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OACは何を目指すのか?

「Onの新作シューズの発表会をスイス・チューリッヒ本社で開催することになりました。急な話なんですが、再来週チューリッヒにいらっしゃいませんか?」そんなお誘いが届いたのが6月の日本選手権が終わったころ。シューズのプロモーションにまつわる依頼はたいていお断りするのだけど、Onについては気になることがあった。OAC。On Athletics Clubの存在だ。

昨年のダイヤモンドリーグ・ユージーンと併催の形で世界陸上オレゴン10000m代表を決める全米選手権10000mが行われた。NIKEのお膝元オレゴン・ヘイワードフィールドでの開催とあって、場内にはバウワーマンTC、オレゴンTC、ユニオンACといったNIKEをバックグラウンドにもつチームの応援席が設けられており、NIKE一色の大会となっていた。

しかし、ラストでバウワーマンTCの顔、フィッシャーに競り勝ったのはOACのジョー・クレッカー。ほぼNIKE一強となっている長距離スパイク戦争を制したのは、当時まだ見たこともないOnのスパイクであった。

クレッカーはフィニッシュすると、すぐにスパイクを脱ぎ、スパイクを片手に場内をウィニングランし、表彰台にあがった。その直前に女子の10000mもアリシア・モンソンが2着に入っており、NIKE創業の地で長距離種目で勝つということは、(あまり日本では話題にはならなかったが)強烈なインパクトがあった。まだ、発売もしてない「Onのスパイクが使える」ということを、長距離業界に証明したようなものだからだ。

On Athletics Clubのことはうっすらとは知っていた。デーサン・リッツェンハインをコーチに迎え、2020年8月に結成。コロラド州ボルダーに拠点をもち、「あれ、この選手もOn?」という意外な選手をひっぱってくる。トレイルランニングのイメージが強かったOnに続々と陸上選手が集まりつつある。TWOLAPS横田真人コーチも意外ではあったが、一番、驚いたのは金栗記念を走る駒澤大学佐藤圭汰の足元にOnのスパイクがあったことだ。駒澤大学がNIKEスクールであることは周知のこと。「ここで佐藤圭汰を選ぶセンス」に唸らされる一方で、その基準がわからない。On Athletics Clubのホームページをみても、「ケニア・エチオピア選手に勝つ」というわかりやすい目標をもったオレゴン・プロジェクトとは違い、そのコンセプトが見えないのだ。

「シューズのことはさておき、OACについて知りたいです。」とリクエストを送ると、
「OACの担当者をアサインします。EKIDEN NEWS単独インタビューの時間を設けますね」
と、うれしいお返事。
OACをはじめとした選手部門のトップ Flavioさんに
OACの成り立ちから、いま、そしてこれからについて、TWOLAPS横田コーチと一緒に聞く機会を得た。Onがやろうとしていること、そして横田コーチがTWOLAPSで実現させたいことが驚くほど近いことに驚かされることになる。

--まずはOACのなりたちを教えてください。

私たちがOACを創設したのは、2020年の夏にさかのぼる。
その原動力となったのは、オリビエー・ベルンハルト(Olivier Bernhard)の熱い信念だったと思う。他とは違うことをしようというONの信念のもと、他と同じようにするのではなく、現状に少し挑戦してみようということで生まれたのが、さまざまな国籍のチームを作るという考えだったんだ。以前からトラックチームはあったが、そのほとんどは同じ国の同じ国籍の選手と拠点を共にしていた。私たちは多様性を尊重して、あらゆる国籍の人々に開かれた存在であるべきなのに。もし同じ国籍の選手が1つしかない枠を争ったり、一人の選手が2種目勝ち取ったりしたら、同じ国籍の選手同士で競い合うことになる。このようなライバル関係は、人々やチームの競争率を高めるには常に良いことなのだが、限定的な要素もある。だからこそ、私たちは、国境を越えて、さまざまな国籍のチームを作ったらどうかと提案したんだ。

そうなるとチームメイトは、一人はオーストラリア、もう一人はニュージーランド、そしてもう一人はアメリカかもしれない。これは、"ボルダーの1つの場所で、異なる国籍のチームを作ったらどうだろう?"というアイデアだったと思う。そしてこのチームメンバー集めは、ヨーロッパやオセアニアのOACを開く時にも言えることだけど、常にコーチ探しから始まるんだ。私たちは幸運にもデイサン・リッツェンハイン(Dathan Ritzenhein)と知り合うことができて、Onでランニングチームを作るというアイデアで彼を説得し、ボルダーでチームを創ることができた。

