サイレントバーン

【登場人物】
小林シゲ(山本康司・中央ヤマモダン)
小林絹子(美濃麻実子・中央ヤマモダン)
タマオ(田村剛一・新潟大学落語研究部)

シゲ 
あれ、俺、なんでここにいるんだっけ。(ポッケの財布を確認)
コバヤシ、シゲユキ。俺の事だ。(仏壇前の自分の遺影を見て)
俺の部屋か。なんでこんな飾り方。

【シゲの後ろに絹子が立つ】

絹子 
バカ。(シゲ方向、シゲの遺影に向かって、でもシゲに言ってるみたい。)

シゲ え。俺?

絹子 バカ。バカバカ!!

シゲ 
え、てか、誰?
あ、これ?なんでわかったの?俺、今ポケットの中でガムがすごいことになってんの。ガム噛んでたら、ガム吐きたくなって、ガムの包み紙に出したんだけど、
俺、ガムで口いっぱいにしたかったから、ガム8粒も食べてて、それで気持ち悪くて、

絹子 バカ。

シゲ 
ちょっと待って、最後まで聞いて。
で、で、だよ?俺もうガム出したくて出したくて、ガム8粒食べてることなんて忘れてて、なんと、一枚の、包み紙に、
このくらいの、拳大のガム8個分のガムを、包み紙に、出したの。
それを、ポッケに、しちゃったわけ。わかった?

絹子 バカ。

シゲ 
おいちょっと、嘘だよ、ガム8粒食べないし、だからガム入ってねえし。
にしてもお前、バカは言い過ぎだと思うよ?

絹子 バカ。

シゲ 
ちょっと待って。もしかして、ガムではない。(矛先が)
俺の顔にすごくバカみたいなものが、付いてるの?

絹子 バカバカ。

シゲ 
やっぱり!何だろう、ごはん粒じゃなくて、ね、粘土?

絹子 バカ~!(泣く)

シゲ 
げ、泣くほどの何かが!ひくを越して泣く程の!
うーん、バカっぽいの、ちゅ、チューリップ?

絹子 なんで?

シゲ お、さる?

絹子 なんで?

シゲ 
バカっぽいから?でも、だよね、どう顔に付くんだよ、猿が。
ウキー!離れろ、ウキー!

絹子 なんで。

シゲ なんでって猿でかいから意外と。・・・・・お前。もしかして。
・・・さっきから、『バカ』『なんで』しか言ってないな、おい。
まさか、実は、眠っていて、録音しておいた音声を、流しているのか??

絹子 バカ。なんで。

シゲ 
やっぱりそうだ!録音した声だろう!
しかも眠ってんのを誤魔化す為の録音かと思ったが、目が、目が、あいている!でも、でも、さっきから俺の顔面を凝視したままだし、こいつ、大変よくできた絹子の等身大の蝋人形だ。
なんでこんなところに絹子の蝋人形があるんだよ?なんで蝋人形館にではなく、ここに!?
・・・絹子、だ。
(絹子の指輪をチェック。自分のものと見比べる。)
もろかぶり。指輪がモロ被るのは、夫婦。
俺、こういう人が好みだったのか。
この人が俺の。そして俺は妻の蝋人形を作ってしまう、愛妻家。ロマンチスト。
俺は変態だったのか。
もし、そういう変態なら、俺、この人の本体を殺した可能性も、じゃこの人は死んで、

絹子 なんで死ぬの。バカ。(写真に)

シゲ あ。

絹子 シゲ、バカ。

シゲ 
死んでいるのは、俺。思い出した。ね、絹子、さん。俺、なんで死んだの。絹子、さん。キレイな名前ですね。

絹子 (シゲの写真に向かってシャドウボクシング。)

シゲ げ。

絹子 
似合わない革ジャンのローンを残して、なんで、死ぬの。
ダボダボだわ、完全に革ジャンに着られて、ただでさえ重い革ジャンに押し潰されて、コタツ布団背負ってるみたいになって、その肩幅で何を・・・今日、今月分支払ってきたんだよ。
サイズの概念が無かった、デカいって重いな、なんて言い訳信じないんだから。

シゲ なんてひどい言い訳。

絹子 革ジャンのローン、ありがとう。

シゲ ローン。俺、借金。ごめん。

絹子 ローンで良かったから。毎月あるね。大事に、支払うね。
思い出とかじゃなくて、数字で、お金で、しかも借金で、残してくれて、ありがとう。

シゲ 本当にごめん。

絹子 
ありがとうなの。現実だよ。全部私は覚えていられるね、ありがとう。
思いきり大事に支払うね。ローンで嬉しい。

シゲ ・・・・今でも好かれていると、思っていいんですか?

