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「第2回日本ホラー映画大賞」ルポ。心霊、スラッシャー、未知との遭遇、不条理コメディなど多様なホラー映画が集い、受賞者たちが喜びを語った

 ホラー映画のフィルムコンペティション「第2回日本ホラー映画大賞」の授賞式と受賞作品上映会が2023年1月21日、東京・EJアニメシアター新宿で開催された。選考委員長の清水崇をはじめ、選考委員のFROGMAN、堀未央奈、小出祐介、宇野維正、そして今年あらたに選考委員となった、ゆりやんレトリィバァが登壇し、各受賞者を表彰した。

 タイトル写真。手前が各受賞者たち。奥は選考委員たち。

「日本ホラー映画大賞」は、プロ、アマチュア、年齢、性別、国籍の制限なく、またジャンルに縛られることのない広義な意味での”ホラー”映画を募るコンペティション。実写は3分~90分程度、アニメーションは10秒~30分程度の、どちらも未発表・完全オリジナル新作であることが条件。いわゆるJホラー的な心霊系が多かった第1回に比べ、殺人ものや心理ホラー、不条理コメディ作品までもが並ぶ多彩な受賞作品の数々となった。
 はじめに発表されたのは、豆魚雷賞に選ばれた『絶叫する家』。監督の比嘉光太郎は、現役の映画美学校生で、映画づくりだけではなく、UFO目撃談の収集にも情熱を燃やす人物。映画美学校初等科25期の修了制作『戦慄の受胎告知』は、教会に通う熱心な信者夫婦の妻が、妊娠中に突然、神からのメッセージを受け取ったと主張し始めたことから巻き起こる騒動を描いた本格オカルトスリラーだった(昨年、東京・アテネフランセで開催された、映画美学校初等科セレクションで一般向けにも上映)。今回の『絶叫する家』ではゴーストハウスものに挑んだ。一見すると普通の一戸建て住宅だが、階段を上がった先、不自然な場所に設けられた小さな扉がオカルト好きの心をつかむ。住宅の利便性を考えれば異様としか思えないその扉は、実在の幽霊屋敷として有名なウィンチェスター・ミステリー・ハウスを想起させる。比嘉は撮影場所となった家について「大変なことがあり、いろんなことがあった末に見つかった」と多くを語らなかったが、「スタッフが寝込んだりと、これは家がヤバいんじゃないか」と恐怖のエピソードを交えながら、撮影当時のことを振り返った。「最初はUFOを題材にしようと考えていたんですけど、まだ技量が足りないということで、まずはこういう地に足の着いたところから」と定番の心霊ものに取り組んだ理由を説明しつつ、「オカルトやUFOであったり、圧倒的な未知の何かにぶつけられて、なす術もなくなってしまうような映画を撮っていきます」とスケールの大きな超常現象ものを手掛ける野望を力強く語った。
 今年から新設されたのが、ホラーちゃんねる賞。監督にフォーカスされがちな映画コンペティションにおいて、俳優にフィーチャーする賞という視点で選ばれたのが『彼は僕だったかもしれない』(ヤマモトケンジ監督)に出演した二色冬香。「第9回日本制服アワード」CMNOW賞を受賞した経歴のある現在15歳の彼女が演じたのは、自殺志願者の少女。集団自殺をするために集まった3人の男女が赴く死への旅路を全編カメラ主観のPOV撮影で描いた作品の中で、最もミステリアスな人物を演じた。劇中で見せるキャラクターの変貌ぶりは、本作が初演技とは思えない堂々たるもので、見る者を驚かせる。二色は「このような舞台に登壇させていただくのは人生初めてで、今回の映画の撮影で演技自体も初めてなので、すごく緊張してて震えが止まらないんです」と緊張した様子を見せながらも、スタッフや共演者への感謝の言葉を述べ、最後はしっかりとした口調で受賞の喜びを口にした。選考委員の堀未央奈と並んでいたとき、堀が二色の体に優しく手を添えて、緊張をほぐそうとしていたように見えたのが印象的だった。
 アニメ部門賞は、奥田悠介監督の『学校が嫌いだ』が受賞。台詞のない、詩的で死の匂いが充満したイメージがパノラマのように展開するメッセージ性の強い作品。絵柄や演出は異なるが、原田浩の『二度と目覚めぬ子守唄』(1985)を思わせる情念のアニメーションが大スクリーンに映し出された。FROGMANは「アニメでホラーはすごく難しいんですよね。僕もホラー作品、アニメでちょこちょこやってるんですけど、やっぱり実写に比べてアニメは全部描かなきゃいけないですし、怖いキャラを作ったところで実写に比べて気味悪さが伝わらない」とアニメにおけるホラーの難しさに言及しつつ、「今回の作品、12分という長い尺で強烈なメッセージが、詩のように一つひとつ画を刻んでいくパワーに圧倒されて、心に残る。このメッセージが強烈で、今回選ぶに至りました」と選評。マイクの前に立った奥田は心を落ち着かせるように少しの間をおいてから、自身の気持ちを口にする。「本当に何にもできないんですよ。学校とかでも勉強もスポーツも何にもできなくて。スクールカーストの上位連中から後ろ指さされて笑われて。気持ち悪がられたり、いろんなことを揶揄されたり。でも、いつか僕のこういった、悔しいこととか、悲しいこととかを全部ヘドロみたいに丸めて、バカにしてきたやつらに、いつか”ざまあみろ”と言ってぶつけてやろうと。今日がやっとその日だなと思います」と溜め続けた思いを吐露。続けて、「(賞金の)10万をもらえたので、念願だったプレステ5を買おうと思います」と観客を笑わせつつ、「そして最後に、わたくしの夢を否定せずに温かく見守って、今でも背中を押してくれる両親に心から感謝したいと思います」と述べ、客席からは万雷の拍手が沸き起こった。
 審査員特別賞が授与された川上颯太監督の『いい人生』は、精神の不安定な女の内面を深くえぐる心理ホラー。繰り返される血と刃物のイメージは幻覚と幻聴にさいなまれる男の狂気の世界を描いたアメリカ映画『クリーン、シェーブン』(1996)に通じるものがある。ゆりやんレトリィバァは「この作品は想像を超えた怖さを感じることができました。イメージしているような画面ではないところから何か出てきたりとか、皆が審査の途中に口をそろえて”斬新だ”ということを仰っていて。この賞にピッタリなのはこれしかない」と称賛。川上は「元々、ホラー映画を作るつもりじゃないんです、この映画」と制作経緯を明かす。自分の作りたい映画を撮った結果、周囲からホラーテイストを指摘され、このコンペティションに応募することにしたとのこと。暗く重い作風とは異なり、川上自身は非常にノリのいい人物で、ジョークを飛ばしながら受賞コメントをし、最後にはゆりやんが川上を巻き込んで披露したネタも臆することなく受け止め、場内を沸かせていた。

