輝くエジプト人

最近、妻がアラビア語の授業のたびに家庭教師に" أنتي منورة (あなたは輝いていますね)"と挨拶で言われていて、その用法について考えていた。光り輝く妻。

挨拶は軽く流しがちではあるが、実は結構難しいエジプト人の挨拶。
どの言語でもそうだと思うが、挨拶の使い分けは背景を間違えるとコミュニケーション上致命的な時もあるので、どのような相手に使う表現なのか確認してもらった。

1.親戚等の関係が近い人
いわく「まず、あなたの様に関係が近い人とか、親戚に使う」
妻はこの家庭教師と、教師と生徒という意味で2年近い付合があり、彼が受け持っている非ネイティブ向けのアラビア語講義の生徒の中では、妻は関係が近い生徒ということだろう。
また、生徒では無い私も春香祭というエジプトの親戚が集まる行事に呼んでもらったり、ラマダーンのイフタールで声をかけてもらっており(流石に今年はなかった)、家族ぐるみでつきあいがある。特にこの家族ぐるみのうきあいというのが重要な気がしていて、外国人のお客さんとしか認識されていないところから、行事ごとの集まりでの立ち居振る舞い等で少しづつ関係が変わり、" أنتي منورة (あなたは輝いていますね)"と呼ぶ相手となったということなのかもしれない。もちろんもっと広い範囲で使うという人もいるだろう。
関係性の変化に関しては色々と話はあるが、あまりにも細かいコミュニケーションの積み重ねのため、これ以上は触れない。ただし妻の特殊技能も大きいと思っている。


2.光り輝く人
いわく「あとは心から親切にしてくれる人、敬意を感じる人、例えば君のところのバウワーブ(門番)のような人に対して使う」

びっくりした。あのバウワーブが醸し出すものは本物だったのか。

バウワーブというのは階層社会のエジプトにおいて、外国人向けに教師をしている人間が通常強い敬意を抱く相手ではない。しかし、彼にとってうちのバウワーブは敬意を抱く"光り輝く人"なのだ。

なかなか表現しにくいが、確かにうちのバウワーブには、醸し出される善なる雰囲気がある。



この善なる雰囲気にも名がついているらしく、" وجهه سمح (許す+彼の顔)"というらしい。
うちのアパートはエレベーターがロック式で部外者が入る場合はバウワーブに用件を言って開けてもらう必要があり、当然バウワーブと会話することになる。その度に醸し出されたものを敏感に感じ取っており、彼はバウワーブに対して強い敬意を感じるようになった。なので彼に対して" أنت منور (あなたは輝いていますね)"と使うのだという。

私はそのバウワーブの顔を思い浮かべた。言語化できていなかったが、たしかに彼は輝いている。その光に何度も救われている。エーリッヒ・フロムのTHE ART OF LOVING(愛するということ)を地で行く人間がすぐそこにいる。


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