絹子 (二礼二拍、お願いごと)

シゲ おいちょっと、俺、神格化されている?!

絹子 アグネスが、勝ちますように。

シゲ 
アグネス?アグネス、フローラ??馬だ!馬の名前じゃん、競馬、好きなの?ねえ、そこの貴女、絹子さん?!
俺も、俺もだ、気が合うな、俺ら、いい二人だったのか?今日やるの?新聞見ようぜ!

絹子 (新聞)

シゲ 
おおーサンキュウ、俺たち考える事も一緒なんだ。ほー、本日はオークス、アグネスフローラ、うん、いいんでない?

絹子 
アグネス、頑張って、私、単勝で勝負だよ、アグネス、お願いね!

シゲ 
え、単勝?!いや待て、連勝でしょ、間抜け。おい!良く見ろ、アグネス大外22番だぜ、連勝で3―8、7―8だろ、何年夫婦やってんだ、俺から学べよ!お前に言ってんだ絹子!
あれ。あれ?俺ら、競馬が好きで、気が合って、えっと、あれ、でも俺、

【回想。シゲが生きてた頃の、夫婦の2人】

シゲ ただいま~。
絹子 お帰り。
シゲ 腹減ったわ、なんかない?
絹子 えぇ、食べてから帰るって言ってたじゃない。
シゲ 
いま夕方6時だよ?
この時間に夕食を終えて、ここに既にいるって、どうかと思うよ。5時からやってる飲食店で食ってきたって、思ってるわけ?5時からやってる飲食店、美味いと思う?

絹子 おいし
シゲ 東京ぬきで!
絹子 ・・・東京は

シゲ 
東京は5時からでも、むしろ5時からこそ、かもしれないから。

絹子 地方で。
シゲ しかも県庁所在地で。

絹子 
なんだか、美味しくなさそうになってきた。けど。

シゲ 
ああ、もう!腹減った!なんで腹減ったの伝えるにこんなに疲れるかな!

絹子 負けたの。

シゲ 
お前ダメダメだな、負けたの勝ったの聞くなよ、
一回の勝ち負けで一喜一憂してる奴が、ギャンブルにドはまりして、破滅すんだよ!負けは一回の勝負で判断できるもんじゃないよ!
・・・半年の集計なんだ!競馬は半年の集計なんだ!

絹子 何それ初耳。『競馬は半年の集計』??
シゲ 常識だ!
絹子 勝ったときはご機嫌なくせに。

シゲ 
は?勝ったときはご機嫌?いや俺はいつだって冷静。お前の目が、そういうフィルターをかけてるんだ、俺の両手に、ソフトクリームを持たせるご機嫌なフィルターを、

絹子 
そのフィルター、フィルターって言わないよ、こういうのでしょ?
(両手にトリももレッグを持ったように見える透明シート)

シゲ 
なんだそれは!ご機嫌だ、ご機嫌だ、でもソフトクリームじゃない、

絹子 
クリスマスにシゲさんが作ってくれたやつじゃない。
シゲ そうだったな。
絹子 でしょ。
シゲ 裕福になったクリスマスだった。
絹子 今は。
シゲ 一文無しだ。
絹子 また、透明シートに絵書いて遊ぶ?
シゲ そうしようか。

絹子 
ねえイカ焼き両手持ちと、パルム両手持ちと、どっちがい?

シゲ 
この人、優しいな。
それに比べて俺。俺だよ。俺はこんなで天国に行けるのかな。
でも悪い事してるってわけではない。善悪ではない、また別のベクトルが、
俺の言動は、ベクトルが、なんていうか・・・。

【場所は競馬場。タマオ登場】

シゲ 絹子、お金持ってきた?
絹子 ううん。
シゲ なんでだよ!
絹子 だって、シゲさん、
「無料で馬をなぜたくないかい?たまにはフワフワしたカップルのように過ごそう。アルパカって知ってるかい?」って。

タマ 俺、邪魔でしたか、もしかして。
絹子 ううん、そうじゃなくって。
シゲ 何だよ、何だよ!金持って来てねえの?競馬場に??
絹子 お弁当は、作って来たよ?
シゲ ピクニックじゃないんだよ!勝負に来たのに!
絹子 馬を、なぜるって。
タマ 絹子さんは悪くないですよ、俺も、お弁当あやかってもいいですか。
絹子 タマちゃん、ありがとう。

タマ 
馬も、何とかなぜられないですかね、
前に、ゴールデンウィークには、馬に触れられるコーナー?時間帯?があったんですが。

シゲ 
なんだそれは。レース前の馬にちょっかい出してみろ、馬に蹴られて死んでしまうぞ、タマオ、死にたいのか!

