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本をめぐらせる夜に駆け込むおじさんがひとり

山本英晶といいます。ひとりのおじさんです。
このnoteは、そんなおじさんのある日のできごとを、記事にしたものです。
ひょんなお暇があったり、ほぼ日の永田泰大さん(以下、永田さん)の「順二郎おじさんの本。」をご存じの方は、ついでにふふんと読んでいってくださると嬉しいです。
ざっと6,300字ほどです。
だいじょうぶです。日本語です。


さて、ことのきっかけとなった「順二郎おじさんの本。」のお話。

少し長いですがなにぶんきっかけなので、こればかりは読んでいただかないと困るのです。
未読であった、という方はいってらっしゃいませ。
すでにご存じの方と、ハンバートハンバートを聞いてお待ちしております。
好きなんです。あ、僕が、です。


ありがとうございました、おかえりなさいませ。
永田さんのことは、下記のほぼ日の記事でちょっと知っていました。

年末の大掃除を終えた後の、だらだらした時間のお供に最適です。
ブックマークをおすすめします。
ついでにもう一つ。

1週間の記録とは思えない質量を伴う、大作品です。
ブックマークをおすすめします。
こちらは年末に読み始めると、年が明けます。
クエスト名 : 死ぬまでジャンプで年またぎ
あるいは、
クエスト名 : 死ぬまで息止め年またぎ
などに挑戦中の方は、ゆく年くる年アラームをかけてからご覧ください。

では、ちょっとお手数ですが、10月14日金曜日の夕刻まで、時を戻していただけますか。
で、場所は岡山市内某所です。
一週間の仕事を終えて、歩道でぼんやりと信号待ちをしている僕がいます。
お、写真家の仁科勝介さんのツイートから、永田さんと叔父さんのお話を読みはじめました。
おー、傍からみても、ぐぐっと目と心が惹きよせられていますね。
信号が青になったの、気づいてないですね。
そのお話の最後には、こんなことが書いてありました。
む、みなさんほんとに読みましたか。
読んでない方、いまのうちですよ。ちょっと戻っていってらっしゃいませ。
ハンバートハンバート聞いてますから。


はい、おかえりなさいませ。
で、ですね、ここですここ。

地元民だからこそ、そう立ち寄ることのないSAの名前です。
ましてやSA名をこんなにでっかくするなんて人生ではじめてです。
たぶん今日限りです。
ここで、もし永田さんにお会いできれば。
僕の本を前橋まで持っていってもらえる。
あの、叔父さんの本と一緒に。

いきたいじゃないか。

瞬間的に望んだその刹那、なにかが脳裏にカットインしてきました。
明日は。10月15日土曜日は。

以下、妻とのLINE画面
僕「あのー、明日は確か」
妻「娘(3歳手前)人生初のお泊まり会 in 妻実家 まさにその日であるな」
僕「はい」

決して忘れていたわけではなく。
その日がもう明日であるという感覚が、にぶちんさんでありました。
妻にはいつも、迷惑をかけております。
このお泊まり会は、わが山本家で今年最重要ともいえるイベントでした。

クエスト名 : 娘をアンパンマンミュージアムへ連れてゆく

このクエストの達成には、旅程の都合上パッシブスキル【宿泊可能】を娘が手に入れなければなりませんでした。
しかし育児において初見クリア&スキル会得を前提とした行動は原則禁忌。

人生は 初見殺しと 思うべし

僕の中にある、娘と同じ3歳手前の父親像が、そう言います。
しかし、なんとか娘のアンパンマンのお熱が消えぬうちに行っておきたい。
実は一度、そのお熱は消えたことがありました。
幸いにも最近また、じわじわと熱を増してきたのです。
そんな経緯を妻の実家に説明した上謹んでご依頼し、夫婦ともどもお泊まり会を開いていただくこととなっていました。
妻の実家には、いつもお世話になっております。

