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ゾウの村 ランブル日記

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ゾウの村の住人、Tomokoの記事。研究のこと、ゾウの村での調査、日々の暮らしのことなどについて書いた記事のマガジン。
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#文化人類学

学会発表 | ゾウの村 ランブル日記 by Tomoko

こんにちは、日本は暑い日が続いていますね。 私はここ三週間くらい、世界が回る系のめまいが再発しており、湿気と低気圧によるダメージも相まって、しんどい日が続いています。 そんな中、先週末の某学会でコロナ禍のタイの失業ゾウに関する発表をしてきました。 スリン県・ブリラム県失業ゾウ実態調査によるアンケートデータを用いた研究成果の発表はこれがはじめてになります。 内容としては、コロナを契機として変遷したタイの飼育ゾウのケアを関係論的に捉えようとしたものになります。 アンケート結果

ゾウの墓に木を植える

年末年始は調査先の倒れたゾウのことが気になって、休みなしで彼女の元へと向かった。 ホストマザーからは年末年始を家族と過ごせないくらい調査先の仕事が忙しいのかとぼやかれた。いつもならホストマザーの気持ちに配慮して「やっぱり行くのやめようかな」と言ってしまうところだが、今回はどうしてもそれが出来なかった。 もう何ヶ月もの間、治療中におやつをあげていた私に対する彼女の態度は、けっこう傲慢だ。 近づくと鼻を伸ばしてきて、私だと確認すると「さぁ、くれよ」と言わんばかりの顔で私を見てく

見えないものに溢れた世界で

明け方四時頃、向かいの家にオートマ車が止まる音で目が覚めた。 時間が時間なだけに、強盗かもしれないと思い耳を澄ませた。どうやら向かいの家の息子の友達だったようで、息子のバイクの音とともに車の音も遠ざかっていった。 ほっとして布団に潜り込んだ。 ガチャッ 私の部屋の下に位置するキッチンの裏口が強く引っ張られた音がした。 ホストマザーが起きるには早すぎるし、そもそも内側から鍵を開錠したとすれば静かに開けられるはずだ。 しばらくすると、我が家の犬が激しく吠え始めた。普段は家の敷

ゾウに触れる、輪郭が溶ける

スリン象祭りに運営側として携わっている間に、調査先のゾウが倒れた。 博論執筆に向けた長期のフィールドワークを開始して、もう一年以上が経つ。その間に得た経験から言えば、自分の体重を支えることが出来なくなったゾウに残された時間は長くない。 だが、あれから約三週間。彼女はまだ生きている。いま私の目の前で息をしている。 それでも、日に日に死前臭が強くなっていく。内臓が徐々に機能しなくなりつつあるのだ。 身体の表面に出来た傷には、蠅がたかり、蛆虫が湧いている。それを、可能な限り生理

タイ東北部スリン県・ブリラム県の失業ゾウのこと

タイには多くのゾウがいる。 人々とゾウのかかわりがどのようなもので、いかなる歴史を紡ぎ出してきたのかは、地域やエスニック集団ごとに大きく異なる。 例えば、林業に従事する南タイのゾウ、エレファント・キャンプで働く北タイのゾウ、観光地や故郷であるゾウの村で働く東北タイのゾウ、そして縮小する森林地帯で暮らす野生ゾウたち。それぞれがゾウ使いや近隣に暮らす住民などと多様な関係を築いている。 私が調査を行っているのは、東北部スリン県およびブリラム県の県境にある「ゾウの村」と呼ばれる地域

ゾウの村に暮らして | ゾウの村 ランブル日記 by Tomoko

タイ東北部スリン県の「ゾウの村」の住人、Tomokoです。 私がこの地域に暮らす人々と知り合って早16年。高校生の時にスタディツアーでこの地域を訪問してから、人生の半分くらいの時間を彼らと過ごしてきたことになります。 現在、私はここでクアイの人々とゾウの関わりについて文化人類学の視座から研究を行っています。 スリンと言えば、タイ三大祭りの一つである象祭り(Surin Elephant Round-up)が行われることで知られています。 例年11月の第三週目に行われるこの象