選考委員のゆりやんレトリィバァと、審査員特別賞を受賞した川上颯太監督

 大賞に輝いたのは、近藤亮太監督の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』。かつて行方不明になった男児の最後の姿が収められたビデオテープ。残された家族がビデオにいざなわれて闇の世界へ引きずり込まれていく恐怖の物語だ。選考委員長の清水は、対抗馬があったことを明かしつつも「突出したものがある」と評した本作を大賞に選んだ。近藤は「昨年もMOVIE WALKER PRESS賞をいただきまして。そのときは事前に結果が分かった状態だったので、気持ちの準備ができていたんですけど、今年は当日、今この場で知らされて、頭が真っ白になって……」と驚きを隠せない様子。「5年くらい映画を撮るのから離れていたんですけど、日本ホラー映画大賞ができたのを知り、映画を作るのをまた始め、去年、賞をいただいて。それで、自分の中で目標ができて。第2回では大賞を獲ろうという気持ちでこの映画を作ったので、実際こうして大賞をいただくことができ嬉しく思います」と喜びを語り、「多くの人を巻き込んで、たくさん迷惑もかけて、北海道にいる両親にもかなり迷惑と心配をかけていたりするので、一刻も早くこの結果を伝えたいという気持ちでいます」と両親への感謝の言葉を述べた。

(左から)宇野維正、小出祐介、堀未央奈、大賞を受賞した近藤勇太監督、清水崇、ゆりやんレトリィバァ、FROGMAN

 受賞者の発表後には、第1回の大賞を受賞した『みなに幸あれ』(下津勇太監督)の長編セルフリメイク版の特別映像が先行上映された。本作は現在ポストプロダクション中で、今年、劇場公開が予定されている。
 選考委員たちによる講評会では、応募作品に対する各々の思いが語られた。今回は第2回ということで、前回から続いて応募した監督も多かったという。清水は「二度目にしてはネタが似てないかとか、二度目でこういったこともできると腕を見せてくれたとか、二度出したことがどういう意味合いを持つか」と第2回ならではの視点に言及しつつ、「大賞の近藤監督の作品は群を抜いていたなと思っています」と語った。
 堀は「選考の作品を観る前まで、結構ホラー作品を観なかった期間がありまして。ホラーからちょっと離れた生活をしてたんですけど。真夜中の2時半から選考作品を観始めて、やっぱりホラーってすごく私の生活に必要なものだったんだなと、今回の選考で感じた」と自身にとってホラーがなくてはならない存在であることを再認識したという。