一番最初のアスリートたちとの話し合いは、アメリカの女性ランナーとジョー・クレッカー(Joe Klecker)という2人のアスリートとだった。オリヴィエが彼らに電話し、2人にそれぞれOACのアイデアを説明し、まだプロジェクトが始まったばかりで、何も製品がないことや、新しい製品をを作り出すために共に取り組む必要がある、と包み隠さず話したのさ。その時のジョーはあまり多くを聞かず、かなり防御的で、静かだった。オリビエが電話を切ったとき、彼はこう言ったんだ。「ジョーは何も質問をしなかった。何の光も見えなかった。まだ商品がないと言ったから、彼を怖がらせてしまったようだ。」と。しかし、女性ランナーの方は、おそらく何かいい手応えだあるだろうとオリビエ自身は確信したようだった。

それから数日後、「ああ、参加するよ。君たちと一緒に旅に出よう。」とジョーから電話があったんだ。結局、女性アスリートの方はうまくいかなかったから、ジョーがOACの最初のアスリートになったんだ。彼は未だに私たちと共に走ってくれていて、それが私たちの始まりだったんだ。私たちは何か製品を持っていたわけではなく、ただ何かを作り、チームを立ち上げるというアイデアを持っていただけなんだ。そして、2年後、3年後に今のようになるとは夢にも思っていなかった。その時は、チームが国際的なレベルになり、選手も増えるのは、2024年のパリオリンピックが開催される頃、少なくとも4、5年はかかるだろうと考えていた。

私たちは皆、アイディアが形になったこと、チームの一体感が生まれたこと、そして何よりもチームの成長に驚いている。もちろん、製品もマラソンシューズや中長距離で大きな進歩を遂げた。一流の製品と一流のアスリート。そして、レースのためだけでなく、最近発売したクラウドモンスターやクラウドサーファーなどのトレーニングシューズでも、彼らをサポートすることができるようになった。今や、アスリート向けのフルカタログを提供できるようになったんだ。そう、これは本当に素晴らしいことだ。Onの40人以上のアスリートのうち、OACのアスリートが大部分を占めていた。だから、私たちは昨年5月に、ONのアイデアを他の国や他の大陸にも広げようと決めて、遂に、私たちはヨーロッパのOACを立ち上げたんだ。

そう、私たちはそれをやり遂げることができた。そして、ボルダーとデイトンにあるチームは、国際的なトップフランチャイズであるべきだと私たちはいつも言っている。OACでは、トレーニングに重きを置いているから、トップアスリートはすべてボルダーのチームに入るべきなんだ。私たちは、さまざまな国の若い才能と協力するという大きなチャンスがあると思っていて、19歳から23歳の選手たちは、すでに国内タイトルやレースで優勝していて、トップアスリートになる可能性を秘めている。だから私たちは、ヨーロッパだけでなく、今ではオーストラリアやオセアニアでも、すでに自国でタイトルを獲得していたり、成長中のより若いアスリートと仕事をするようになったのです。ボルダーのOACが国際チームであることに変わりはないため、いつかはボルダーで練習する可能性も秘めているよ。

ドイツでは、コーチから全てが始まった。ドイツではトーマス・ブライシガッカー(thomas dreissigacker)と仕事をしている。彼は今36歳かな。彼はドイツ陸上競技連盟で働いていて、とても若いのに斬新なアイデアを持ってくるから、私たちは彼が気に入ったんだ。だから、彼がOACの監督として指揮を執って、彼を中心としたチームが動き始めることに大きな期待を寄せていたんだ。1500メートルで3分30秒台を出しているジョージ・ミルズ(George Mills)などをはじめ、すでに国際的なレベルに達している選手もいるし、アメリカやヨーロッパチームの何人かは世界選手権にも出場するだろう。彼らもまた、私たちが考えていたよりもずっと早く進歩していると思う。

そしてオーストラリアでも、今年2月、クレイグ・モットラム(Craig Mottram)をコーチに迎えてOACが発足したんだ。彼はオーストラリアでは伝説的な元オーストラリア代表ランナーであり、英雄であり、コーチでもある。彼は、人としても、コーチとしても、この上ないと確信している。そしてその彼が、今チームを作っている。最初は3人の女性アスリートから始めた。そのうちの1人はクラウディア・ホリングスワース(Claudia Hollingsworth)で、17歳の800メートル走者。彼女をはじめとした、オーストラリアでロサンゼルス世界陸上出場を目指す、多様な選手のいるチームを作るために、動きはじめている。こういった経緯のもと、ボルダーチーム、グローバルチーム、ヨーロッパチーム、オセアニアチームが誕生した。彼らはまとめてOACチームであり、コーチや選手もそれぞれ情報を共有したり、実際に会ったりして、チームとして高め合っているんだ。

