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6月11日発表 禁止改定について

はじめに

2020年6月11日、MTG公式サイトより、
人種差別な描写やテキストを含む7枚のカードの使用禁止が発表。


禁止されるカードは以下の7枚。
これらのカードは全てのトーナメントにおいて禁止。
また公式のデータベースからも画像が削除されるという異例の事態に。

(非公式フォーマットを含め禁止らしい。)

《Invoke Prejudice》
《Cleanse》
《Stone-Throwing Devils》
《プラデッシュの漂泊民/Pradesh Gypsies》
《Jihad》
《Imprison》
《十字軍/Crusade》

見ての通り、
7枚中の5枚は日本語版が存在しない程の昔のカード。

以下に初出のセット名とレアリティも含めて記述しておこう。

《Invoke Prejudice》:Legends レア
《Cleanse》:Legends レア
《Stone-Throwing Devils》:Arabian Nights コモン3
《プラデッシュの漂泊民/Pradesh Gypsies》:Legends アンコモン1
《Jihad》:Arabian Nights アンコモン2
《Imprison》:Legends レア
《十字軍/Crusade》:アルファ レア

このカード達が禁止になる原因となった事件は、
アフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんが、
2020年5月25日にミネアポリス近郊で容疑者として、
白人警察官に拘束されている最中に殺害されたとされる事件。
これを機にアメリカでは
「2020年ミネアポリス反人種差別デモ」
呼ばれるデモが各地で勃発。
新型コロナの影響で安定しない経済状況が重なった事で、
より状況が悪化したと見られる。
この人種差別デモをきっかけとして、
上記7枚のカードは人種差別に抵触する恐れがあるとして禁止されたとされている。
また、WotC社として人種差別に反対である意を示すため。

MTG27年の歴史の中でこのような事は一度も無かった。
時折、出版された書籍がこういった理由や、
差別表現によって文章を差し替えたり絶版になる事はあるが、
TCGの世界ではまず例が無い。
ましてそれがMTGで行われるとは想像もしなかった。

禁止カードの詳細

画像1

《Cleanse》
コスト:2白白
ソーサリー
すべての黒のクリーチャーを破壊する。
レア

禁止理由の推察:
「すべての黒のクリーチャーを破壊する」
という効果の黒という指定に加えて、
Cleanseという英単語の直訳は浄化である事で、
黒人に対しての民族浄化を想起させるため。

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画像2

《Stone-Throwing Devils》
コスト:黒
クリーチャー デビル
先制攻撃
1/1
コモン3

禁止理由の推察:
イスラム教の宗教的儀式「Stoning of the Devil」を揶揄しているため。
イスラム教ではStoning of the Devil(悪魔への投石)と呼ばれる宗教的儀式が聖地メッカで行われており、
悪魔に見立てた石柱に石を投げて悪魔の誘惑を退ける。
イラストでは逆に悪魔が石を投擲する姿がモスクを背景に描かれており、
宗教的問題を懸念したものと思われる。
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画像3

《プラデッシュの漂泊民》
コスト:2緑
クリーチャー 人間・ノーマッド
(1)(緑),(T):クリーチャー1体を対象とする。
それはターン終了時まで-2/-0の修整を受ける。
1/1
アンコモン1

禁止理由の推察:
カード名にGypsy(ジプシー)があることと、
フレーバーテキストが問題ではないかと思われる。
ジプシーとは、
「移動型民族」という意味だが、
定住する地を持たない事を含めて、各地で差別を受けた過去がある。
加えてフレーバーテキストが
「実に謎めいた者たちだ。その起源はおろか、慣習すら誰も知らない。」
この一文であるため、
人種差別になりかねないと判断したと思われる。

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画像4

《Jihad》
コスト:白白白
エンチャント
Jihadが戦場に出るに際し、色1色と対戦相手1人を選ぶ。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしているかぎり、
白のクリーチャーは+2/+1の修整を受ける。
選ばれたプレイヤーが選ばれた色のトークンでないパーマネントをコントロールしていないとき、
Jihadを生け贄に捧げる。
アンコモン2

禁止理由の推察:
イスラム教への差別的な認識を助長させ得るため。
「Jihad(ジハード)」は必ずしも軍事的要素を含むわけではない。
アラビア語では「ある目標をめざした奮闘,努力」を指す言葉だが、
イスラム圏では「聖戦」の意味に転じている事が大きな原因と見られる。
《Stone-Throwing Devils》同様宗教的な理由がうかがえる。
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画像5