第1回から引き続き選考委員を務めた堀未央奈

 FROGMANはホラーアニメの現状をあらためて語る。「こうするとホラーのアニメは怖くなる、という答えがまだ見出せない中での審査だったので、すごく悩みました。アニメ作品は今回も応募が少なくて。もしかしたら、作っておきながら応募するのをやめた方もいるのかなと。逆にいえば、そこのフィールドは誰も答えを出していないだけに、チャレンジしていただいて、それこそ、清水監督が『呪怨』を世に放ったときみたいな、”これがホラーの答えだ!”みたいな感じのものをこの賞で打ち出せたら」とまだまだ発展途上といえるホラーアニメの今後に期待を寄せた。
 ゆりやんは授賞式の壇上では数々のジョークを飛ばして客席を沸かせたが、選考においては真剣そのものだったそう。「宇野さんから”選考会中はボケないんですね”と言われ、それは非常にホラーでした(笑)」と笑わせつつ、「(応募者は)人生かけて出されているので、ボケて作品を審査することはできない」と審査においては、普段の芸人としての陽気な姿を封印し、応募作品に真摯に向き合っていたことを明かした。
 小出は「昨年と比べると全体的に心霊ものが減ったんですけど、その代わり作品のバリエーションが増えて。技術面でレベルが上がってる作品が多かった」と第1回を踏まえての、第2回の変化に言及し、「3回目もすごい楽しみ」と、さらなる日本ホラー映画の盛り上がりを見据えていた。
 バリエーションの豊かさについては、清水も言及。『FAAAWWW!!!』(鬼木幸治監督)を例にして、「これをホラーって言っていいのかとか。でも、”面白いじゃないですか”とゆりやんさんが推したりとか。ジャンルとしてホラーって何?っていうのまで問われるくらい多岐に渡った」とコメント。
 宇野は『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターの名前を出し、「彼は自分の映画をホラーだと思ってないんですよ。今回も例えば、(審査員特別賞を受賞した)『いい人生』の受賞コメントで、別にホラーを撮るつもりはなかったけども、出来てみたら怖いと言われたから応募したと監督が仰っていて。だから、この賞は”ホラー”と付いているけども、ホラーを撮るぞ!っていう人が半分くらい。残りは撮った映画が怖いからこれに応募するみたいな。そのくらいのバランスになるとより面白いのかな」と分析。この日の司会・進行を務めた奥浜レイラも同調し、「『LAMB/ラム』を撮られたヴァルディミール・ヨハンソン監督もホラーを撮ったつもりはなかったと仰っていて。そういったことで、広がっていくんだなと思います」とあらゆるところからホラーが生まれる土壌が世界的に形成されつつある現状に触れた。

講評会の様子。(左端)奥浜レイラ

 最後に、清水が全応募者に向けてメッセージを送った。「応募してくださった、今日ここに来てない方とか、第一次審査に通らなかった方の中にも、賞がもらえなかった方の中にも、僕ら(審査員が)誰かしら推してる人がいたりしたので、自信を持ってまた続けて、第3回もあれば出していただきたいと思います」
 このコンペティションから、日本ホラー映画を担う新しい才能が多く世に出ていくことを期待したい。

各受賞作品は以下のとおり。

■豆魚雷賞:『絶叫する家』(比嘉光太郎監督)
優れたキャラクターが登場する作品に贈られる賞。人物・怪物などのほか、造形物・アイテムなど、特長を持ったイメージを含む。

■MOVIE WALKER PRESS賞:『笑顔の町』(小泉雄也監督)
映画情報プラットホームならではの視点で、観る者が怖さを「楽しめる」、映画ファンに広く愛される作品を選出。

■オカルト部賞:『The View』(中野滉人監督)
「配信動画で見たい!!短編作品」に贈られる賞。選考・配信は、心霊スポット探索・怪談を体当たりで取材するYouTubeチャンネル『オカルト部』。

■株式会社闇賞:『FAAAWWW!!!』(鬼木幸治監督)
前例のないアプローチに果敢に挑み、新しいホラー体験を与える作品に贈られる賞。

■ニューホープ賞:『NEW GENARATION/新世代』(三重野広帆監督)
”オトナ”になる前の荒削りで、尖った、最新の感性とセンスを持つ原石に対して贈られる賞。

■ホラーちゃんねる賞:『彼は僕だったかもしれない』(ヤマモトケンジ監督)
※俳優賞として、二色冬香が受賞。
記憶に刻まれるような恐怖や狂気の演技を見せてくれた出演俳優に贈られる優秀俳優賞。

■アニメ部門賞:『学校が嫌いだ』(奥田悠介監督)
ホラー・アニメーション分野への斬新なアプローチを観点に選考。

■審査員特別賞:『いい人生』(川上颯太監督)
将来性を感じさせる作品に贈られる賞。

■大賞:『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(近藤亮太監督)
受賞者は、製作委員会による新作長編映画(応募作品のリメイク版または完全オリジナル作品)の監督を手掛けることができる。

【本文敬称略】
(取材・文:後藤健児)

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