絹子 なにそれ!馬に蹴られて死ぬのは横恋慕した人がくらう技でしょ、おっかし♪

シゲ なんだって?横恋慕?タマオ、お前絹子に何する気だ。

タマ 何もしませんって!絹子さんも、技、は違いますからね。
絹子 あ、そう?ごめんごめん。
シゲ あれ、タマオ、お前、赤いぞ、
タマ 赤くないですよ。
シゲ なんか怪しい。
絹子 シゲさん何言ってんの。
シゲ ねえ、絹子、タマオの口と鼻を塞いでみて。
タマ え、
絹子 ええ?
シゲ ちょっと、なに2人とも焦ってんの。ますます怪しい。

絹子 
つまり、あたしが、タマちゃんの口と鼻を塞いで、タマちゃんが赤くなったら、
その、つまり、(もじもじ)

シゲ タマオは横恋慕しようとしている、ことになる。つまり絹子を俺から盗るつもり。

絹子 踏絵的な。

タマ 
それ違います、間違ってます、空気が足りなくて赤くなるっていうケースも、ありますよね??

絹子 タマちゃん、潔白を証明しましょう。

タマ 絹子さん、ダメです、俺は赤くなります!

絹子 
ううん、絶対に赤くならないよ!
タマちゃんにとっては私は親戚のお姉さんみたいなもんでしょ?

タマ 
絶対に赤くならない?わけないです!そうじゃなくて、酸素の都合で、

絹子 踏絵、踏絵
タマ 軽く言わないで、俺、空気いる、
絹子 踏めればオッケイ、
タマ 軽い、
絹子 失礼するね?(タマオの鼻と口を塞ぐ)

タマ 
鼻と口を塞がれた!(一回逃れる)
この踏絵は、自宅の畳やフローリングの柄が、イエスキリストで、更に、玄関マットや脱衣所のマットの柄までイエスキリストで、靴の中敷きがイエスキリスト柄、状態の踏絵です!

シゲ 
イエスイエスイエス、タマオ、そんなんじゃイエスマンと思われるぞ!

タマ 
あと通勤路も!!
(イエスマンに対して)違います、さっきからこんなにお二人をたしなめ、間違いを指摘している俺ですよ?

シゲ 行け、絹子、こいつ絶対イエスマンだ!
タマ 違います!
絹子 ごめんねタマちゃん!
タマ ・・・・・・!!

【絹子、タマオの鼻と口を塞ぐ。】

シゲ 思い出した。タマオだ。俺は、タマオに話したんだ本当を。

【回想に戻る】

シゲ 
・・・なんかな、なんかな、ちくしょうタマオ、絹子と楽しそうに、絹子、お前は他の男にそんなことしなくていい!タマ ・・・・・!!(されたくない、されたくない!)

絹子 だってシゲさんが

シゲ だってじゃない!貸せタマオ!(絹子の手を自分の口と鼻に)
絹子 え、ちょっと、え、え、
タマ ちょっとシゲさん、絹子さんが変なねじれ方をしてしまいます!
シゲ 黙って貸んだタマオ!
タマ 俺じゃなくて、それ絹子さん!
シゲ 俺のものなの!
タマ そうですけど!
絹子 痛い・・・。

シゲ 
絹子見て、俺赤い??今でもこんなに好きだぜ!絹子、見て!

タマ 
見ちゃだめ絹子さん、見たら、もっと変なねじれ方しちゃうから!

シゲ 好きだぜ!赤いだろ!
絹子 見た、見た
シゲ うそつけ!

【回想終わり】

シゲ 
・・・・俺は、この人を、大事にできていたんだろうか。天国、は遠いのかもしかして。でも地獄ってほどじゃないような、俺甘いのか。天国、地獄、(♪天国と地獄くちずさむ。競争の気分だね)
あー、なんか、馬、見たくなってきちゃったなぁ。

【3人で競馬の回想】

絹子 
シゲさん、今日はお金持って来たんでしょうね。

シゲ 
ああ、この間のレースは、すまなかった。楽しかった。俺は馬がとにかく好きだと、わかった、いいレースだった。俺の読み通りに1―3で決まったり、タマオが3―8で外したり、

絹子 あたしも、お金を賭けなくても面白いじゃんって。

シゲ でも俺はそんなお前の寂しそうな横顔を見逃さなかった。

絹子 え?

