期間を経て、FC MARUGAMEをスタートさせました。感染症は、私のサッカーに対する考え方にも大きな影響を及ぼしました。今回、新しいプロジェクトをスタートさせるうえで、決意が固まったのが丁度その頃のことです。

 では、その肝心のプロジェクトについての説明に移りたいと思います。プロジェクト名ですが、『11G(イレブンジー)』という名前にしました。ご存知の通り、サッカーは11人のプレイヤーがピッチの上でチームとしてプレーするスポーツです。ですが、その背景には多くの人の支えや協力があり、そのすべてが繋がって彼らのパフォーマンスを高めています。11Gも同じです。IoTの考え方にならい、『サッカーで起こることはすべてインターネットと繋がっている』とし、インターネットの力を利用しながら、11人のプレイヤーがピッチで輝くために注力し、第11世代と呼ばれる新しい未来を切り開きます。

 そして、そのコンセプトの根底にあるのが、『仮想空間にサッカーチームを持つ』というものです。基本的に実体のあるクラブとしての活動は最小限にし、リモートコントロールによってチームのパフォーマンスを高めることに挑戦します。

 かねてから、私はサッカーチームの人件費や莫大にかかる維持費を緩和できないかと考えてきました。特に育成年代においてはそれが顕著で、グラウンドの確保やスタッフの給料を払うために、大変な思いをしておられる方をたくさん知っています。時間的なコストにおいても同じです。寮やバスを持つチームは別ですが、移動にかかる時間は多大なコスト以外何ものでもありません。そこで、チームという実態をなくし、仮想空間内のやり取りにおいてパフォーマンスを高めることができれば、選手育成は可能なのではないかという仮説を立てるに至った次第です。

 わかりやすくで言えば、代表の活動に近いものです。集まった時のパフォーマンスを最大化するために、各自がチーム活動で最適な努力をする。そこに管理者としてのチームがなくなり、完全に個人が自分でプランニングをしていくような、そんなイメージです。

 正直、私自身も、これが正解かどうかはわかりません。実験的なことに子どもたちを巻き込むなという批判もありました。もっともなご意見だと思います。ただ、今の日本の閉塞感を打開するためにも、新しい発想は必要だと感じていることも事実です。うまくいく、いかないに拘らず、責任はすべて私が持ちます。それはお約束します。だからこそ、我々のプロジェクトに賛同する意思を持った高校生に参加してほしい。その気持ちでいっぱいです。
 
 応募条件ですが、今からお伝えする3つを絶対条件とさせていただきたいと思います。1つ目は、『プロジェクトの考え方を十分に理解し、明日の午後1時までに参加の意思を示せるもの』、2つ目は、『現在どこにも所属していない2009年生まれ以降の現在高校1年生、高校2年生(新高校2年生、3年生)の学年にあたるもの』、3つ目は、『クラブの提案する方法論に同意し、遂行できる者。特に、2度のスクーリング(合宿)に参加することは必須』です。

 応募期日ですが、あえて明日までとさせていただきました。もちろん、現在どこかに所属している人たちは辞めてまで応募する必要はありません。チームから引き抜くことを狙いとしていません。強調しますが、自分の意思で動き、人の気持ちを動かし、決断力のある人に参加してもらいたいと考えています。

 質問は特に受け付けていません。murmurarのDMも、一定期間は閉鎖致します。ご了承下さい。希望者の方は、チャンネルの説明欄に記載しているURLより応募フォームの画面にお進みください。
 最後になりましたが、このような機会をいただけたことに、感謝致します』



# 4-3  決断   https://note.com/eleven_g_2020/n/n1a1f79a87efe


【著者プロフィール】

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映画監督を志す小説家。日本が初出場を果たした1998年のフランスワールドカップをきっかけにサッカー強豪国の仲間入りを果たすためのアイデアを考え続けている。サッカーとテクノロジーが融合した物語、 11G【イレブンジー】は著者の処女作である。

Twiiter: https://twitter.com/eleven_g_11


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