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Snow Manに沼落ちした理由

自粛期間中、ジャニーズの新人アイドルグループ「Snow Man」にハマった。

気づけば頭のてっぺんまで“Snow Man沼”にズブズブだった。いわゆる“沼落ち”である。

生まれてこのかた、ジャニーズアイドルにハマったことは一度もなかった。ジャニヲタの友人もいたのだが、どんなにヲタ直伝のレクチャーを受け、曲を聴き、出演番組を見ても、まったく感化されなかった。なので「一生ジャニーズにハマることはない」という確信すらあった。

それが今や沼落ちである。

しかし、なぜ私はSnow Manにハマったのだろう。ジャニーズに1mmの興味もなかった私が、どうして彼らの沼に落ちてしまったのだろう。

ふとYouTubeやSNSを見ると、Snow Manの新規ファンには同じような方が多いことに気づく。ジャニーズにハマったことのない女性が、自粛期間中にいつの間にか沼落ちしてしまった、という展開だ。

今回のnoteでは、その要因を考察してみたいと思う。

ハマる原因は◯◯性

しょっぱなから結論を述べると、Snow Manにハマる原因はずばり関係性であり、そのベースにある物語性だと思っている。

関係性・物語性のファクターは、女性のファン活動において重要な要素だ。立教大学社会学部の吉澤夏子教授は、社会とジェンダーの関わりを解くインタビュー「女であるとはどういうことか」にて、以下のように述べている。

精神科医の斉藤環さんは、女性は関係、男性は所有という欲望の形式を通じて自らを主体化している、と論じています(『関係する女、所有する男』講談社現代新書 2009)。(中略)女性は物語の時間軸に沿ってその設定や世界観や関係性の絡みあいなどあらゆる「萌え要素」を味わい尽くしながら、いたるところに快楽を感受し持続させていくことができる、ということだと思う。

つまり女性は、推し(対象となるアイドルやキャラクター)がまわりとどのような関係にあるのか、その背景にはどのような物語があるかを重視し、ファン活動における喜びや興奮に繋げている、ということだ(私がSnow Manを見るときもこの視点が強いと感じている)。

では、まずはSnow Manにおける関係性のファクターを紐解いてみよう。

Snow Manには多様な関係性が存在する。付かず離れずの関係、互いに気心が知れた関係、ファミリー的なあたたかい関係など、実にさまざまだ。

一例を挙げると、リーダー&最年長という立場柄、夫婦枠として人気の「いわふか」こと岩本照・深澤辰哉。同じ病院で生まれた幼なじみペア「ゆり組」こと宮舘涼太・渡辺翔太。ジャニーズ初の大学院卒アイドル・阿部亮平はみんなの“先生”として、ポジティブで明るい佐久間大介は“切り込み隊長”としてメンバーをひっぱる。ムードメーカーなのに実はナイーブで寂しがり屋な向井康二を、目黒蓮が持ち前の色男ぶりで受け止める「めめこじ」や、お兄さんたちにとことん可愛がられる現役高校生ラウールといった構図も微笑ましい。

ファンはライブ映像や配信動画を観ながら、その本筋だけでなく「やっぱいわふかだろ」「ゆり組の絆!!」「めめこじ尊い...」と、バラエティあふれる関係性を楽しみ尽くすのである。

9人もいれば、ペアだけでも組み合わせは36通り。それぞれが日々アップデートされるので、ファンにとっては飽きがこないのもポイントだ。

次に物語性のファクターを解いてみよう。Snow Manの物語性とは、長い下積み時代のドラマだ。

Snow Manの結成は2012年。オリジナルメンバーは岩本・深澤・渡辺・阿部・宮舘・佐久間の6人だった。彼らのダンススキルはJr.のなかでも一線を画し、2016年は通算200ステージ以上でバックダンサーを務めた。先輩アイドルからの信頼も厚く、デビュー前から注目を集める存在だった。

しかし、デビューの機会に恵まれず、同期・後輩に先を越される日々が続く。そこに追い討ちをかけるように、2019年には向井・目黒・ラウールの新加入を打診されるという出来事も。6人は大きな葛藤を経て、「どんな形であれSnow Manを守るため」と、3人の加入を受け入れた。

