貴女を知って。僕を知って。
……。
……。
ねえ。
そんな目でずっと見られていると集中できないんですけど。
なんです?
どうせ、「手を繋いでください」とか、
「匂いを嗅がせてください」とか。
そんなことを思っていたんでしょう?
いや、そんなよく分かりましたねみたいな顔をされても。
いつもそればかりじゃないですか。
え?
嫌ですよ。
せっかくのお休みなんですから。
溜まった本を読みたいんです。
集中したいから、ね。
いい子にできますよね?
……。
……。
あの……。
そんな目でじっと見つめないでもらえますか?
捨てられたわんこじゃないんですから。
え?
はいはい。
分かっていますよ。
お前は私のわんこですね。
いや、そうじゃなくて。
本を読むのに集中したいんですけど。
ん?
何この紙?
『手を繋ぐとみんな幸せ』……?
え、何これ。
自分で作ったんですか?
この新興宗教のお誘いみたいな紙を?
ふ♥
どんだけ私と手を繋ぎたいんですか。
ふぅん。
ねえ。
昨日買ってきた飴、取ってきてくれますか?
そうです。
三種類入っている袋のやつです。
うん。
ありがとうございます。
ここ、座って。
そうです。
私の足元に、床に座るんです。
ん、いい子。
仕方ないですね。
もう。
この中から飴を選んで舐めるから、
私がどの味を舐めているか当てることができたら、手を繋いであげる。
でも、当てられなかったら、
一週間、手を繋いであげません♥
ふふ♥
当然ですよね?
私の読書の時間を使ってあげるんですから。
分かりましたか?
ん。
目を閉じて。
くす♥
どの味にしようかな。
葡萄にしようかな。
檸檬もいいなあ。
あ、苺もいいですね。
んー。
これにしようかな。
あむ。
うん。
美味しい。
じゃあ、ほら。
目を開けて。
うん。
上を向いて。
そう。
口を開けて。
あーん、って。
もっと大きく、あーん。
くす♥
エサを強請るヒナみたいですね♥
れええぇぇぇーっ♥
あは♥
飴を舐めて私の口の中に溜まった唾液のお味はどうですか?
美味しい?
どんな味がする?
ちゃんと味わってくださいね?
くちゅくちゅって。
口の中を、私の味だけでいっぱいにして。
口の中で、私の味だけを感じて。
口の中を、私の味だけにするんですよ。
あなたは私がどの味の飴を舐めているか、当てないといけないんですから。
ふふ♥
ねえ。
分かった?
なんだか幸せそうな顔をしていますけど、分かったんですか?
ん?
まだ分からない?
もう一回欲しいの?
しょうがないですね。
これが最後ですよ?
ほら、また口を開けて。
あーん、して。
舌をべーって、して。
もっと。
もっと伸ばして。
限界までべーって。
くす♥
れぇぇぇー……ぺっ!!!
あは♥
ごめんね。
鼻についちゃいましたね♥
ほら、動かないで?
拭いてあげる。
ぬりぬり♥
あー、ごめんなさい♥
拭こうと思ったのに、塗り広げちゃいました♥
でも、乾燥しやすくなったから良かったですよね?
感謝してくださいね?
それで、私がどの味の飴を舐めているか、分かりましたか?
え?
苺?
ふぅん。
それで、いいんですか?
そう。
正解♥
んー。
私のわんこには、簡単過ぎたでしょうか。
次はもう少し難しくした方がいいでしょうか。
ん?
うん。
偉いですよ。
よしよし♥
はい、ご褒美。
お手♥
ぎゅ♥
ふふ♥
何度も言ってますけれど、本当に手を繋ぐのが好きですよね。
飽きないんですか?
そうですか。
幸せなの?
ふぅん。
あ、こら。
にぎにぎしないの。
ん……。
ねえ。
これ、いつまで手を繋ぐんですか?
もうちょっと?
そう……。
あの。
左手でタブレット支えてもらえますか?
うん。
わんこの気の済むまで手を繋いでてあげますから、タブレット支えていてね。
私は電子書籍を読んでますから。
はいはい。
ぎゅ♥
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