シゲ やはり競馬は賭けて、馬を応援しないとなと、お前の為に。

絹子 ちょっとやめてよ、今日いくら持って来たの、全部使っちゃダメなんだからね、

タマ シゲさん、あんまり無茶はよくないですよ、

シゲ タマオ、よく俺に話しかける事ができるな。今日は馬に蹴られて死んでしまえ。

タマ だから違いますって!競馬場でそれ言うの、なんかなぁ、「今日は」って付けたし。

絹子 この間はごめんね、タマちゃん。息の根を止めようとして。

タマ いえいえ、息ができず赤かったんだとわかってもらえれば。さ、どの馬にするか、決めましょ。生き死にに関する言葉を交わし過ぎですよ、楽しい場内だと言うのに。

シゲ だな!
絹子 だね!
シゲ 
ねえこれ見て、知り合いの会社が、男鹿の支局を無くすってので、男鹿の支局で使ってたラミネート機、いらなくなったってので、俺譲り受けたの。

タマ 男鹿、ラミネート機、ピンポイントで聞きなれない言葉が出ますね。

絹子 男鹿って秋田の。

シゲ 
たりまえだ!何今更カマトトぶって
「あたしナマハゲのメッカなんて知りません~」なんて態度だよ!

タマ メッカ。
絹子 このご時世、日本にこの言い回しがあると知れたら、大変ね。
タマ 確かに。絹子さんは時事ネタもいけるんすね最高です。

絹子 あ、また脱線しちゃった、話を元に戻そ。
「なんで男鹿に支局を作ったんだろうね、会議で誰も反対しなかったのかな?」
って話だったよね。

タマ そうは思いましたが、それは誰も口には出してませんでした。

絹子 そっか。

タマ 男鹿に作った時点で無くなる定めだった支局だなとも思いませんでした?

絹子 思った。口には出した?
タマ 出してません。
絹子 言葉なんて、いらないね、
タマ 言い過ぎです、男鹿の支局に関しては、言葉は要りません。
シゲ お前達、俺の話を聞くんだ。
絹子 あ、シゲさんごめんなさい。また妬いちゃった?
シゲ 大丈夫だ、男鹿の支局に言葉として威力があったから、大丈夫だ。
タマ 男鹿の支局、ここが最大の働きでしたか。

シゲ 
いや、これからだ。タマオはこのタコ入りのバケツを持ち、当たり馬券を持って浮かれているヤツの周りをうろうろするんだ。

タマ は?このバケツの中、タコなんですか。

シゲ お前は、俺の話を聞いて無かったのか、
絹子は大丈夫だな、このバケツの中のイカを持って、さあ、行くんだ。

絹子 ああ!私たちがタコやイカを持って、
場内をうろうろする事で、馬券を汚されたくない人達が、ラミネートを必要とするって算段ね。

タマ 
すごいや絹子さん。秋田の男鹿で引っ掛かって、その先へ進めなかった自分が恥ずかしいっす。
仕事が無いなら、作ればいいんですね、すごいやシゲさん。しかも隙間産業中の隙間産業。

シゲ だろ?
絹子 (口元に付け髭)
シゲ 何してんだお前!
絹子 あたし、イカ持って歩くの、恥ずかしいから。だって女だし。
シゲ だからって付け髭ってなんだ。よっぽど恥ずかしいだろ!

絹子 
だから、書道家の、しかも前衛的で、いつでもどこでも衝動に駆られて書きたくなっちゃう先生に扮して、何か書くものは無いかってギラギラ練り歩いてくる。

シゲ 可愛いやつめ。
タマ ある意味ナマハゲですよ。
シゲ は?
絹子 (腕を振り上げて、ナマハゲみたくのしのし歩きだす)

シゲ ああ、書くものはねえか。いやー、可愛いすぎでしょ。

【回想終わり】

シゲ 
・・・・俺はこの人が好きだったんだなあ。
じゃ、もちょっと大事にしてもいいよな本当に。
確かに、わけわかんないけど可愛い人だ。

【シゲの回想。タマオと2人】

シゲ ねえタマオ、お願いがあるんだけど。
タマ はい。
シゲ 俺の代わりに、健康診断、受けてくれない?

