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【監督インタビュー】異物映画を撮り続ける異形監督、宇賀那健一が新たに放つ未知の存在と人間との邂逅。ゆるふわSF映画『みーんな、宇宙人。』に込めた孤独、侵略、そして平和のメッセージをうかがった

タイトル写真:宇賀那健一監督
取材・文 後藤健児

 予測不能の悪魔喜劇『悪魔がはらわたでいけにえで私』が今年2月に公開されたばかりの宇賀那健一監督による最新作『みーんな、宇宙人。』が6月7日より、同じくエクストリーム配給で世に放たれる。ファッション&カルチャー雑誌『NYLON JAPAN(ナイロン ジャパン)』の創刊20周年プロジェクトのひとつとして作られた本作で描かれるのは宇宙生物。今回、宇賀那監督にインタビューを行い、80年代ホラーの話なども交えて、いろいろ語っていただいた。

『みーんな、宇宙人。』ポスタービジュアル

 ビルの屋上に立つ青年セイヤが誰かの役に立とうと「オレオレありがとう」電話を繰り返しているところに、エメラルドブルーで毛がモジャモジャの生物、ミントが現れた。その後、体型にコンプレックスを抱えるミサトのもとにオレンジ、ネガティブ志向のショウの前にはピーチ、孤独なレイにはオリーブ、人間を強く信じているヒロトのもとにクロウ、そして人生を悔いているリュウの前にグレープが現われる。ミントとその仲間たちは人間たちと緩やかなペースで対話を続けるが、彼らには共通したある目的があった。それは……。
 宇賀那監督の過去作である『異物』シリーズや『悪魔がはらわたでいけにえで私』などのように本作でも、異形の存在と人間が時に対立し、時に交流を深めて互いを知っていく物語が展開。かわいらしい宇宙生物たちのデザインとポップなテイストとは裏腹に、都会で生きることの孤独や、侵略、戦争、平和といったシリアスなテーマも内包されている一筋縄ではいかない作品だ。宇賀那は『NYLON JAPAN(ナイロン ジャパン)』創刊15周年プロジェクトの長編映画『転がるビー玉』も手掛けており、当時の渋谷の街でもがく若者たちの姿は、最新作で悩み傷つく新たな世代の若者たちと重なる。宇賀那が自身を投影していると語ってもいた宇宙生物が、悩める人間たちを温かい眼差しで見つめ導いていく。宇賀那流のSF人間交差点映画だ。

個性豊かな宇宙人たち

――『悪魔がはらわたでいけにえで私』の手応えはいかがですか?
宇賀那 かなり変な映画ですので、面白がっていただける海外の映画祭はあると思っていましたが、国内での反応は予想ができませんでした。結果、ポジティブな反応もいただけたのはうれしい誤算というか、励みにもなりました。変な映画を作っても、ちゃんと観てもらえるんだと。
――ちなみに『悪魔のいけにえ』と『死霊のはらわた』、どちらがお好きですか?
宇賀那 めちゃくちゃ難しい質問(笑)。話はズレるんですが、『悪魔がはらわたでいけにえで私』を観てくださった方々からの感想で一番多いのが『死霊の盆踊り』みたいだと(笑)。
――踊ってますしね(笑)。
宇賀那 話を戻すと、定期的に観返すのは『死霊のはらわた』です。大学の合格発表の日や事務所が決まったときなど、人生のターニングポイントでいつも観ていたのが『死霊のはらわた』(笑)。ただ、うちの母親がホラー映画好きで、誕生日プレゼントで学生のときに『悪魔のいけにえ』のボックスセットをもらったりと、鮮烈な印象と影響を与えているのは『悪魔のいけにえ』なのかな。
――これまでの作品がモントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭やトリノ映画祭、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭など海外映画祭で熱狂的に迎えられていたと聞きます。海外と一括りにはできませんが、日本とはまた違う、各国の受け入れられぶりをどう捉えていますか?
宇賀那 首が回転すると拍手が起こったり、リアクションがダイレクト。逆につまんないと思えば、上映中だろうが皆、出ていく。そのヒリヒリした感じも個人的に楽しいですね。