一方、加入メンバーもそれぞれが関西ジャニーズJr.、宇宙Six、 少年忍者に所属しており、兼任・脱退という事実に直面。また、すでに6年もの活動歴をもつSnow Manへの加入は、一部ファンの反対と、大きなプレッシャーを伴うものだった。

そのような苦労を経て、2020年1月に悲願のデビューを果たしたSnow Man。彼らは“9者9様”の物語をもつ、ドラマティックなグループなのである。

そのような背景を踏まえると、「いわふか」はただのリーダー&最年長ペアにあらず、Snow Manの2本柱としてグループを支え続けた“戦友”感があるし、「ゆり組」の“幼なじみと一緒にデビュー”というトピックには、キャッチーさではなく感動が生まれる。

阿部の大学院卒という学歴からは、それだけ将来に不安を感じ、何度も人生の岐路に立ったことが読み取れるし、佐久間のポジティブさが後天的なものだと知ったときには、どんな未来が待っていたとしても、前を向いて進むと決めた覚悟が伝わってくる。

関西から1人やってきたナイーブで人見知りな向井が、すっかり目黒に甘えている様子を見ると安心するし、16歳という若さで大きな決断をしたラウールのまわりに、優しいお兄さんたちがいると思うと心強い。

このような物語性、それをベースとした関係性が、沼落ちを加速させる要因だと考えている。

しかし、このような要素はSnow Manに限らず、2人以上の集団であればどこでも発生しうるものだ。にもかかわらず、なぜSnow Manだったのか。次はここをブレイクダウンしていこう。

コンテンツのオープン化

ポイントは「コンテンツのオープン化」そして「集合知によるプロモーション」だと考えている。

まずは、コンテンツのオープン化を紐解いていこう。

ジャニーズ事務所は、インターネット上のコンテンツ開示に厳しい事務所だ。宣材写真のSNS使用は2017年4月、各種ECサイトにおけるCDジャケット使用は2017年8月、舞台挨拶などの画像・映像のWeb使用は2018年1月にようやく解禁。つまり、長年クローズドなファンビジネスを続けてきたといえる。

この理由は、ジャニーズのビジネスモデルが「客単価」を重視していたことにあるだろう。

ジャニーズは、写真はグッズとして、音楽はCDとして、映像はDVD・Blu-rayとして販売し、ロイヤルティの高いファンに買い揃えてもらうことで大きな売上を確保していた。インターネットにおけるコンテンツの無料開示に厳しかったのは、この客単価の高さを重視していた証拠と考えられる。

しかし、今のエンタメビジネスは「客数」を重視するのが主流だ。それを支えているのがYouTubeやSNSなど、ここ10年で一気に普及したデジタルプラットフォームである。

ユーザーはスマホを通じ、さまざまなプラットフォームから、さまざまなきっかけで無料コンテンツにふれる。そのなかで、YouTubeの再生回数は広告収入に直結するし、有料コンテンツに課金したり、グッズを買い揃えたり、ライブに通ったりするファンも出てくる。ファンのロイヤリティには大きな個人差があるが、客数でスケールすることで、総合的に見たときにビジネスが成立するようになっている。

ジャニーズの戦略は、そんな時代の流れに逆行していた。クローズドなコンテンツ戦略は致命的な欠点となり、ターゲット層である若者のテレビ離れ、CD売上の減少なども相まって、ファンビジネスに暗雲が立ち込めていた。

そんななか始まったのが、ジャニーズ初のYouTubeチャンネル「ジャニーズJr.チャンネルである。

2018年3月に開設された同チャンネルでは、デビュー前のHiHi Jets、東京B少年、SixTONES、Snow Man、Travis Japanがレギュラーメンバーとして登場。グループごとにさまざまな企画に挑戦した。

一部では、まだ知名度の低いグループの登場に「嵐を出せ!」と批判も集まったようだが、かくしてジャニーズのコンテンツ戦略は、ジャニーズ新世代のプロモーションをきっかけにオープン化され、舵を切ったのである。

集合知によるプロモーション

では、YouTubeを始めたことが重要なのかといえば、その答えはYESであり、同時にNOでもある。なぜなら、YouTubeはファン化までの足がかりにすぎないからだ。

