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#006 社員紹介①システムマネージャー・杉村さん|ElevationSpaceの『宇宙、配信中。』

ElevationSpaceの『宇宙、配信中』は、プレスリリースやイベントでは伝えきれないディープな情報を、宇宙ビジネスを取り巻くホットな話題とともに、社内の様々なメンバーと楽しくお届けするポッドキャスト番組です!

第6回のゲストはシステムマネージャー(Satellite System Director)の杉村さん、インタビュアーは広報PRの武藤です。
社員紹介・仕事紹介シリーズとして、ElevationSpaceの雰囲気やモノづくりの様子をお伝えしていきます。



-まずは自己紹介をお願いします。

杉村
サテライトシステムグループのディレクターをしております杉村と申します。 
「システム」と言っても伝わりづらいかもしれないのですが、ELS-R初号機であるR-100(あおば)という衛星の全体を取りまとめています。



東北大学卒業~重工メーカーへの就職

ー 杉村さんといえば、ElevationSpaceの共同創業者である東北大学・桒原先生の教え子だと思うのですが、どういう経緯で桒原研に入ることになって、人工衛星をやることになったのかを教えていただけますか?

共同創業者/取締役 桒原さん出演回のポッドキャストはこちら

杉村
実は…私は桒原研出身ではなくて…(笑)

学部3年の配属で、私は吉田和哉教授の研究室に配属されまして、吉田研の衛星グループにおられた坂本祐二先生に指導いただいてたんですが、私が学部4年の時に桒原先生が赴任されまして、そこから一緒に様々なプロジェクトをご一緒したというご縁です。

吉田研には、人工衛星のチームもあれば、 軌道上サービスロボットのようなアームを使ったチームや、ローバー(探査車)のチームもあったので、その中からいろいろ見させていただいて、衛星を選んだという感じです。


ー 杉村さんは高専から東北大学へ編入されていますが、東北大学に編入した時点で「宇宙をやりたい」というのは決まってたんですか?

杉村
はい、宇宙をやれる大学をまず探して自分の学力と天秤にかけて、「東北大学なら…!」と思って勉強しました。

私は将来「宇宙船を作りたい」という目標があって。
そのためには衛星を作れるようになっておくといいのではないかと思い、それで吉田研で衛星チームを選んだのが、人工衛星開発に関わることになったきっかけです。


ー その後、吉田研究室に博士課程まで在籍されて、卒業後はまずどちらに行かれたんでしょうか。
 
杉村
卒業後は、株式会社IHIという重工メーカーに就職しました。
 
IHIでは宇宙系の部門に入れていただきまして、SSA(Space Situational Awareness・宇宙状況監視)という領域を担当しました。
近年問題になっているスペースデブリ(宇宙ゴミ)を含めた宇宙物体を光学望遠鏡で観測し、その宇宙物体の軌道決定を行い、データベース化して軌道把握するようなシステムの開発をIHIが行っていたので、その運用や維持管理をさせていただきました。

また、デブリ捕獲の研究開発に関わらせていただいたり、入社1年目のときにIHI社内で「衛星を作るぞ」となり、プロジェクトの立ち上げから衛星の開発に関わらせていただいたりしました。

その後、衛星開発途中でJAXAへの出向を命じられまして、革新的衛星技術実証プログラムのチームに出向し、革新衛星の2号機、3号機に関わらせていただきました。


- IHIで「衛星作るからやってよ」と声をかけられた背景には、杉村さんが東北大学時代、研究室で衛星開発を一通り、開発から運用終了までやったことがあるという経験が大きかったんでしょうか。

杉村
そうだと思います。指導くださった坂本先生の方針として、いろんな経験をさせて、1人で衛星作れるぐらいにするという考えがあったんだと思います。

「衛星を作る」となると、例えば制御だけではダメで、構造だったり通信だったり、そういったあらゆる要素が必要になります。
研究室のプロジェクトでいろんなことを経験させていただいたことが、企業で活きたと思います。また、これはどこの大学でもできる経験ではなかったと思います。
資金的な事情もありますし、学生のモチベーションとしても、純粋な「研究」とはちょっと違うので… 

それでも、「衛星を作って飛ばす」というロマンがある部分にどれだけ魅力を感じられるか、かつ、学びと捉えることができるかが重要だと思うんですね。
学生時代にはなかなかそういうふうに思えなくて、大変でもあったんですが、大学を離れて、今になって、いろんな経験をさせていただいたことには感謝しています。


- ちなみに吉田研をはじめとした航空宇宙工学の研究室を卒業した後の就職先って、どういうところが多いんでしょう?みんなJAXAとか重工メーカーとかに行くんでしょうか?