『悪魔がはらわたでいけにえで私』の主演・詩歩が宇宙人オレンジを演じる

――あらためて、最新作についておうかがいします。まず、制作経緯について。2022年の短編『モジャ』を拡張した作品ということですが。
宇賀那 『モジャ』を撮ったきっかけは『転がるビー玉』のあとに何か一緒にやりましょうと『NYLON JAPAN(ナイロンジャパン)』さん側と話をしていて。最初は『転がるビー玉』的な映画を企画していたんです。ただ、コロナ禍になり、ああいう感じで街を撮る長編は難しくなっていました。それで、感染リスクも踏まえ、まずは短編であること。それから、全世界がコロナ禍の状況で、不条理や滑稽なこと、かなしいことも起こる中、人間ってどういうものなんだろうと。『転がるビー玉』は街に生きる女の子たちを映していき、それを見つめる”視線”の映画でしたが、それと同じく見つめ続ける映画を撮りたいと。人間じゃない対象物から見つめたほうが人間が浮き彫りになるんじゃないかと思い、『モジャ』を作りました。それをいつか長編化したいと思っていたんです。
――『みーんな、宇宙人。』このタイトルにはどのような意味が?
宇賀那 『異物』や『悪魔がはらわたでいけにえで私』など、種族を超える映画を撮りたいと思っていました。”宇宙人と人間”にすると対立構造になっちゃうんですけど、それぞれ違う生き物だよねということを問うていくと、どちらから見ても宇宙人だし、それぞれ別個の種です。別でいいんだよねと肯定的に受け止められるタイトルにしたかった。
――宇賀那監督の作品は日常の中に異形の存在が入り込むというか、人間たちと自然に同居している世界観が特徴的です。
宇賀那 不可解なことがもうすでに隣にある時代な気がしています。こういった描き方が、僕がいまやりたいテーマと手法に一番リンクするのかなと。
――そういった異形と人間を描いた作品でお好きなもの、影響を受けたものはありますか?
宇賀那 『バスケット・ケース』とか好きですね。
――いいですね。近しいものでは『悪魔の赤ちゃん』も異形の哀しみが描かれていました。
宇賀那 最後、暗闇の中を大量の悪魔の赤ちゃんが歩いていくところがなんともいえない気持ちになります。

悩みを抱えるミサト(演:菊地姫奈)も宇宙人との交流を通して変わっていく

――今回、過去作以上に音楽の使い方が非常にバラエティに富んでいるというか、音楽が饒舌に物語や登場人物の思いを語っているようでした。
宇賀那 エンターテインメントにしたくて、ミュージカル的に皆で歌ったり、フリースタイルのラップなどを入れ込みました。(劇中で歌ってもいる)笹口騒音オーケストラさんの曲が元々好きで、彼らはポップな曲調にわりとシニカルなメッセージをのせている。今回、ポップなモジャたちにシニカルなメッセージをのせていく上で、そこの毒の盛り具合のバランス調整が難しかったです。
――役者の方々が皆、魅力的でした。
宇賀那 (セイヤ役の)兵頭功海くんは過去の『Love Will Tear Us Apart』でも一緒にやっていて、またご一緒したいと思っていました。彼自身は二枚目だけど、自分に自信がなくて三枚目だと思っているようなキャラクターを演じてもらい、その中での繊細さみたいなものは、兵頭くんと話し合って作っていきました。

「オレオレありがとう」電話をかけ続けるセイヤ(演:兵頭功海)

――過去作を含め、異形のものたちの手触りを感じさせる異物感がたまりません。アナログ特撮へのこだわりはございますか。
宇賀那 自分が観てきた好きなホラーが実際に血の吹き出しをやったり、本当にクリーチャーがその場にいたりと、そこは重要だと思っています。リアルの造型は大変ですが、できるだけやっていきたい。
――もし、宇宙生物たちの中でどれかひとり(一匹?)、自分の前に現れてくれるとしたらどれがいいですか?
宇賀那 ベタかもしれないけど、ミントですね。話を聞いて、受け入れてくれる。それでいて実は主張が結構強い。ミントに関しては、自分が言ってほしい台詞を言わせているんだろうなと。自分が投影されていると同時に、居てほしい。
――本作では侵略や戦争もテーマに込められています。昨年、反戦映画『愚鈍の微笑み』を作られ、『悪魔がはらわたでいけにえで私』でも戦争や対立が描かれています。どちらにもロシアとウクライナの戦争の影響が見て取れました。そこは『みーんな、宇宙人。』でも反映された要素でしょうか。
宇賀那 強く取り入れなければと思っているわけではないんですけど、そのときに脚本を書いたり演出をしていく中で、どうしても思っていることが入ってきてしまいます。最近はありがたいことに、いいペースで撮らせていただいていて、そのとき自分が感じていることをできるだけ組み込みたい。映画は撮った時期から完成まで時差が出てきてしまいますが、その鮮度を保ちつつやっていきたいと常に意識しています。

宇賀那監督の思いを代弁するかのような宇宙人ミント

――最後にメッセージがありましたら。
宇賀那 見た目はかわいい映画ですけど、その中にはシニカルなメッセージも入っています。かわいいビジュアルだと逆に敬遠する方も一定数いるといらっしゃるとは思いますが、最初に想像しているものとは違う映画になっています。ぜひ劇場でご覧ください!【本文敬称略】

『みーんな、宇宙人。』
2024年6月7日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿他、全国公開
監督:宇賀那健一/プロデューサー:戸川貴詞/出演:菊地姫奈、西垣匠、三原羽衣、草川拓弥、YU、兵頭功海 ほか/製作:カエルム株式会社/制作:株式会社Vandalism/16:9/カラー/5.1ch/DCP/93分/配給:エクストリーム ©CAELUM

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