さてこのやりとりに乗じて、妻が明日の午前中は仕事で不在であることを、僕はちゃんと思い出しました。あぶないあぶない。
そして、
その間の娘との安全性の高い冒険コースの想定と必要物品、昼食の計画、お泊まり会の必要物品、永田さんの所へ持っていく本の候補と必要なダンボール箱のサイズと在庫、(福岡をいつ出られるか未定であったので)仮に娘との冒険中に永田さんが来岡された場合のドライブルート及びその際の娘の懐柔作戦に必要なぬいぐるみ等の貢ぎ物
などを一瞬で脳をめぐらせんとしました。

わからん。

シゴオワモードの頭は、ちっともめぐりませんでした。
なんなら忘れていることすら忘れていたことすらあったのです。
おいおい、でてきます。
そもそも吉備SAへ本当に永田さんがこられるか、どうなるか、何もわかりませんでした。
しかし、です。
そもそも事前の計画や思考の通りにならないのが、冒険であります。

なるようになるか。

僕の得意な日本語で思考を一時停止し、暗くなった秋の帰途につきました。


明けて、10月15日土曜日。
朝一番、いや相対的におよそ朝五十万番くらいで僕はこうつぶやきました。

まごうことなき、おじさんです。
しかしまったくもってダジャレを言っている場合ではありませんでした。
本の準備は、なんにもできていなかったのです。
前日夜の僕を召喚し丁寧かつ十分なインシデントレポートを提出させたい。
できもしないことを考える癖を押し込め、自室の本の山に走りました。
山本だけに。

検索条件
・誰かからもらえたら嬉しい本
・誰かに読んでもらえたら嬉しい本
・差し上げてもいいなと思える本
・本でパンパンなハイエースにも乗るくらいのサイズ感

検索結果
・マイケル・ボンド 作 / 松岡 享子 訳 『くまのパディントン』
・小国 士朗 著 『笑える革命』
・星 新一 著 『きまぐれロボット』
・山口 信吾 著 『普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法<新版>』

検索システムに多少バグが生じた気もしますが、ちょうどよいサイズのダンボール箱が山裾に転がっていたのでほいほいと本を詰めました。
そして出立直前、玄関に転がっていた見覚えのない白いガムテープを瞬時に手に取り、妻と娘の待つ車へと放り込みました。

永田さんのツイートをちらちら見つつ、うるうる来つつ、娘との冒険を優雅かつ豪快に終えたあたりで14時前。

永田さんは、まだ出発前でした。
これから、今日のうちに吉備SAまで来られるとしたら。
大学時代に九州の下宿先から車で帰岡した時の記憶から逆算します。
走るだけならたぶん5時間くらいで吉備まで来れて―、寄られるSAで30分くらい休憩をとるとしてー、ご飯の時間も考えてー

わからん。

そしてその答えにたどり着く前に14時からウェブ研修会があるのをすっかり忘れていたことに(妻から言われて)気がつきます。
しかし瞬時に見られるよう画面つけっぱで永田さんの動向を追っていた僕のスマホの電池は切れかけで、恥を忍んで妻にスマホを借り、また思考を停止しました。
妻にはいつも、迷惑をかけております。

帰宅後になんだかんだとお泊まり会準備を済ませ。
妻の実家に向かう頃には

永田さんは山口県まで進んでいました。
選択肢をいくつか想定しました。

候補①お渡しをあきらめる
候補②先に行って待っとく
候補③ねばる

わからん。
なるようになるか。

そんなことばかりいいながら、ひとまず妻の実家におじゃましたのでした。
お泊りと来れば、義父のお酒をいただく大チャンスでした。
しかし、人間はお酒を飲むと車を安全に運転できなくなります。
もし強引に運転しようとすればカーナビが「お酒を飲んだら運転はやめんかいオラ」とエンジン開始早々のフィニッシュホールドをかけてくることでしょう。
だめなものは、だめなのです。
ぎりぎりまで見極めるため、③ねばる を採用しました。