そして、この夏、ブダペスト世界選手権に向けて、サンモリッツに全OACチームが一堂に会する予定なんだ。サンモリッツは標高も高く、設備も整っているから、トレーニングに適している。私たちは、6ヵ月間、トラックのすぐ近くに家を借りていて、選手たちはそこで寝食を共にし、ある程度のトレーニングも一緒に行う予定なんだ。このトレーニングは、私たちや選手たちにとって、満足感あふれる瞬間になるだろう。

--国際的なエリートアスリートのコミュニティを作っているってことなんですね。

そういうことだよ。今後は、OACのファンも作りたい。
バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドのファンみたいに、自分たちのチームのファンになったらどうだろう?ってね。多くのクラブやチームは、自分達がどんなことをしているかは秘密にすることがよくあるけど、私たちOACは何でもオープンなんだ。それが個性だと思ってる。そして、アスリートたちの良いところだけでなく、困難な時や壁にぶち当たっている瞬間も見せていいと思っている。困難な時こそ、人々は新たに学びを得るし、応援する側もそういった瞬間を見たいと思うんだ。例えば、「これがジョーで、おそらく彼は嫌なことがあっても、それを乗り越えてこうするんだ。」と言ったり、アフリカ人とイタリア人のハーフであるシンタが、アメリカ人のアリシア、スペイン人のマリオ、ニュージーランド人のゴーディと話したり。そうやって、彼らに共感できる人々を集客することで、ファンを作ることができるだろう、と思っているんだ。そして数年後には、そういったコミュニティが好きな人たちが、スタジアムでOACを応援し、Onを応援するようになる。このように、私たちは隠れてコソコソするのではなく、コミュニケーションの面でもオープンであることを心がけているんだ。

--横田さん
私、実は、日本でTwolapsというチームを運営しているんです。私も元々800mのランナーだったので、同じ考えでクラブを運営しています。日本の長距離チームは、昔から、同性のチームがたくさんあって、男性は男性、女性は女性だけ、と分けられていて、私はその伝統的な考えが好きではなかった。だから、男女混合の、しかもスポンサーや種目の違う10人の選手を私は指導しています。800mからマラソンまでの選手たちです。また、ファンで言うと、日本の伝統的なチームにはファンがあまりいません。だからこそ、私たちは、もっとファンを増やすために、スタジアムを楽しさでいっぱいにすることを目的として新しい競技を作っています。私たちは、ファンの方々も毎日楽しめるようなベースを作る必要があると思っています。

昨年、ボルダーのOACに所属するヘレン・オビリ(Hellen Obiri)が初マラソンに挑戦して、私たちは彼女の初マラソンの映像を撮りました。彼女が表彰台に立つか、優勝するかと、期待していたのですが、そうはいかなかった。だけど、この映像を通して、彼女の葛藤や周りの期待、そして実際に何が起こったかを語っているからこそ、彼女の思いがよく伝わる映像が撮れたと思う。それが、この映像は偽りでないことを表している証拠だよ。そういった映像こそ、人々が興味を持ち、共鳴できることなのだ、ということを強く物語っていると思うし、私たちにとってとても重要なことだと思う。どのレースにもいいパフォーマンスはたくさんある。でも、ファンにとって、もっと興味深いのは、レースの舞台裏や、彼らがどのように困難を乗り越えたのか、あるいは日常生活でどのような葛藤があったかについて語ることだと思う。そしてそれこそが、私たちがもっと様々な人たちと共有したいことなんだ。

--横田さん
なるほど。実は、EKIDEN Newsと私は長い付き合いで、彼のツイッターのフォロワーは10万人を超えている。私たちはいつも、アスリートやコーチはアスリートの背景にあるストーリーを語る必要があると話していて、実際に私たちのポッドキャストで毎週その話をしているんだ。

--いまは各スポーツメーカーがケニア、エチオピアといったアフリカにキャンプ拠点を築き、アフリカ系アスリートを囲い込むような動きがあります。OACはどのように考えていますか?