そこで、もう1つのポイント「集合知によるプロモーション」について説明したい。これは、前半で言及した「関係性」に関わる重要なところだ。

まず、関係性を知るには“量”が必要となる。

かつてファン(もしくはファン化する前の潜在層)はテレビ、ラジオ、雑誌、ライブなどから膨大な情報にふれていた。そのなかで、推しにまつわる関係性を発見すると同時に、それがシチュエーションを問わず偶然ではない頻度で起きているか、その関係性は今も続いているかといった情報をアップデートし、関係性を確信し、ハマっていった。

従来、その過程は時間を要するものだ。膨大な情報からポイントをピックアップしていくので、当然のことである。

しかし、時間を要するということ、つまり導入時間の長さはリスクでもある。なぜなら、ファン化する前にスキップしてしまう可能性があるからだ。

特に、日頃スマホを通じて膨大な情報にふれているミレニアル世代、Z世代は、導入が長いとスキップしてしまう傾向にある。これはよく音楽ストリーミングで挙げられるスキップレート問題(イントロが20秒以下続くとユーザーにスキップされやすくなり、再生回数が上がらない)にも通ずるところがあり、音楽以外のあらゆるコンテンツで起きていると考えられる。

つまり、今の時代、ファン化するまでのスキップレートを最小限に抑えるには、スキップする前にクイックにハマらせる仕掛けが必要になるのだ。

それを担うのがYouTubeのコメント欄だと考える。

「ジャニーズJr.チャンネル」および「Snow Man」チャンネルはコメント欄が開放されており、誰でも書き込むことができる。人気の動画には1万件以上のコメントが寄せられているものもざらだ。

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このコメント欄はファンの集合知としての機能を有していると考えられる。すでに彼らの関係性を熟知しているファンが、彼らの個性やバックグラウンドを踏まえ、動画の見所や尊いポイントを書き込んでいるからだ。

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これはさしづめ、エモーショナルなWikipediaといったところだ。予備知識がなくともSnow Manの概要をつかむことができ、彼らの楽しみ方を教えてくれるガイドなのである。

なかにはアンチコメントなどもあるのだろうが、コメントの表示方法がデフォルト(評価順)のままであれば、「いいね」の数が多いもの=多くのファンが共感できるものが浮上してくる。そのため、誤情報に出会う確率が少ないばかりか、いいねの多いもの=ファンの総意として、王道の楽しみ方をわかりやすく教えてくれるシステムになっている。

このファンの集合知は、一種のプロモーション活動として効果を発揮していると考えられる。なぜなら、かつては膨大な時間を要していた情報収集のプロセスを効率化し、前述の通り、短期間で潜在層をファン化させる仕掛けを担っているからだ。

まとめ

以上の考察を踏まえて、「なぜ私が自粛期間中、Snow Manに“沼落ち”したのか」を簡潔にまとめると以下のようになる。

① コロナによる外出自粛でYouTubeを観る時間が増えた
② 何かの拍子にSnow Manの動画が出てきた(と思う)
③ 動画がおもしろかったので、関連動画を観た(と思う)
④ 動画を観るうちにコメント欄に目を通し、彼らの関係性・物語性を知る
⑤ Snow Manのことが好きになる
⑥ ④⑤を繰り返しながら沼落ち完了

もちろん、前提としてSnow Manのバラエティ力の高さはあると考えている。彼らの出演番組「7G」でMCを務めた西野亮廣さんも、「Snow Manはバラエティの勘がいい。走ってほしいときに、走ってほしいところに走ってくれる」と、彼らの対応力を称えていた。

そのような彼らのポテンシャルがあったうえで、ジャニーズがコンテンツをオープン化したタイミング、ファンによるコメント欄を通じたプロモーション活動、コロナの影響などが重なり、今、Snow Manにハマっている人が増えているのではないかと考えている。

長々と書いたが、これは消費者行動モデルでいうところのSIPS(共感⇨確認⇨参加⇨共有・拡散)であり、そう考えれば10年前からあったものなので、全く目新しいことはない。ただ、記念に書いてみた。

何の記念かというと、本日は2ndシングル「KISSIN' MY LIPS / Stories」の発売記念です! 買えとは言いませんが、一応宣伝はします! よろしく!

#SnowMan #くちびるものがたる #KISSINMYLIPS #Stories