以下、妻の実家
僕「あのー、実はこの後かくかくしかじか」
義父「まるまるうまうま」
義母「ちなみに、本ならなんでも?」
僕「なんでも」

妻の実家には、いつもお世話になっております。
そして20時すぎ。

さらに20時34分。

福山SAから吉備SAまで、だいたい1時間。
間違いない。永田さんは今日、吉備SAに来るのだ。
夕食後、もう少し早めにお伝えしておけばよかったなと思うくらい、義母はノリノリで本を探してくれていました。
前述の写真で、永田さんの運転するハイエースに少しゆとりがあるのを知っていたので(もし道中でパンパンになってたら持って帰って送ればいい、というか本来はそう)、持っていこうと決めました。
義父との酌み交わしを妻に依頼し、出立準備をはじめました。
妻には、いつも迷惑をかけております。

そして娘にばれぬように義母の本を詰め込み、車のエンジンをかけ、ナビに目的地を入力しました。
回答は
「22時につくぞ!いいか!安全運転だぞ!わかったかこのやろう!」
でした。
永田さんいなくなっちゃうよ。
よく見るとナビは高速道路に乗るルートを示していました。
(それでもなんでそんなかかるんだ)
しかし吉備SAには、高速に乗らずして行けるルートがあるはずなのです。
文句を言ってフィニッシュホールドされてしまうことのないようナビのルートをそっとルートを消去し、スマホのグーグル先生に依頼しなおし、出発しました。
しかし道中、山道めちゃくちゃ暗い。夜だから当たり前なのですが。

"夜の闇よ、僕を独りにしないで"

そして暗くて見つけられなかったのかもしれませんが、出てくる看板が毎回
 | ̄ ̄ ̄|
 | E 吉 |
 | T   | 
 | C 備 |
 | 専  |
 | 用 S |
 | 出  |
 | 入 A |
 | 口  |
 |___|

なんです。こちとらETCないんですわよ。
ETC非装着車進入不可だったら、アウト。
しかしのんびりと調べる時間はもはやありません。
ちゃんと調べておかなかった自分を召喚して丁寧かつ十分なインシデントレポートを提出させたい。
いくしかない。なるようになる。
そうして山道はぐねぐねとして、高校時代に乗り回したバトルギア2ばりに攻めているつもりが、気がついたら後続車をたくさん連れ立ち、幸い独りじゃなくなりました。
そしてまた幸いにETCゲートを通らずして、SAそばの駐車場に着きました。
やっぱり暗い。


まあ、とにかくついたし、ちょっとおちついて、箱にガムテープして、お渡しするお土産買って、ぼちぼち待とうかな、えーとTwit

エマージェンシー。

箱は持ったか。両方持った。
ガムテープはあるか。ある。
なんで白なんだ。何に使うんだ。
しるか。白だけに。
もはやギャグでもない。
そうしてフタの空いた大小のダンボール箱と白いガムテープを抱え、お尻でドアをバスンと閉め、暗い歩道をほひほひと駆けていきました。

あぁ、間に合って、本当によかった。

妻の実家に戻ると、寝つきかけていた娘が大ハッスルで起きました。
妻にはいつも、迷惑をかけております。
ダッシュでお風呂をいただいたのち、父ではなく、うーたんどこぉ、とむにゃむにゃする娘をなだめつつ、川の字で寝ることができました。

クエスト名:娘(3歳手前)人生初のお泊まり会 in 妻実家 クリア

クエスト名:娘をアンパンマンミュージアムへ連れてゆく ロック解除


そして翌日、10月16日の日曜日。20時15分。

永田さんは、僕の本を、本当に前橋まで運んでくださいました。
いまでも、なんだか夢のようです。
お酒を飲んでいるからだと言われれば、そうかもしれません。
どうもありがとうございました。

追伸:お義父さん、次は絶対一緒に飲みましょうね。


僕「あの白いガムテープなに?」
妻「あぁ、引っ越しの時にあなたが適当に買ったら白かったやつでしょ」
僕「えぇ」


あとがき

普段の僕は、こんなに活発な男の子もといおじさんではありません。
①あきらめる
をだいたい選択する、あきらめおじさんです。
「正当に見えるやらない理由」は、いつも僕に諦めをつかせてくれます。
今回もその機会は、何度もありました。
でも、やらない理由を捨てて、会いに行きました。
やった理由に言葉をつけるとすれば。
1つ目。
永田さんの一連のツイートにタグ付けされつづけた、前橋BOOKFES。