難しい質問だね。私たちは間違いなくアフリカ人アスリートもチームの一員になってほしいと思ってるし、国籍問わず、より多くの選手がチームに入ってきてほしいと思っているんだ。私たちは明らかにその軌道に乗っていると思うし、最近は製品への取り組みを強化している。2028年に向けて高い目標を掲げていて、ブダペスト世界選手権や来年のオリンピックもあるから、私たちの野心は明らかにあるんだ。また、5,000メートル、10,000メートル、マラソンといった競技を見れば明らかなように、メダルを獲得する確率の高い、アフリカの選手と協力する必要があることも明らかだ。

私たちはやっぱり、それを正しく行いたいし、これまでとは違ったやり方をしたいと思っている。そしてここでもまた、信頼関係が大事になってくるんだ。適切なアスリートを見つけること、信頼できるコーチを見つけること、良いパフォーマンスや正しい判断ができる環境を提供すること、さらにアスリートをブランドや彼らが望むものに近づけること、といったテーマが出てくる。今までも、私たちの掲げる目標や、私たちがどのようにあり、どこへ向かっていくのかという考えを理解していない選手とは1人も契約していない。だからこそ、私たちは、ヘレン・オビリをはじめとした、アフリカ出身のアスリートを増やすことから始め、直接アスリートやマネージャーについて知り、アスリートが本当にブランドを気に入って、私たちの考えに共感してくれていることがあれば、契約したいと考えている。

ケニアやエチオピア、その他いくつかの国にアプローチするのは、遠い国であるのはもちろん、おそらくアスリートと頻繁に会うこともできないため、難しいことだと思う。ドーピングのケースも、おそらくヨーロッパなどより多いだろうし、アスリートたちも基本的に何でも揃っていて、仕事なども見つけられる場所に住んでいるわけではないので、アフリカ選手と契約を結ぶ方がリスクが高い。彼らはアフリカに住んでいて、走ることでしかお金を稼ぐことができない場合もある。だから私たちは、彼らのために正しいことをするために何ができるかと考えた。まず、アスリートとしての安定させるために、食事や栄養、物理療法などを提供する。というのも、彼らはとんでもない量の仕事をこなしているのに、栄養学や生理学のことは何もしていないことが多いからだ。そして、私たちが信頼するコーチが常にそばにいること、私たちが全面的に信頼し、私たちと協力できるエージェントがいること、また、私たちの側からも、ドーピング防止に取り組み、彼らを助け、選手たちに安全な環境を与えることが必要なのだ。そのためには、キャンプやアスリートのスポンサーになるだけでなく、彼らが正しい方法を理解するためにもっと時間をかける必要がある。だから私たちは今でも時間をかけて一人一人に向き合っている。実は、この10カ月でかなり進歩した。そして、来年には、アフリカの国々に行き、そこでプロジェクトを開始するという計画が実現するだろう。

--OACは正しくありたい。というのもコンセプトのひとつなんですね。

マラソンを2.06.38、ハーフマラソンを59.53、マラソンスイス記録保持者であるタタデッセ・アブラハム(Tadesse Abraham)と契約したことを今でも覚えている。彼とは2021年に契約した。彼はケニアでトレーニングしていて、彼は2020年にOnとケニアにいたんだ。彼がまだ若かった頃、他のアスリートたちは皆、「あれは何だ?どんなブランドなんだ?見たこともない」と。そして、Onがヘレン・オビリと契約し、タタデッセがケニアに戻ったとき、人々が彼のところにやってきて、「ああ、ヘレンと一緒だね」と言ったらしいんだ。そしたら彼は、「ああ、僕が最初だったんだ。」と言ったそう。ケニアでもヘレンとOnのことがよく知られるようになったし、ヘレンを見て、私たちのやりたいことを理解して、その考えを受け入れてくれるようになった。だから、Onと契約をしてくれる選手を増やすことは、僕らにとって重要なことなんだ。

--横田
ひとつ質問してもいいですか?コミュニティに入っているアスリートにOnの哲学を理解してもらうために、どのような教育をしていますか?また、アスリートのための教育プログラムはありますか?

