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GRAPEVINEを“科学”する-vol.2 全体のデータ-

今回は、テキストマイニングツールの解説を含め、GRAPEVINEの歌詞全体のデータ解析してみたい。

今回、対象となる作品は、前回の記事で紹介した1stミニアルバム『覚醒』~16thアルバム『ALL THE LIGHT』の作品。そして、『OUTCAST~B-SIDES+RARITIES~』以降のシングルのカップリング曲だ。220曲以上はある。ただし、ここには“青い魚”(作詞:金延幸子)、“窓”(作詞:西原誠)は含まない。あくまで田中さんが手がけた歌詞とする。

これを、テキストマイニングツールを使って解析していく。

ちなみに、テキストマイニングツールとは、テキスト情報を自然言語処理の技術を使って解析し、頻出語や特徴語を抽出するものだ。そのなかではじき出されるのが「スコア」。スコアの大きさは、テキストのなかで該当の単語がどれだけ特徴的かを表す。つまり、「言う」「思う」といった単語は、頻出したとしても、どのような種類のテキストにも表れやすいため、スコア自体は低くなる、という具合だ。

まずは、「ワードクラウド」を確認してみよう。これは、スコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで図示されたものだ。青色が名詞、赤色が動詞、緑色が形容詞、灰色が感動詞を表す。

【ワードクラウド】

ひと際目につく名詞は「君」だ。二人称の名詞は「君」のほか、「きみ」「あなた」も見つかる。ここの使い分けはかなり明確で興味深いものがあるので、これについてはまた別に記事を書く予定だ。

動詞では「わかる」が目につく。確かに、「君」のことや「二人」の間にあるものが、わかったりわかってなかったり、わかった気がしたり、わからなくなってもそれでよかったりしている。

これらのワードをランキングにすると、以下のようになる。

【単語出現頻度】
●名詞

二人称以外にスコアが高いのは「夢」「空」「愛」など。近年の作品でよく出てくる「風」もランクインしている。

意外にも入っていないのが「光」だが、出現頻度は30回と決して低くはない。そして、「夏」もかなり特徴的な単語だと思っていたが、こちらの出現頻度は25回。しかし、全歌詞に検索をかけてみると、

春:7回
夏:34回
秋:0回
冬:8回

と、季節では圧倒的に「夏」が多い。ランクインはしていないが、田中さんにとって重要なキーワードだと思うので、「光」「夏」については、また別に記事を書ければと考えている。

●動詞

「ゆく」は、移動する“行く”の意味や、現在進行形を表す時にも用いられているが、第1フェーズ(初期)のころは、自分の希望・期待に反して無常に変わっていくものを描くことが多い。

光にさらされてゆくこの世界の中 君を見ていられた
涙が流れて聞こえなかったとしても 空に浮かべていこう
――”光について”より
薄れゆく空の色 息はずませ
見えぬ坂道を 遠くなって
消えゆく言葉を もう吐き出せ
声が聞こえたら 思いがけない場所へ
――“here”より

これに似た部分があるが、「しまう」も、何かを“し終える”という意味ではなく、自分の希望や予測と異なる状態を示すため、使われることが多い。

交わした温もりなんて忘れてしまうだろう
――“少年”より
世界を変えてしまうかもしれない
今のきみは笑うかもしれない
――“真昼の子供たち”より
「ここに雨を降らしてよ
 全てを洗い流してしまうくらい」
何もかもを濡らして
朝になれば乾いてしまうのか――“Weight”より

そして、最も高い出現頻度を記録している「言う」だが、後期になると「云う」という表記に変わる。「云う」はTOP10にはランクインしていないが、出現頻度は26回。ランクインした「待つ」「見える」に続く。これについてはのちの「共起キーワード」のパートで言及したい。

●形容詞

1番スコアが高い単語は「遠い」だ。これが修飾するものとして一番多いのが「君/きみ」。君の声、髪といった身体的要素、そして一緒に過ごした時間や空間などを修飾する。ほかには「空」などもある。

以上の単語について、出現パターンが似ているものを結んだのが以下の「共起キーワード」の図だ。出現数が多い単語ほど大きく、また、共起の程度が強いほど太い線で描かれている。

【共起キーワード】

単語出現頻度のところで述べた「云う」「言う」についてだが、「君」「きみ」の視点から見ると、この違いが見えてくる。

「君」を選択すると、一番太い線でつながっているのは「言う」だということがわかる。つまり、この2つはセットで使われることが多い。

一方で、「きみ」を選択すると、そこと一番太い線でつながっているのは「云う」だということがわかる。

田中さんはある時を境に、「君」と「きみ」を使い分けている。それは『From a smalltown』だ。これより前は「君」、後は「きみ」。ちなみに、この2つが混在している曲が1曲だけある。それがこちら。

きみのもとへ砂埃は
ずっとを遠ざける
――“ランチェロ’58”より

詳細は「君/きみ」を考察する記事で書くが、『From a smalltown』より前の「君」は、恋人、あるいは思いを寄せている女性として描かれることが多い。そのときリアルタイムで実在している人物だ。

言う に熱くなる がわかってないなんて
夜が昼より明るくて それがわかってない二人 まるで
――“リトル・ガール・トリートメント”より

それが、『From a smalltown』より後の「きみ」になると、恋人に限定されない描き方になる。そのなかには、息子≒幼いころの自分、世間、次世代の若者などさまざまあると思うが、総じて想像や概念としての人物が多く、曖昧な存在になっている。

木漏れ日が今きみを照らしていた
溢れるように鼓動が聞こえていた
ただの未来がこれほど愛おしいのか
教えておくれ
おれは今何を云おう
――“無心の歌”より

実在する人物の、直接的なアクションとしての伝聞=「言う」、概念的な存在に対し、思想や気づきなどを含むものの伝聞=「云う」。そんなふうに使い分けているのではないかと考えられる。そして、田中さんの価値観の変遷――要するに年を重ねたことにより、今は「云う」ことのほうが多くなっているのだと思う。

以上が、GRAPEVINEの全期間の作品についての解析(+若干の考察)だ。

フェーズごとあるいは単語ごとの詳しい解析・考察は、また順次記事を作成していく。

P.S. 前回のフェーズ分けの前に、これをするべきだったと反省しています。普通、フェーズ分けしたら、次の記事からは第1フェーズの分析に入ると思いますよね……ごめんなさい。

その時々に気になったことをもとに書いているもの、書きたいけど資料が足りなくて後回しにしているものなどあるので、順番が前後する可能性が高いです。読みづらいところもあるかと思いますが、引き続きよろしくお願いいたします。

#GRAPEVINE