《Imprison》
コスト:黒
エンチャント オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
プレイヤーが、エンチャントされているクリーチャーの、
その起動コストに(T)を含むマナ能力でない能力を起動するたび、
あなたは(1)を支払ってもよい。
そうした場合、その能力を打ち消す。
そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
エンチャントされているクリーチャーが攻撃かブロックするたび、
あなたは(1)を支払ってもよい。
そうした場合、そのクリーチャーをタップし、戦闘から取り除く。
この戦闘でそれによってのみブロックされていた、
それがブロックしていたクリーチャーはブロックされていない状態になる。
そうしなかった場合、Imprisonを破壊する。
レア

禁止理由の推察:
イラストに、マスクを付けて拘束されている肌の黒い人物が描かれているため。
金属製のマスクは奴隷制時代の米国南部で黒人奴隷の拘束・拷問に使われていた背景もある。
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画像6

《十字軍/Crusade》
コスト:白白
エンチャント
白のクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
レア

禁止理由の推察:
イスラム教諸国への攻撃(史実の十字軍)をモチーフにしているため。
アルファから第4版までのイラストが、史実の十字軍を想起させるため。
これも宗教色の濃いカードと言えなくもない。
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《Invoke Prejudice》について

ただ、《Invoke Prejudice》に関してはちょっと異例な部分もある。

画像7

《Invoke Prejudice》
コスト:青青青青
エンチャント
対戦相手1人が、
あなたがコントロールするクリーチャーと共通する色を持たないクリーチャー呪文を唱えるたび、
そのプレイヤーが(X)を支払わないかぎり、
その呪文を打ち消す。Xはそれの点数で見たマナ・コストである。
レア

このカードの禁止理由は
Invoke=祈る、念ずる、訴える、呼び出す
Prejudice=先入観、偏見

という単語、
加えて絵柄がクー・クラックス・クランという、
アメリカの秘密結社、白人至上主義団体の格好に似ているため。
クー・クラックス・クラン(略称:KKK)は、
黒人に対し理由無き暴力や差別をした過去があり、
現在も完全に壊滅とまでは行っていない組織だと言われている。

そして、
GathererというWotC社が公開するMTG公式カードデータベースで、
個別番号が1488という数字であった事だそうだ。
1488が何かいけない事でも?
と思う人も多いと思う。

これは14という数字は14 Wordsという人種差別的スローガンを示し、
88という数字はアルファベットのHが8番目のアルファベットである事で、
(ABCDEFGH・・・確かに8番目だ。)
88=HHになり、
これがそのまま
「ハイル・ヒトラー」
の隠語であるというもの。
強引だなぁと思わなくはないところだ。
この部分は別にカードの個別番号へのこじつけだ。
このカードそのものに禁止理由はあるけれども、
個別番号にまで触れてくるというのは少々異例だ。

ただ、どのカードであろうとも、
WotC社はわざわざ人種差別を意識して作っていない事はわかる。

ゴジラの《死のコロナビーム、スペースゴジラ》という日本語名も、
狙って作ったものではない。
もともとゴジラの攻撃技に存在していたものが、
本当に信じられないタイミングで新型コロナと重なっただけだ。
こんな時期でなかったら、
ゴジラとしてだけ注目されただけのカードで終わっていた。

ゴジラのほうは
「イコリアの再販からこのカードが削除される。
PC版のマジック:ザ・ギャザリング アリーナでは、
このカードの名前が《虚空の侵略者、スペーズゴジラ》に変更される。」

という発表になった。
禁止にまでは至らなかったが、
これもまた異例の措置の1つだった。

どちらにしてもここ1年で今までに想像しなかった措置が、
いくつもの形で起きている。
20年以上の歴史を紡いできたカードゲームの措置としては、
あまりにも驚きの連続だ。
相棒カードの事については擁護が全く出来ないけれども、
この7枚の禁止についてはWotC社も被害者の一人という見方もあると思う。

今回の禁止について

「言葉狩り」

という言葉をご存じだろうか。

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言葉狩りとは、

今までは普通に使用されていた言葉などが、
一部の人々により不適切だと見なされてタブーとなる事。
一部の人々の極端な解釈や主観によって、
一般的な言葉が差別用語扱いを受ける事。
また、トラブルを恐れて企業側がその言葉を差し替える羽目になる事。