選手と契約を結ぶ前に、彼らをチューリッヒに連れてくるようにしているのと、私のところにも連れてくるようにしているよ。
私たちはこれを展開しています。これについてはまた後でお話しします。すべてのアスリートに対して、私たちは製品テストを紹介し、彼らをここに連れてきて、Onの製品に携わる人々に会わせたりと、昨年から取り組み始めたことだけど、私たちはアスリートとの関係を実際に見ているんだ。世界選手権やダイヤモンドリーグ、オリンピックで活躍すると、誰もがその選手のレースに注目する。しかし、それは彼らの時間の1%に過ぎない。99%はレースをしていなくて、その99%の時間こそが、アスリートに取って大事な時間になるのだ。

しかしアスリートには、食事や睡眠、旅行、税金や予算の管理など、やらなければならないことがたくさんある。そして、なぜ1%以外の99%の時間のためのサービスを提供しないのか?もし彼らが望むなら、私たちはパフォーマンス以外の面でも彼らを助けることができる、と提案すればいいのではないか?おそらく、税金や予算、旅行の手配をすることは彼にとってストレスであり、アスリートにとってストレス環境にいることは良くないことである。そこで私たちは、アスリートのストレスを軽減するために、もっといろいろなことを提供してはどうかと考えたんだ。Onには法務部があり、従業員もいる。従業員に対する教育制度もあるし、その機会をアスリートにも提供してみてはどうか?と。この、アスリート自身がパフォーマンス以外の部分、例えば税金や予算の管理を学ぶ機会作りは、私たちが作り始めたものだ。最終的には3、4、5年かかるだろう。けれど、私たちはアスリートのためのプログラムを作り始め、それらすべてを提供していきたいと考えているんだ。

そして今、私のチームにはニコラ・スピリグという女性がいる。彼女はオリンピックの元チャンピオンで、金メダル(銀メダルも!)も獲得した経験をもつ。私のチームで一緒に仕事をしている元トップアスリートだ。また、彼女は現役時代に3人の子供を育てた経験もあるため、「トレーニングはすごく時間がかかるけど、どうやってやっているの?どうやって子供たちを教育しているの?どうやって家族と協力しているんだ?どうやって全てをマネジメントしているの?」などのアスリートからの質問も、よく理解している。だからこそ、アスリートたちは、彼女からたくさんのことを学ぶことができるだろう。私たちは、アスリートたちに、これをしなければならない、これを食べなければならない、と強制しようとするのではなく、私たちが提供するものは全てサービスであり、コンピテンシーであるため、そういった新しい考え方が、今後の違いを生むと信じている。

また、アスリートの場合、おそらく現役中に教育を受けさせることはできない。たいていの場合、選手にもし時間があれば、彼らの長所や伸ばしたい分野を一緒に評価し、「君はどこに行きたいんだい?マーケターになりたいなら、これとこれをやればいい。私なら、このコースやトレーニングを検討し始める。」と言ったように、それぞれに合った仕事を提案する。そして、アスリートとしてのキャリアが終わった後、彼らは教育を受けたことで、より良いポジションにつくことができる。理想としては、ニコラのように、他の社員や他のアスリートに対しても、引退後に私たちの会社で働いてもらいたいと思ってるんだ。

また、肉体的な準備やレース以外に何ができるか、用具を使用したり物理療法をするなど、どのようなトレーニングをするのか、私たちが特定した分野で彼らを手助けすることができる。マインドセットについては、アスリートと共にする時間の長いコーチがやってもうまく行かないことが多いため、中立的な立場の第三者であるメンタルコーチが必要だ。だからこそ、私たちはメンタルコーチと協力してアスリートのためのサービスを提供し始めたんだ。そのためアスリートは、健康や回復に関しても、自分たちで全てをやる必要はなく、栄養面や回復ツールに関しても、コーチが見てくれる、最高のパートナーのような関係性なんだ。ブランディングや財務、すべての税金、法律問題など、彼らの個人的なキャリア開発も提供できる。

つまり、私たちが社員に提供しているようなコースやクラス、興味深いものなどを、教育のために何を提供できるんじゃないかと。さらに、コンシェルジュのように、アスリートが何か用事があるとき、例えば、飛行機を予約したい、明日の休みがキャンセルになった、怪我をした、ここに行きたいのだが、手伝ってくれるだろうか?などの要望に応えられる人がいて。そしてそれこそが、今後アスリートへのサービスとして、私たちが今から作り始めるものなんだ。つまり、なぜOnを選ぶのか、それは製品だけでなく、すべてのサービスに関わっているんだ。確かに、今でも速くて最高の製品や革新的は魅力的だけど、Onの細部にまで渡る心配りが、何か大きな違いをもたらすと思ってる。

--Onの強みは、Onの強いランニングコミュニティがあることだと思っています。どうやってトップアスリートとOnのランニングコミュニティはコミュニケーションを取っているのでしょうか?フィジカル面でのコミュニケーションもあったりしますか?