杉村
同級生や先輩だと、大手電機メーカー、家電とかカメラとか作ってるような企業に就職した人もいますし、建設機械の会社に行った人もいます。あとは、メーカーだったり、ソフトウェアの会社だったり…意外と幅広いですね。

博士課程を修了した人では、大手企業の研究所に行った人もいますが、もう航空宇宙やってない人も結構多いかもしれない。半分もいないんじゃないでしょうか。
…嫌になったのか、苦しかったのか…(笑)
大学でもういろいろ経験できたからいいやっていう考え方もあると思いますし、いろんな思いがあると思うので、一概には言えませんが…


- 日本国内で、企業で宇宙をやろうと思った時に、あまり選択肢がなかったということもあるかもしれませんね。
 
杉村
そうですね。今はスタートアップがかなり増えて、選択肢は広がったと思うんですけど、私が学生だった当時は…アクセルスペースさんぐらいだったんじゃないでしょうか。


大手とスタートアップの宇宙開発を比べると…

- そして杉村さん自身、「かなり増えた」スタートアップのひとつであるElevationSpaceに転職していらっしゃったわけですが、その経緯を教えていただけますか?

杉村
IHIには約6年お世話になりました。
その終盤、JAXAへ出向していたときに、桒原先生から「こういう新しいことをやろうとしているから手伝ってほしい」というお話を頂きまして、声をかけていただける・頼っていただけるというのは有難いことだなと思いました。

最初はすぐにはお返事できなかったんですが、出向が終わってIHIに戻り、「挑戦したい」という気持ちはあったので、転職することにしました。戻った直後だったので、IHIの皆さんには申し訳なかったんですが…


- ここ最近、民間企業で宇宙に関わる選択肢が急激に増えていますので、一度は宇宙に関係のない会社に就職したけれども、やっぱり宇宙系企業に転職する・戻ってくるということも可能な時代になっていると思います。
杉村さんは、大手とスタートアップの両方で宇宙に関わった経験があるわけですが、比較してみて…どうですか…

杉村
難しい質問ですね…(笑)
衛星開発は…やっぱり大変ですよね。今もかなりスケジュールを詰めてやっていて、コストダウンしつつ、新規性が多くて確認しなきゃいけないことも多いという状況で、苦しみは多いですよね。

それでもやっぱり、最後、打ち上げた後に電波が来て衛星の運用が始まる、その瞬間に向けて頑張っています。 いや、運用始まっても苦しいんですけど(笑)


- そこへいくと、杉村さんは衛星開発の全体的な道筋を何度も経験しているので、この先にどういう苦しみがあるか見えている、というのは大きいですよね。

杉村
そうですね、JAXAさんにも出向させていただいて、複数の衛星に関わるなかで、開発の初期から運用終了まで一連のサイクルを経験させていただいたのは本当に大きい財産だなと思っています。

これからElevationSpaceは、エンジニアを一気に増やしていくフェーズに入っていきますが、宇宙以外の業界から転職されてきたとしても、「こういう風に進めていくんだよ」というのを伝えられる人間が社内にいるというのは強みだと思います。
どんな方が来ても一緒にやっていけると思っています。


「ELS-R」とはどういう人工衛星?

- ここからはElevationSpaceのモノづくりについて詳しくお聞きしていきます。まず、私たちが作っている「ELS-R」とはどういう人工衛星なんでしょうか?

杉村
簡単に表現すると、「大気圏に再突入して回収できるカプセルを搭載した人工衛星」です。
その大気圏再突入・回収を実現するためには、様々な技術が必要になるため、そこに向かって研究開発・モノづくりを行っています。

大きなテーマのひとつめは、地球低軌道から衛星を離脱させるための推進装置「ハイブリッドスラスタ」の自社開発で、最近プレスリリースもしました。

ハイブリッドスラスタを使って減速して、カプセルを軌道上で分離して、カプセルが大気圏に再突入して帰ってくるという流れになります。


また、ふたつめの大きな要素としては、カプセルが大気圏で燃え尽きずに通過し、パラシュートでスピードを下げ、日本の近海に着水させて船で回収するという、一連の回収技術です。こちらもいくつかの試験についてリリースをしています。

私たちが開発する人工衛星は、宇宙で実験したいもの(ペイロード)を搭載し、軌道上にロケットで打ち上げた後、実験中のデータも必要あれば配信しつつ、最終的にはカプセルが地球に帰ってきて、実験の成果物を回収しお客様にお返しする、ということを可能にします。

そうして取得したデータや戻ってきた成果物を、顧客企業が宇宙市場に参入するための研究開発や、プロモーションに活用いただく…
この一連のサービスを、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」と呼んでいます。


ElevationSpaceのものづくり部門&システムマネージャーの仕事を紹介

- 大きな分類としては、我々は「人工衛星メーカー」ということになると思いますが、現状エンジニアは約15名という体制です。
その中で、ElevationSpaceにどういう開発の部門があって、杉村さんはシステムマネージャーとしてどういう役割を担っているのか教えていただけますか?

