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30 先生って楽しいな、と思う時間

ウィズコロナだから卒業式には在校生は出席しない。
今まで卒業式練習で使っていた行事の時数を、廊下や階段、三年生教室の装飾活動に充てている。今までは「つくらなければならないもの」がある程度決まっていたが、時数が少し増えたことで子どもたちに委ねる「ゆとり」が生まれた。
風船を膨らませながら友人と戯れていたり、模造紙をガムテープでつなげるのに苦戦したり、色画用紙に桜の花を模るためにコンパスや分度器を使って五角形を書いたり、・・・。

学校って感じがする声が教室のあちらこちらから聞こえてくる。僕にとっては、とても心地良い時間だった。あの時間は、深く呼吸することができていたかもしれない。みんなはどう感じていたのだろうか。

僕は3班の監督・相談役。今回、できるかどうか終わるかどうか見通しを持てずに、見切り発車でスタートした班が1つある。ディズニー映画『リメンバー・ミー』に出てくるようなマリーゴールドで敷き詰められたオレンジ色の道をつくりたい。卒業式だから、それを桜の花でやってみたいという班だ。

リーダー生徒といろいろと相談して、ピンク・オレンジ・うすいピンクの3色の不織布でたくさんの花びらをつくることにした。
第一の壁は、ふにゃふにゃの不織布をクラフトパンチでどうやってくり抜くか問題。
これを一緒に考えるのが本当に楽しかった。作業初日、クラフトパンチでくり抜こうとしても、生地が柔らかくうまくくり抜けないことが判明した。まず、柔らかさを克服するために、普通紙を挟んでみた。だが、今度は硬すぎて、うまくくり抜けなかったのだ。それから3人で、あーかなこーかな悩んでいろいろアイディアを出していった。ある子が「半紙はどうか?」と言ったので、それをってみることにした。国語の先生に半紙を分けてもらい、ついで半紙のそばにあった新聞紙も一緒に教室に持ってきた。試しにやってみると、なんと新聞紙が一番うまくいくことが判明した。ここまで辿り着く過程が本当に楽しかった。学校っておもしろい。

翌日、第二の壁が発生する。
予定では、廊下に花びらを1万枚くらい敷き詰めたかったのだが、残りの作業日数では花びらの枚数が足りない問題。

床に敷き詰めるアイディアの代替え案を、リーダー生徒と考える。
・鉢に水を入れて、その上に浮かべたらどうか?
・天井にビニールを這わせて花びらを乗せてみては?
・バルーンに入れてみては?
・額に入れてみては?
僕が出したアイディアはあまり受け入れられず、なかなか決まらない。リーダー生徒が僕のアイディアをもとに「だったら、ラミネートしてみてはどうでしょうか?」と言ったので、とりあえず試作品をつくってみることに。A3のラミネートシートに15枚くらいの花びらを挟んだものを50枚強廊下に並べる案に決まる。最終的には、本人が最初に成し遂げたかったお花の道ができそうだ。あとは870枚花びらを切り取り、ラミネートできるかだね。

いよいよ、卒業式前日。後輩たちが手伝ってくれたおかげでラミネートシートは完成し、廊下にシートを並べていく。しかし、僕が用意した塗装用マスキングテープで固定すると、せっかくの透明なシートを台無しにしてしまっていた。「しょうがない。何かいいテープを探してきて、僕が一人で放課後作業するよ。」というと、リーダー生徒が「ちょっと待ってください。このテープにメッセージを書いたらどうですか?」と言った。そして、いろいろな先生や生徒に声をかけて「卒業おめでとう」「Happy Graduation」などど書いてもらって、卒業生が体育館前に整列したときにメッセージが読めるようにしたのです。

こうやって考えたこともない課題に生徒と一緒に考えていく過程は、本当に楽しい。装飾活動は規模を縮小したり、昨年度のものを引き継ぐ形で簡素化する流れがあるけれど、小さなお祭りみたいだから好きなのかな。僕の能力なんか遥かに上にいくアイディアや作品に出会えたり、どうしたら生徒のやりたいことが実現できそうか悩むことが好きなんだろうな。