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015 論文「汽車土瓶の考古学ー福祉・芸術にかかわる地域実践ー」の掲載

2023年に立命館大学史学会にてお話しさせていただいた「汽車土瓶の考古学ー福祉・芸術にかかわる地域実践ー」を『立命館史学』43号に掲載していただきました。
言ってしまえばいつもの話、ではあるのですが時折こうした機会をいただいて自分のやってきたことを振り返り整理することは(自分にとっては)とても必要なことです。
この時には、歴史学を研究する方々に向けた話だったので、非常に失われやすい近現代の史料の特質について、また学術研究を福祉や芸術とかかわらせながら広げていく試みの事例にフォーカスしました。

ご存知の通り汽車土瓶は焼き物ではあるのですが、芸術作品とは異なる量産型のプロダクトです。そう言った性格もあってか、生産者側にも消費者側にもまとまった記録が残されていることは極めて稀です。そういった状況において遺跡(鉄道の駅や窯跡など)から出土した事例を積み上げながら多くの研究者たちが像を結ぶべく研究を進めています。ただ、遺跡からの出土事例も豊富であるとは言えません。というのも、よほどのことがない限り近現代の遺跡は行政による保護の対象(埋蔵文化財包蔵地)にはなっていないのです。なので、幾つもの偶然や関係者の努力によって調査された僅かな事例を元にゆっくりと研究が進められているのが現状なのです。ですから、調査されることなく消滅の憂き目にあった近現代の遺跡は少なくないのです。
非常に地味なことではあるのですが、こうした論文という形ではありますが、学術的な地盤を固めつつ認知を広げていくことは不可欠だと考えています。そこから新しい「知」への挑戦がはじまっていくのだと信じています。

また、私たち学術の研究者は研究対象を調査・研究し、それらをまとめた報告書や論文、書籍を執筆することを専らとします。自分で言うのも烏滸がましいのですが、かなりの労力を使いますし、文章にするまで漕ぎ着けたら自分を目一杯褒めてやりたくなるくらいです。しかし、それでは狭い業界内で認知されるのが関の山で、世の中には全く広がっていかないのです。そうした中で、私が信楽で行ってきた汽車土瓶の調査においては、汽車土瓶を作っていた信楽学園さんや陶芸作家の方々、かつて信楽焼の汽車土瓶を駅弁とともに販売されていた米原駅井筒屋さんなど数多くの方々に関わっていただいて今までにない広がりを感じました。そして調査のまとめである『信楽汽車土瓶』と言う本をサンライズ出版さんから刊行していただいたことを契機に、信楽学園さんで汽車土瓶を復刻することになり、ここでもまた多くの方々に関わっていただきささやかな盛り上がりを見せることができました。そこから信楽在住のデザイナーである横山絵理さんたちと信楽汽車土瓶プロジェクトを展開させ、現在に至っています。
どの学術研究においても展開できるものではありませんが、学術の世界を起点に広がっていく試みも悪いものではないと感じるのです。

ささやかな論文ではありますが、私にとっては大事なものです。一読いただき、汽車土瓶の持つ世界に触れていただければこんなに幸せなことはありません。


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