アスリート同士がつながることも、ひとつのアイデアなんだ。アスリート同士がつながることができれば、非常に良い相乗効果が生まれると思ってる。私たちはSlackを使って社内で簡単に繋がることができるから、いつでも連絡を取ることができるし、質問をしたり、勉強することもできる。ジョーはトスカーナキャンプにいるオリビエーに質問があるかもしれない。こういった簡単に連絡できる環境づくりもまた、アスリートのために作りたいことなんだ。ランニング・コミュニティについては、インスタやツイッター、Tiktokなどのランニングに関するチャンネルに頼っているだけでなく、彼ら自身がコーヒークラブなどのポッドキャスト(coffee club pods: https://coffeeclubpod.com/ )を持っていて、自分たちで発信活動もしていることは、素晴らしいと思うし、ブダペストでも彼らと共にポッドキャストを配信する予定だよ。そして、それがまた、ランニングコミュニティとつながっていくんだと思う。私たちにとって、ランニングコミュニティはとても重要なものだからこそ、それに関わる全てのものを、私たちは継続し、受け入れていくんだ。

--ロンドンのNight Of 10kに行きましたが、これまで見たこともないコミュニティが生まれていて感動しました。

Onのトラックナイトも、とてもいい例だと思う。選手たちが現状を打破するために、何か今までと違うことをする、というOnの考えのもと、私たちはこのトラックナイトシリーズをロサンゼルス、ロンドン、パリを含む、5つの都市でスタートさせたんだ。特にトラックでは、どうやってファンを増やしたり、彼らを興奮させることができるのか。を考えながら、それを、食べ物や音楽といった他のパッションと組み合わせて、ある種のパーティーのようなものを開催する。そして、OACのファン、選手たちのファンを作りたかったら、ファンのためのグッズや商品を作ることは、当たり前にすべきことだと思う。

--Onの広報担当者
あなたはロンドンに行ったことがあるのだから、ロンドンには音楽祭や他のフェスティバルがあるのも知ってるわよね。私は、それが私たちが望んでいたことだと思うの。普段、走るということは椅子に座っているようなもので、なんの変哲もない。だからこそ、私たちはその両方を組み合わせたいと思った。Onのトラックナイトは、参加するみんなが、家族全員が、そしてファンだけでなく、走らないけどただその場にいて、ランニングのパワーを体験したい人たちのために開催しているんだ。ムーブメントを楽しむためにね。

--日本人の若いアスリートの中にも、将来的にはOACに入りたいと思っている人たちがいます。彼らは、どうすればボルダーのOACに加入することができるんでしょうか。

私たちが信頼しているアスリートマネージャーの何人かとコンタクトがあり、彼らは日本で非常に存在感がある。さまざまなアスリートと、2025年に開催される世界選手権について話し合っている。もちろん、OACにもすでに強力な日本人アスリートがいることは間違いない。それに加えて、もしあなたたちがよく知っている選手や才能のある選手がいれば、私や私のチームのスティーブを通じて紹介してもらって、日本の面白い、個性的なアスリートと会ってみたいと思ってる。

--最後にもう一つ質問があります。これまでのダイヤモンドリーグを見て思ったのですが、OAC選手はダイヤモンドリーグを効果的に使って、その評判を広めることに成功しているように感じます。このあたりはマーケティング戦略も含まれているのでしょうか?

まず第一に、デイトンが監督だから、彼は勝つための戦略を常に立てている。それは私の仕事ではなくて、私にはできないことだから、彼を全面的に信頼しているんだ。彼らに取ってのチャレンジは、おそらくヤコブ・インゲブリクトセン(Jakob Ingebrigtsen)に近づき、彼に挑戦することだと思う。オスロでそれを達成することは、少なくとも私たちにとってはとても難しいことだっただろうけど、3.30を切った3人は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。そして次のレースでも、また新たなスタートを切って学んでいくことになるだろう。イェアード・ナグセ(Yared Nuguse)は、今年の2月のミネロス大会でポテンシャルを発揮し始めたと思う。彼はまだ若いから伸び代だらけだし、私たちの目標は間違いなく世界選手権と来年のパリオリンピックだ。

と、ここまでが6月の話。
後に行われたダイヤモンドリーグロンドンではこれらの選手たちが大活躍することになる。
次は背景を支えるシューズ開発部門の話を。

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