見出し画像

ヒューストンでみえた世界線

「西本さん、シッソンって何歳ですか?」
ヒューストンに着いてすぐ、スーパーへ食材の買い出しに向かうクルマのなかで、新谷選手が唐突に聞いてきました。
シッソンとはアメリカの長距離ランナー、エミリー・シッソンのこと。今回はヒューストンマラソンではなく、ヒューストンハーフマラソンに出場する選手。童顔のかわいらしい顔立ちで、金髪の長い髪を後ろでしばり、ストライドを大きく伸ばして走る。身長も160センチないくらい。スタートラインにならぶとアメリカ人の中ではひときわ小柄に見える選手。

左端がシッソン

直接対決はないのに、なぜ気になるのかと思ったら、この日、行われた記者会見ではフルで日本記録(大会記録)更新を狙う新谷選手とハーフマラソンアメリカ記録更新を狙うシソン選手に注目が集まっていたらしい。それもそのはず。シッソンは昨年10月のシカゴマラソンで2時間18分29秒のアメリカ記録を更新。「アメリカで一番速いマラソンランナー」となった選手です。

童顔な印象があるので、「若いと思うんだけどなあ」とwikipediaで調べてみると1991年生まれの31歳。1988年生まれの新谷さんとも、そんなに変わらない。「新谷さん、シッソン31歳でした。なんでシッソンの年齢を?」と聞くと「記者会見で隣にいて、何歳かなあと気になったんですよ」という。へえ。と思いながら、シッソンのwikipediaを読んでいると、彼女の競技歴に目がとまりました。

2017ロンドン世陸、2019年ドーハ世陸、2021東京オリンピック。どれも10000mに出場している。つまり、ドーハと東京で新谷選手とシッソンは同じレースを走ってる。「新谷さん、シッソンはドーハ世陸、東京オリンピック、ともに10000m10位ですね。」そのやりとりを聞いてた横田コーチが気づきました。「ドーハのラストで抜かれた選手じゃない?新谷、ドーハは11位だったでしょ」と。「あーあのときの!」

ドーハ世界陸上10000m。レース終盤まで入賞圏内にいた新谷選手はラスト1周でアメリカ勢3人に抜かれてしまい11位で入賞を逃す。このとき、最後の直線で新谷さんをぎりぎり差し切ったのがシッソン選手。過去の写真を掘り起こすとそのときのものが残っていた。ドーハと東京オリンピックでトラックの10000mを走ってマラソンへ。二人は同じような道をたどっているようなのです。

このあと、シッソン選手はヒューストンハーフマラソンでフルに続き、ハーフでもアメリカ記録を更新します。ヒューストンマラソン後、更新された二人のwikipediaを見比べて面白いことに気づきました。

新谷選手の記録。

シッソン選手の記録。

5000mからフルマラソンまで、二人のベスト記録を比べると、なかなかいい勝負をしてるのです。ちなみにハーフマラソンの記録はどちらもヒューストンハーフ。つまり同じコースで出したもの。これらのタイムを総合的に判断すると、新谷選手がフルマラソンで2時間18分台で走る可能性は十分にありそうです。この二人の記録が面白いのは両者とも30歳をこえた今もなお、記録を伸ばしているところにあります。未だ成長過程にいるということです。

シッソン選手の記録の伸びが良い例ですが、昨年からアメリカで陸上やマラソンを見てきて、「アメリカとアフリカ」の距離が少しづつ縮んできたのを感じます。そして、新谷選手やシッソン選手がいるあたりに、「世界と戦うボーダーライン」がうっすらと見えてきます。

世界線とはこのことを言うのでしょう。そして新谷選手もシッソン選手も傍からみると、その世界線へのアプローチは似ているようにも感じます。新谷選手と横田コーチが考えたマラソンのテーマはトラックのスピードをそのままマラソンに移行させるというもの。シカゴマラソンでのシッソンのラストはまさにそれを体現したトラックランナーのようなラストスパートでした。

小柄で体格も日本人とさほどかわらない彼女がここまでのタイムを叩き出したのを目の当たりにして「これから、アメリカのマラソンは面白くなるぞ」と直感しました。その背景には2028年LAオリンピックがあります。5年前の日本のような機運があるのです。その証拠に2023年は1月の室内陸上から好記録が連発しています。

ここから先は

152字

■なにをするサークルか 「撮る・見る・読む・書く・広める」といったEKIDEN NEWSの活動を通じ…

むっちゃヘヴィプラン

¥1,000 / 月

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます!いただいたサポートは国内外での取材移動費や機材補強などにありがたく使わせていただきます。サポートしてくださるときにメッセージを添えていただけると励みになります!