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ゾウの村 ランブル日記

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ゾウの村の住人、Tomokoの記事。研究のこと、ゾウの村での調査、日々の暮らしのことなどについて書いた記事のマガジン。
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#エッセイ

ゾウの墓に木を植える

年末年始は調査先の倒れたゾウのことが気になって、休みなしで彼女の元へと向かった。 ホストマザーからは年末年始を家族と過ごせないくらい調査先の仕事が忙しいのかとぼやかれた。いつもならホストマザーの気持ちに配慮して「やっぱり行くのやめようかな」と言ってしまうところだが、今回はどうしてもそれが出来なかった。 もう何ヶ月もの間、治療中におやつをあげていた私に対する彼女の態度は、けっこう傲慢だ。 近づくと鼻を伸ばしてきて、私だと確認すると「さぁ、くれよ」と言わんばかりの顔で私を見てく

見えないものに溢れた世界で

明け方四時頃、向かいの家にオートマ車が止まる音で目が覚めた。 時間が時間なだけに、強盗かもしれないと思い耳を澄ませた。どうやら向かいの家の息子の友達だったようで、息子のバイクの音とともに車の音も遠ざかっていった。 ほっとして布団に潜り込んだ。 ガチャッ 私の部屋の下に位置するキッチンの裏口が強く引っ張られた音がした。 ホストマザーが起きるには早すぎるし、そもそも内側から鍵を開錠したとすれば静かに開けられるはずだ。 しばらくすると、我が家の犬が激しく吠え始めた。普段は家の敷

ゾウに触れる、輪郭が溶ける

スリン象祭りに運営側として携わっている間に、調査先のゾウが倒れた。 博論執筆に向けた長期のフィールドワークを開始して、もう一年以上が経つ。その間に得た経験から言えば、自分の体重を支えることが出来なくなったゾウに残された時間は長くない。 だが、あれから約三週間。彼女はまだ生きている。いま私の目の前で息をしている。 それでも、日に日に死前臭が強くなっていく。内臓が徐々に機能しなくなりつつあるのだ。 身体の表面に出来た傷には、蠅がたかり、蛆虫が湧いている。それを、可能な限り生理