本のやり取り。本のイベント。初めての試み。
そのクラウドファンディングに、ちょっとだけですがお力添えをしました。

なんでこんな深夜だったのかは覚えていません。
リターンとして現地参加チケットをいただいたのですが、都合がつかず断念していました。
どうしても不可能なことも、あります。
ならばせめて本を送らねばと思うだけ思って、できていませんでした。
僕、そういうの、よくあるんです。
いくじなしの一類型な気がしています。知らんけど。
でも、永田さんに会うことで、応援する気持ちを仕切り直したい。
間違いなく、そんな思いがありました。

2つ目。
僕は「ひろのぶと株式会社」という出版社の株を、少しだけ持っています。

紙の本を売る会社を、いま作る。
「あいてー」「あいおーてー」なご時世に、逆張りなスタンスにみえます。
でも、僕は知らないのです。
この世界に、どれほどの「ニーズ」というか「好き」が紙の本にあるのか。
社長の田中泰延ひろのぶさんから、市場規模の話についてもお話いただいたのですが、ちょっと何言ってるかわかりませんでした。

12:20あたりのスライドです。
ちょっと額が、大きすぎて。
ひたい、じゃないですよ、がく、ですよ。
僕は、この株主ミーティングにも参加しました。
このときも、様々なやめとく理由を、なんとか差し置いて行きました。
そんな僕は、永田さんのドライブを見届けることで、本が好きな人のことをもっと知りたかったのかもしれません。
吉備SAには、前日にアナウンスがあったばかりのことでも、ちょっと遅めの時間でも、人が集まりました。
永田さんに、会って、本を渡すために。

あぁ、本の力だな、と思いました。
確かに僕は、確かめることができました。

よくわからんがなぜか命はめぐるものであって、めぐるものは命のようなものだよなと、ぼんやりと、でもなぜかそう感じながら、僕は生きています。
前橋BOOKFESでは、何年も静かに置かれていた本が、きっとものすごいめぐりを見せるんだよな。永田さんの叔父さんの本のように。
帰りの車中、運転しながら僕はそんなことを思っていました。
僕の本も、そのめぐりの中で、誰かの大切な本になるといいなと思います。
普通のサラリーマンが2年でシングルになる方法も、いつぞやの僕には、とても大切な一冊でした。
ありがとう。いってらっしゃい。

僕のように、まだ本を送ることができていない方、いませんか。
10月26日(水)必着分までいけます。
ぜひ送りましょう。ちょっとだけ、頑張りどきです。
現地参加ができる方は、どうかその様子をTwitterで教えてください。
僕は、とても知りたいと思っています。

おまけ談。
ハイエースに乗り込んだ永田さんが吉備SAで起こったことをツイートしてくださっている間に、僕はショッピングエリアにあった高瀬舟をダッシュで買ってお渡ししました。

好きなんです。あ、僕が、です。
ハイエースのドアをノックした瞬間の永田さんはめちゃくちゃびっくりしてました。
ほんとうにごめんなさい。
永田さんと、そして吉備SAにおち合わせたみなさんと手を振りあえたこと、忘れません。
吉備SAのショッピングエリアが24時間営業なのも、忘れません。
勝手に名前でっかくしてすみませんでした。
僕がなんとかなっているのは、僕以外のみなさんのおかげです。
いつも迷惑をかけております。
いつもお世話になっています。

最後に。
永田さんの2日間の道のりは、このサイトで振り返ることができます。

運ぶと決めてやりきった永田さんは、本当にすごいお方です。
おこがましいのですが、僕もちょっとだけあきらめませんでした。
そんな僕でいられれば、また永田さんにお会いできる日がくるような気がしています。
ここまで読んでくださった方。
きっと本が好き、ですよね。
もし、本とともにめぐり合えるときがあれば、僕は嬉しいです。
ここまでお読みくださり、どうもありがとうございました。

(了)

2022/10/18、10/21 一部改訂

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