タマ 
なんでですか、だってシゲさん健康診断は自己負担でしょ?せっかくお金払って受けるのに、もったいないですよ。自分の数値を知って、健康に関するアドバイス、受けた方がいいですよ。

シゲ お前真面目だな。

タマ 
何にもないなら何にもないで、これまでの生活でいいんだーって、変な心配やストレスもなくなって、益々健康になるわけですから。ストレスは大敵ですよ。

シゲ そんな、心まで健康そのもののお前だからこそ、受けて欲しいんだ。
タマ だからもう一度言いますよ?
シゲ いや、いい。
タマ だってシゲさんは健康診断は自己負担でしょう?
シゲ 始めた。あのね、あのねタマオ、俺、生命保険に加入するの、

タマ 
せっかくお金を払って、え、生命保険?
そう、せっかくお金を払って受けるのに、もったいないですよ、
生命保険に加入するのだから、保障が手厚いところを選びたいじゃない?って、ええ?ええ?

シゲ そう。いや、そうじゃなくて、俺、不健康そのものだから、加入できないと思うの、できてもお前の言う保障の手厚いのはきっとダメ。

タマ え、シゲさんちょっと待って、俺、話についていけてないんだけど、

シゲ 
そりゃそうだ、お前、話についてくるどころか、こう、別の話を進めながら、俺の話にクロスしてきて、一緒に進んでるような気持になってるから、

タマ はあ。

シゲ 
でも俺は進めるよ、で、保障の手厚い生命保険に加入するには健康そのものっていう証拠が必要なんだ、

タマ シゲさん生命保険は嫌いって言ってたじゃないですか。

シゲ 嫌いさ。人の足元見て。

タマ もしかして、昔の朝ドラ見て、生命保険好きになったんですか。

シゲ 「朝が来た」ね、広岡浅子、大同生命の生みの親。

タマ そうです。

シゲ お前は俺が朝ドラの影響で生命保険に加入する気になったと思うの。しかも何年も前の朝ドラ見て、今。

タマ はい。
シゲ んなわけないよ。
タマ えー、じゃあなんで今、あんなに嫌いだった生命保険に。
シゲ 理由はさておき、健康診断を俺の代わりに受けてくれよ。
タマ あやしい、そうまでして加入したいなんて。ググります、ヒロインは波留。
シゲ 朝ドラから離れてくれよ。
タマ あ、ディーンフジオカ!
シゲ その朝ドラで人気出た人でしょ。

タマ 
わかった!ディーンフジオカが、武豊に似てるから!だから!馬好きのシゲさんとしては、じゃ、いっちょ生命保険もいいか、武の乗る馬に毎月ちょこちょこ賭ける、それが生命保険だろ!だ!!

シゲ 
だ!じゃないよ、何言ってんのお前、ディーンフジオカが、武の出発がまず間違って、似てるな!ディーン様に、武様の目元が、似てるな!

タマ 
ですよ武様ですよ!だから、シゲさんは、生命保険に入りたくなったんですよ、生命保険という馬に、賭けてみたくなったんですよ、

シゲ 俺も、そんな気がしてきた!

タマ その賭け、ちょこちょこ毎月賭ける賭け、俺も乗った!もしもし、健康医学協会ですか?あたくしコバヤシシゲタマ、あ、間違った、
コバヤシシゲ、シゲ、

シゲ シゲユキ、

タマ 
シゲユキと申しますが、明日以降でなるべく早い日程で予約したいのですが。はい、はい、わかりました、よろしくお願いします。シゲさん、予約とれました。

シゲ お前、俺の名前うろ覚えだったな、
タマ はい!
シゲ てかシゲタマって、すごい間違え方だね、
タマ つい自分の名前言っちゃいそうに、
シゲ とも違うからね、お前の間違え方は!
タマ はい!
シゲ はいじゃないよ!お前はシゲタマではない!
タマ はい!ところで、今日は何の日か、忘れてませんよね。
シゲ おい。何でお前が意識してんだよ、やっぱり今日ここで馬に蹴られろ!

タマ 
シゲさんを心配してるんですよ、シゲさん苦手そうじゃないすか記念日とかお祝いとか。

シゲ 覚えてるさ、絹子の誕生日だろ、
タマ あ良かった。
シゲ だから、生命保険だよ。
タマ え。
シゲ 俺が死んだら絹子にガッポリだ。
タマ ・・・え。
シゲ 嘘だよ、冗談だ。
タマ 変な冗談やめて下さいよー。

シゲ 
照れだ。俺が絹子の誕生日忘れるわけないだろう。あいつ、俺の誕生日にさ、これくれたの。
(手編みのセーター、スキーヤーの柄。)。
手編み、すごくない?

