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心に響く漢詩の物語

第八回
唐 · 韋元旦 奉和立春遊苑迎春應制


詩人紹介

韋元旦いげんたん(生卒年不詳)
韋元旦(字はけん)は、京兆万年(今の陝西省西安市)出身。
進士の試験に合格し、東阿県尉に任命された後、垂拱元年(685年)に美原県尉に転任。
その後、左台監察御史に昇進した。
神龍元年(705年)に張易之ちょうえきしとの姻戚関係で感義県尉に降格されたが、韋后との裙帯くたい関係で再び召され、主客員外郎、左司員外郎、中書舍人に任命された。
景龍二年(708年)には修文館学士に任命され、生平せいへいは『新唐書』本伝や『郎官石柱題名考』巻二及び巻二六に散見される。
『全唐詩』には詩10首、『全唐詩外編』及び『全唐詩續拾』には2首が収録されており、多くは奉和應制の作品である。

韋元旦

詩の内容と背景

この詩は、立春の日に宮苑で春を迎える様子を描いています。
皇帝への献詩であり、宮廷の華やかさと春の訪れを讃える内容となっています。
詩中には、長安の景色や宮中の美しい風景が描かれており、自然の美しさと宮廷の豊かさが調和しています。

詩の風景

奉和立春遊苑迎春應制 立春の苑に遊び春を迎ふるに奉和ほうわして應制おうせい
唐 · 韋元旦
七言律詩
灞涘長安恆近日, ほとり長安つねに日近く,
殷正臘月早迎新。
 殷正いんせい臘月ろうげつ早くも新を迎ふ。
池魚戲葉仍含凍, 
池の魚葉にたわむれどもほ凍を含み,
宮女裁花已作春。 
宮女花を裁ちてすでに春を作る。
向苑雲疑承翠幄, 
苑に向かふ雲翠幄すいあくくるかと疑ひ,
入林風若起靑蘋。 
林に入る風靑蘋せいひんを起こすがごとし。
年年斗柄東無限, 
年年斗柄東ねんねんとへいひがしにして限り無く,
願挹瓊觴壽北辰。 
願はくは瓊觴けいしょうみて北辰ほくしんことほがん。

奉和立春遊苑迎春應制
立春に宮苑で春を迎える儀式を皇帝陛下にお応えして詠んだ詩

灞涘長安恆近日,殷正臘月早迎新。
灞水のほとり、長安はいつも日の出が早く、
殷正の十二月には早くも新春を迎える準備が始まっている。

池魚戲葉仍含凍,宮女裁花已作春。
池の魚たちは凍った葉の中で遊び、
宮女たちは花を裁ち作ってもう春を感じさせる。

向苑雲疑承翠幄,入林風若起靑蘋。
宮苑に向かう雲はまるで翡翠の羽飾りを踊らせるとばりのよう。
林に入る風はまるで「春が来たよ」と青い浮き草を吹き起こしているようだ。

年年斗柄東無限,願挹瓊觴壽北辰。
毎年、北斗七星の柄が東を指し続けるように、玉製の酒杯を挙げて北極星の長寿を願いたい。

物語(韋元旦 奉和立春遊苑迎春應制)

唐の時代、長安の宮苑は春を迎える準備で賑わっていた。
灞水のほとり、長安はいつも日の出が早く、冬の冷たい風も少しずつ和らいでいた。
宮女たちは早朝から忙しく立ち働き、花を裁ち、新しい春を作り出す準備を進めていた。

池の魚たちはまだ凍った葉の中で遊んでいたが、少しずつ感じられる春の息吹に心躍らせていた。
宮女たちは美しい花々を丹念に作り上げ、その美しさはまるで春そのものだった。
彼女たちの手が生み出す花は、まるで魔法のように周囲を明るくし、春の訪れを感じさせた。

ある日、宮苑に向かうと、流れてくる雲が翡翠の羽飾りを踊らせる帳のように美しく見えた。
その光景はまるで春の妖精たちが舞い踊っているかのようだった。

林の中に入ると、風が青い浮き草を吹き起こし、春の訪れを告げていた。

年が明け、北斗七星が東を指す頃、宮廷では春を祝う儀式が盛大に行われた。
皇帝陛下への敬意を込め、玉の杯で陛下の長寿を祝う。
宮女たちの作り出した花々が彩りを添え、宮廷全体が春の喜びに包まれていた。

感想

この詩は、唐代の宮廷で行われた春を迎える儀式を描いた華麗な描写とともに、宮廷の優雅な生活が浮かび上がってくる作品です。

韋元旦は、宮廷の風景や儀式の情景を生き生きと描写し、自然と人間の調和を巧みに表現しています。
特に、長安の朝日の美しさや、池の魚たちの遊ぶ様子、宮女たちが花を裁つ光景は、冬から春への移り変わりの美しさを感じさせます。
また、翠幄を承けるかのような雲や、青蘋を起こす風の描写は、自然の中にある神秘的な力を感じさせ、読者を魅了します。

詩の終わりに登場する、北斗七星が東を指す光景と、瓊觴を挹んで天皇の長寿を祝う場面は、春の到来と共に新たな始まりを祝う希望に満ちたものであり、詩全体に華やかさと高貴さを添えています。
この詩は、唐代の宮廷生活の一端を垣間見せるとともに、自然の美しさと人々の喜びを巧みに描き出した名作と言えるでしょう。

最後に

この詩は、唐代の宮廷で行われた春を迎える儀式の情景を描いたものです。

詩の中で描かれる長安の朝日や池の魚、宮女たちの花裁ち、そして翠幄や青蘋を起こす風の描写は、古代中国の優雅で華やかな宮廷生活を鮮やかに伝えています。

私がこの詩に特に心を惹かれたのは、自然の美しさと人々の喜びが巧みに交差している点です。

この詩は、冬から春への移り変わりを通じて、新しい始まりへの希望と期待を感じさせてくれます。
特に、最後の「願挹瓊觴壽北辰」という一節には、永遠の繁栄と幸福を願う詩人の心が込められており、深い感動を覚えました。

宮廷の豪華な儀式と私たちの生活は大きく異なりますが、自然の美しさや新しい季節への期待感は、いつの時代も変わらず私たちの心を温めてくれます。
この詩を通じて、古代中国の文化と美しさに触れることができたことを嬉しく思います。

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