タイムアウト③ 白一年生

ブザーの音が鳴り両チームの選手たちがベンチへ戻っていく。
選手たちは体中から汗が噴き出し、大きく肩で息をしている。

監督は戻ってくる先輩たちに声を掛けていた。
出場選手全員と試合の作戦会議をするはずなのに、背番号10番のコウタ先輩にだけ離れて休んでいろと指示が飛んでいた。

明らかに今日のコウタ先輩の動きは悪い。
僕らのチームの中で圧倒的に上手くて、皆からエースだって呼ばれている存在なのに……。

先輩自身も自分が活躍できていない事を悔やんでいるみたいだ。
ベンチに座って思いっきり項垂れてる。

僕が見る限り絶対に先輩達は負けないと思う。
相手の選手たちの動きを見ていても、コウタ先輩が負けているところはないと思う。
コウタ先輩以外だってそうだ、皆相手チームより上だって。
どうしよう、伝えたい!でも僕なんかが伝えていいんだろうか。
全然うまくもない僕の言葉なんて先輩に届くのかな。
いやそんなことない!言おう!
言わなきゃ届くものも届かないんだ!

そう思った時には僕はコウタ先輩の方へ向かい進んでいた。
項垂れている先輩の目の前に立ち、息を吸って声を掛けた。

「先輩!!」
項垂れていた先輩は顔を上げ僕と目が合った。
目が合った瞬間僕はどんな言葉を掛ければよいのか思いついていなかった。
でも伝えるんだ、とにかく伝えるんだ!

「先輩は凄いんスから大丈夫ッス!!」
あぁなんて気の利いていない言葉なのだろう、言った瞬間ダサいと思った。
でも心から本当にそう思っている言葉が出てきたのだから仕方がない。

先輩は呆気に取られている顔をしていた。
でも伝えるんだ先輩は凄いってこと、勝てるってこと、届かないかもしれないけど伝えるんだ!

「絶対に勝ちましょうね!!」
熱い思いを込めに込めた言葉は僕の体を勝手に動かした。
僕は右手のこぶしを胸の前で強く握りしめていた。

何をしているのだろう。ふと我に返った。
試合に出れもしないこんな一年の言葉なんて何になるのだろう。
でも負けていない。試合は終わっていない。まだ、負けてはいない。
それなのに先輩が項垂れる必要なんてない!

「ナハハハッ!あたりめぇよ!よーく見とけ!!」
コウタ先輩は勢い良く立ち上がって、僕へ返答してくれた。
あぁいつものコウタ先輩だ、カッコいい憧れの圧倒的エースのコウタ先輩だ。

「ぜってぇ勝つぞ!!」コウタ先輩の声がチーム内に響き渡った。
僕は腹の底から思いっきり声を出して答えた。

僕はこの光景を見て確信した。
「この後先輩は大活躍する」と

タイムアウトの時間が終わりを迎える間際、僕は急いで先輩たちのタオルや飲み物を片付けて引っ込んだ。
ベンチの後ろから再び応援する体制をとるために。

コウタ先輩が皆を鼓舞する声が聞こえる。
絶対に勝てる、絶対に負けない、ここからの先輩たちは一味も二味も違うはずだ。

タイムアウトが終わりを迎え、試合が再開される。


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