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まさに今回の禁止改定は言葉狩りとも言える。

だいたいこういう事を言い出したら、
《眩しい光/Blinding Light》は何故禁止にならなかったのか。
こんな阿呆な事を知っている人はまずいない気がするが。

画像8

《Blinding Light/眩しい光》
コスト:2白
ソーサリー
すべての白でないクリーチャーをタップする。
アンコモン

このカードはミラージュのアンコモン。
これだけ見ても
「このカードがどうして禁止にならないのか?」
というのはわからないはず。
このカードのテキストが問題なのだ。
英語版を見ても日本語版を見てもすぐにはわからない。

この画像を見るとわかる。

眩しい光翻訳

全力でまずい事が書いてある。
・・・というより、これだけ見ると、
《Cleanse》より数倍まずいのでは?

これは10年以上前に、
「エキサイト翻訳にMTGのテキストを翻訳させたら、
 どのくらい正確に翻訳してくれるのか?」
という疑問を持った店主が、
たまたま見つけた1枚。

10年以上前のエキサイト翻訳だと少し表現が違っていて、
「全ての非白人を叩きなさい。」
だった。
上記の画像はつい最近。
どっちにしてもまずい表現。
「Tap all nonwhite creatures.」
という短い文の
nonwhite creatures
非白人や白色人種でない生き物と訳すあたりが驚きだ。

まとめ

前述の《眩しい光》はほんの一例だが、
重箱の隅をつつくように探し始めたら、
どれだけのカードが禁止されるかわかったものではない。

日本は基本的に黄色人種がほとんどで、
肌の色以外で人種差別が存在しているものの、
そのケースは多くはなく、
海外のような大きな問題に発展する事は滅多に無い。
逆に海外では人種差別は軽々しく扱えない問題であり、
特に白人と黒人のが一定量の割合で存在している国では、
絶えた事の無い問題だろう。

しかし、それが理由で、
表現の自由をこうして奪われてしまう事は、
表現者(WotC社を含む)にとっては損害でしかない。
私達プレイヤー全員、
そしてWotC社はどちらも今回の事では被害者だと思う。

この禁止改定は非常に残念でならない。
差別など考えもしない人間たちにとっては、
言葉狩りによってまた1つ自由を奪われただけだ。
WotC社にとっても望まない禁止改定だったはず。
MTGにこんな不自由さを用意したかったわけがない。
「自由の国アメリカ」
と言われる国なのに、
こんな問題が起きてしまう事も残念だ。

これらのカードは大半はトーナメントでは活躍しないものの、
昨今ではEDH、アルファ40、オールドスクール等、
今までトーナメントで使われなかったカードを使う世界が存在している。
それだけにこれら7枚が禁止される事は決して小さな事ではない。

実際に、
《十字軍》や《Cleanse》はオールドスクールでは使われる。
特に《Cleanse》は白が《黒騎士/Black Knight》を一方的に除去する手段にもなる。
白単VS黒単では相手だけ一方的に《神の怒り/Wrath of God》になる場合もある。
《Jihad》はギリギリ使われなくもない。
《Stone-Throwing Devils》もそのくらいの立ち位置か。
《Invoke Prejudice》はEDHで使う人がたまにいる。
オールドスクールでも使えないわけでもない。
これらのカードには「与えられた戦場」がそれなりに存在するのだ。
それが禁止になってしまう事は本当に大きな損失だ。
何よりも、
「ゲームバランスやゲームの進行において、
 問題のあるカードを禁止や制限。」
といった事とは全く違う禁止理由で、
本来使える自由を奪われる事はとても大きい。

そして、当然の事ながら、
各カードを描いたイラストレーターが存在し、
その各イラストはそれぞれに1つの作品であり、
「人種差別のために作ったカード」ではない。
その意味では各イラストレーターの方々も被害者だ。
こんな形での禁止は、
世界中の誰もが(禁止を決断したWotC社も)望まない。

「MTGは言語や人種といった垣根を超えて、
 同じ趣味の人がゲームのルールだけで繋がれる。」

という素晴らしい存在だ。
MTGを趣味としている人は、
おそらくそんな人種差別のような考えをする人は少ないはず。
少ないはずというより、いないと信じたい。
差別が無くなる世界は難しいかもしれないが、
いつかこのカードたちがもう一度使える日が来てほしい。

ではまた。

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