杉村
まず、衛星という構造物を設計する部門があります。熱設計も構造の部門の中にあります。

次に、衛星に内蔵されるコンピュータを作ったり、ソフトウェアを作ったり、宇宙から地球を撮影するようなカメラを電気的に制御するような電気・通信系の部門です。

そして先ほどもお話しした再突入するためのハイブリッドスラスタを開発する、推進系の部門があります。

また、このスラスタを噴射する方向をしっかり合わせる必要がありますので、そのための姿勢制御を担当する部門もあります。

ここまでは一般的な人工衛星メーカーによくある部門だと思いますが、ElevationSpace独自の部門としては、宇宙から地球に帰還する回収カプセルを設計する部門があります。大気圏再突入時、大気で加熱される現象を「空力加熱」というんですが、その解析などをCTOの藤田さんが筆頭に行っています。

また、ElevationSpaceの衛星には顧客企業から預かったペイロードを搭載しますので、顧客企業との調整や、我々の衛星を宇宙に運んでくれるロケット会社との調整を行う部門もあります。

そのうえで、私が担っている「システムマネージャー」とは何かという話ですが、衛星に限らず「こういう機能があって、こういうことを実現したい」という目的を実現するのが「システム」だと思います。

ここまで挙げてきたような、構造や電気・通信、姿勢制御といった要素を全部合体させて、ひとつの衛星に仕上げていくわけですが、何かが尖りすぎてしまうと調和が取れなくなってしまいます。
必要な機能をまとめつつ、ほしい性能をしっかり出して、満足できるように統合していくというのがシステムマネージャーの役割だと思っています。


- とても分かりやすかったんですが、やはり一般の方からすると、どういう工程を経て人工衛星というものができあがってくるのか、想像しにくいところがあります。
すっごーく簡単に、人工衛星の、特に初号機がどのようにできあがっていくのかということを教えていただけますか?

杉村
これも衛星に限らずだと思うんですが、開発品を作るにあたっては、まず、何をしたいのかを決める「ミッション定義」という作業が必要になります。

その後、そのミッションを達成するためには何が必要になるか、「概念設計」という作業でイメージを作りこんでいきます。

そこである程度イメージが固まってきたら、「基本設計」でイメージに対してもう少し詳細化を進めていきます。イメージを実現するためには、どういう性能を出す必要があるのかという要求を定めて、更に「詳細設計」で要求を細かいレベルに落とし込んでいって、そのためにはどういう設計が必要か、何を調達しないといけないか、ということを考えていきます。

そうして出来上がってきたものを組み上げて試作機(エンジニアリングモデル等)を作り、これでちゃんと動くか、性能が出るか試験で確認したうえで、その結果も踏まえて実機(フライトモデル)を製作していく、というのが、超ざっくりした人工衛星開発の流れです。

- 今言っていただいた工程のなかの「試験」というのが、最近多数プレスリリースしている、ハイブリッドスラスタの燃焼試験とか、カプセルの着水衝撃試験というステップなんですね。


帰還・再利用できるパーツを増やして、宇宙利用をもっと身近に

- ひとりのエンジニアとして「ELS-R」というプラットフォームの魅力はどういうところにあると思いますか?

杉村
まずは、回収できる・帰還するというのは大きなポイントで、国内で我々しか取り組んでいない領域ですよね。

この「持って帰ってこられる」ということは、ゆくゆくは宇宙機の再利用につながることだと思っています。
初号機の「あおば」では、小さいカプセル部分が帰ってくるだけなんですが、2号機以降では、もっと幅広く再利用できるように、こんなものも回収するのかというぐらい、衛星の主要部分をできるだけ多く地球に帰還させたいと考えています。

そして、帰還したパーツをもう一度使えるか評価し、パーツの再利用率を上げていくことで、コストダウンにつなげ、幅広くいろんなお客様に宇宙を使っていただけるようになる、宇宙での活動の可能性を広げていけるのが、ElevationSpaceや「ELS-R」の魅力だと思います。


- 再突入・回収は、技術としての難しさもあって、国内のベンチャーでは我々しかやっているところがないんですが、海外ではつい最近宇宙で薬を作って帰ってきたベンチャーがあったり、少しずつこのトレンドが世界的にも広がっていくと思っています。ElevationSpaceが、この領域をリードする形で関わっていきたいですね。
杉村さん、ありがとうございました。



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