タマ 編めるんですか?これ、

シゲ 
ある眠れない夜に、変な寝言でも言って絹子を怖がらせて遊ぼうと、
「ロイヤルブルーの雪景色の中を・・・。
スキーヤーが等間隔の距離を守って滑り降りてくるものを身に着けてないと、俺は昼ごはん直後でもお腹が空くんだ。」って言ったら、これだ。

タマ 絹子さん、頑張ったんですか。
シゲ なんか外出しないな、夜更かししてるな、とは思ってたんだけど。
タマ しかも、着なくても、昼ごはん直後にお腹が空く程度ですよね!
シゲ そう。
タマ 着ないと裸でいるとかではなく!
シゲ そう。
タマ 別に方眼紙に適当に絵を書いて、真ん中くり抜いて、被らせるだけでもいいのに、ですよね!
シゲ そう!そうそう!
タマ 愛されてますね。なおさら、ちゃんとお返ししないとですね。
シゲ 大丈夫。
タマ 本当ですか~?

【絹子、うきうき登場】

絹子 大変、すごい面白い馬、見つけちゃった!(新聞)
シゲ 来た。
タマ 何ですか?
絹子 見て、このアグネスフローラ!いい名前だよね!アグネスフローラ!
タマ ああはい。
絹子 そこじゃなくって!
タマ 突っ込まれた、
絹子 馬主見て、
タマ あ。ああー!
シゲ は~あ。
絹子 コバヤシキヌコ!
シゲ このセーターに見合うほどのプレゼント探すの、苦労したんだぜ。
タマ え。シゲさん、この馬、プレゼント、すげえ、やっぱ2人最高の夫婦、
シゲ だろ。
絹子 うっけるー!
シゲ え。
絹子 同姓同名、うっけるー!
タマ ちょい、シゲさん。
シゲ うん。
絹子 しかもアグネスフローラって!あたしんち実家お花屋なんですけど~!(爆笑)
タマ シゲさん。
シゲ う、うん。
絹子 アグネス単勝きめちゃおうかな、ってコバヤシキヌコお金が無い!
シゲ 絹子、絹子、盛り上がってるところごめんね。
絹子 え。
タマ 謝らなくていいですよシゲさん、
シゲ 今日、誕生日だよ。俺からの、プレゼント、気付いてほしい。
絹子 うん?
タマ アグネスフローラ。
絹子 ・・・・シゲさん。(泣く)

【回想終わり】

シゲ 俺とこの人、お似合いだね。うんうん。この日、いい日だったなあ。

【また回想】

タマ え、俺、ですか、ああ、できますよラミネート。300円でどうでしょう。
シゲ お前!
タマ え。

シゲ 
お前、、何言ってんですかラミネート屋さん、俺から1000円とっておいて、
なんでこの人だけ300円なんですか!この人からも1000円とって下さいよ!

タマ 
あ、あ~、俺、またやっちゃった、
すみませんお客さん、俺まえ、たこ焼き屋で、癖で、300円て言ってしまってたみたい。

シゲ 
なんでい兄ちゃん、もとたこ焼き屋かいな。ほな許したるわ。って、ええ!ラミネートシートがあと10枚分しかない!
しっかりせえ兄ちゃん、10名限定、10名様限定!

タマ あ、あなたも、あなたも、ありがとうございます!心を込めてラミネートいたします。
シゲ はい、絹子、一万円。
絹子 え。
シゲ アグネスフローラ、単勝一万円、
絹子 え、でも、ラミネートシートがもう、これ全部かけるのなんて、
シゲ 誰の誕生日だ!
絹子 シゲさん!あたし、買ってくる、アグネス単勝一万円!
シゲ 誕生日、おめでとう!
【回想一回抜ける】

シゲ 俺、天国行けるな。可愛い人だなー、つくづく。  

【シゲの回想。タマオと2人から】

タマ シゲさん、健康診断の結果、出ました。これ。
シゲ ありがとう。タマオ、お前、本当のところ絹子の事、どう思う。

タマ 
はい?ああ、アグネスフローラ。本当にシゲさん、買ったんですか。実はちょっとひっかかってました。

シゲ はい?ああ、それ。
タマ だってシゲさんお金持ちじゃないじゃないですか。
シゲ お前って言い回しが優しいね。
タマ 本当だ、「金持ってない」のあたまに「お」と付けて、否定すると聞こえが柔らかいですね、

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