蒐集者と回収車 #古賀コン

ご家庭のご不要なもの なんでも回収致します
テレビ 洗濯機 冷蔵庫など 家電製品 鉄屑……

「やったぁ! ゾロ目だ」
お釣りの千円札を両手でつまんで大喜びする私を見て、コンビニバイトの男の子は顔をしかめた。「商品、袋に入れますね」
ニヤニヤしている私を冷たい目で見ながら、アイスクリームを袋に入れる。
「スプーンはいくつ御入用ですか?」
貴重なゾロ目札を曲げないよう、そろそろと財布にしまいながら、私は早口に言う。
「スプーンは5個で。それと袋、小さいサイズもください」
「一つで入りますけど……」
「袋集めてるんです」
「はぁ……」
「五円ですよね? 払うので売ってください」

家に帰って靴を脱ぐ。玄関には靴のコレクションが並べてある。廊下の壁も全部棚にしてあって、本とか鞄とか薬とか掃除道具とか家電とか標本とか、これまでの人生で集めてきた色々な物が置いてある。
「ただいま〜」
リビングのドアを開けて、テーブルの上で袋をひっくり返す。買ってきたばかりのアイスクリームを家族に配布する。
「期間限定のバーゲンダッシュ、全種類買ってきたよ」
姉、兄、弟、妹、母がそれぞれアイスを手に取って、無言で蓋を私に渡す。
「ありがとう〜! アイス1人で食べ切れないから助かるよ〜! 持つべきものは家族だよね」
弟が小声でポツリとこぼす。
「俺、抹茶味が食べたい」
兄が弟の耳に顔を寄せる。
「期間限定のより、なんだかんだで普通のバニラがうまくね?」
アイスをすでに半分消費した姉が言う。
「あんたさ、バーゲンダッシュの蓋、いつまで集めるわけ?」
「いつまでって、新しい蓋が出る限り、永遠に集めるけど?」
「この家、あんたが集めたガラクタでいっぱいなんだけど」
「いいじゃん、物がいっぱいあると楽しいよ! 私の生きがいなんだよぉ」
「あ、あたし……」妹が細い声で遠慮がちに主張する「廊下に飾ってあるお人形さんたち、怖いから、やだ。目がこっち見てるもん」
「あははは! 何言ってんの」私は大声で笑いとばす「呪いの人形コレクションなんだから、当たり前でしょ」
母親が席を立って、空になったアイスの紙カップをゴミ箱に捨てた。
私は即座にゴミ箱からカップを拾う。
「ちょっと〜! 綺麗に洗って乾かしてよ! いつもお願いしてるでしょ?」
母は数秒私を見つめた。それから、妙に低い声で、ゆっくりと何かを言った。
「明日……回収が、くるから」
「え、なんて?」
よく聞き取れなかったので聞き返したが、母は背を向けて自室へ行ってしまった。

「ご家庭のご不要なもの なんでも回収致します
テレビ 洗濯機 冷蔵庫など 家電製品 鉄屑……」
不快な音声で目が覚めた。休日の朝から、なんて大音量なんだ。布団を頭からかぶって二度寝しようとしていたら、部屋のドアが開いた。
「おねーちゃん、来たよ」
布団を跳ね除け、弟を睨む。
「何が!?」
「はいじんかいしゅう」
「え、なに?」
「急ぎなって。早くしないと、かいしゅうしゃが行っちゃうよ」
「意味わかんないこと言うな! 今日は休日だろうが」
「だから、はいじん回収なんだって〜。急がなくちゃ駄目だよ」
訳のわからんまま、私はパジャマを脱ぎ捨て、無地のシャツとヨレヨレのズボンに着替えた。
弟に腕を掴まれて、玄関まで行く。
「なになに、なんなのさ〜」
私のお気に入りの靴で飾られた玄関には、黒い作業着の女性が立っていた。
「お待ちしてました。そちらが『ごはいじん』ですね? 無料でお引き取り致します」
ニコニコする女性に、弟は慇懃に頭を下げた。
「何卒、宜しくお願いします」
リビングから、母と姉と兄と妹も出てきて、みんなで揃って頭を深々と垂れる。
「宜しくお願いします」
夢でも見てるんだろうか。なんなんだ、この、不気味な状況。
驚いて声も出せずにいる私を、作業着の女性が強制的に外へ連れ出す。
私の目は見ずに、家族に向かって言う。「ご協力ありがとうございます。また何かありましたら、宜しくお願い致します」
「ちょちょ、ちょっと! ねえ! お母さん? お兄ちゃん? みんな! なんなのこれ!」
母も兄も姉も妹も、もう興味がないという感じで、踵を返して家の中に戻っていく。
「ばいばい〜」
弟がひらひら右手を振って、ドアを閉めた。

私は囚人護送車みたいな車に乗せられた。私の他にもすでに何人か乗っていた。赤い顔でぐってりしているおじさん(酒臭い)、変な笑顔でフラフラしてる若い男(ラリってる?)、ガリガリに痩せた子ども、胸がデカくて厚化粧の女、目つきの悪い30代くらいの男性。
「あの、この車、どこに行くんですか?」
誰も何も答えない。
スピーカーから、また、大音量の耳障りな音声が流れる。
「ご家庭のご不要なもの なんでも回収致します。
テレビ 洗濯機 冷蔵庫など 家電製品。鉄屑 バッテリー モーター タンス 自転車 大きなものや重たいもの、臭うものなど、どんなものでも回収いたします。壊れていてもかまいません……」

#古賀コン #蒐集 #古賀コン1

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