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ヤンキー対オカルト! 不良高校生と口裂け女の壮絶な戦いを描く『先生!口裂け女です!』が公開。ナカモトユウ監督のジャンル映画愛とバイク愛が炸裂!

 まだ、貞子も伽耶子も現われる前の時代、その女は日本じゅうを恐怖のどん底に叩き落とした。1970年代後半、都市伝説から生まれた彼女の名は”口裂け女”。耳元まで裂けた口をマスクで覆い隠し、刃物で人間を殺しにかかるその怪人は、映画、小説、漫画、アニメ、ゲームなどの創作物にも様々なカタチで登場し、いまなお多くのクリエイターたちに影響を与え続けている。昭和、平成、令和と時代が移り変わり、メディアが急速な発展を遂げても、彼女は不滅だ。今年も、新たな口裂け女がスクリーンの世界に誕生した。ナカモトユウ監督の『先生!口裂け女です!』が7月7日より、全国公開中だ。
 7月8日、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷での上映後に舞台挨拶が行われ、主人公のタケシ役・木戸大聖、その仲間を演じた上野凱と黒崎レイナ、口裂け女役の屋敷紘子、そしてナカモト監督が登壇。撮影当時のことを懐かしみながら、作品の魅力を語った。

『先生!口裂け女です!』ポスタービジュアル

 ヤンキーぶるが根は気弱な高校生のタケシは、彼を慕う同級生の通称・F1と共に、盗んだ原付を地元の不良軍団に売り、カネを稼いでいた。転校生のアヤカが仲間に加わり、ある夜、三人は寂れたアパートに停めてあった原付を盗みだす。だが、マスク姿の女が、人間とは思えない脚力でタケシたちを追いかけてきた……。
 監督のナカモトユウ(過去作品では「中元雄」名義にて発表)は、自らを”ジャンル映画を愛する男”と公言しており、ジャッキー・チェンに憧れて中学生から映画を撮り始める。映画監督になる夢を叶えるべく地元の広島から上京し、東京俳優・映画&放送専門学校に入学。在学中の2017年に『FUNNY DRIVE』が第20回小津安二郎記念・蓼科高原映画祭に入賞、早くもその才能が評価される。翌年には、『怪しい隣人』が第12回TOHOシネマズ学生映画祭ショートフィルム部門グランプリを受賞。さらに、カナザワ映画祭2018の「期待の新人監督」に応募した、『DEAD COP』と『一文字拳 序章-最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-』でグランプリの快挙。この2作は、ナカモトが敬愛する70~80年代のポリスアクション、カンフー活劇にオマージュを捧げた作品で、単なるパロディではない、怒涛の本格アクションが繰り広げられる熱量の高い作品だ。その後、スラッシャー映画へのオマージュにあふれ、自主制作現場のバックステージものでもある『いけにえマン』と、その続編『はらわたマン』を発表。『はらわたマン』では、映像業界で夢を追うことの厳しさが描かれ、現場を去っていったかつての仲間たちや、ナカモト自身も一度はサラリーマンになってから、本格的に映画監督を志して上京したことに対する思いが込められており、スラッシャー版『フェーム』と言ってもいい傑作だった。商業の現場で活躍するようになってからも、愛するホラーやアクションの要素がふんだんに盛り込まれた作品を連発。そして、『先生!口裂け女です!』で、劇場での長編商業デビューを果たした。

フォトセッションの様子。(左から)屋敷紘子、黒崎レイナ、木戸大聖、上野凱、ナカモトユウ監督

 主人公のタケシ役は、Netflixドラマシリーズ『First Love 初恋』でブレイクし、本作が映画初主演となった木戸大聖。窃盗犯の不良ではあるものの、優しさも持ち合わせ、家族や仲間を大切にする、少年漫画の主人公を思わせる高校生を魅力たっぷりに演じた。仲間のF1役・上野凱と、アヤカ役・黒崎レイナとの三人が織り成す友情物語も作品の軸となっている。

絆で結ばれた三人。本作は青春映画としても楽しめる

 タケシの姉を演じるのは里々佳。高橋洋脚本のNetflixドラマシリーズ『呪怨:呪いの家』では、呪いによって破滅への道を突き進む女性・聖美を、年代ごとに異なるアプローチで演じ分け、振り幅の大きさを見せた。本作では怪異に対して物怖じせず、気弱なタケシを叱咤し、弟を守るためには迫りくる敵に拳を振るう、頼もしい人物を好演。

里々佳が見せる華麗なアクションも見どころ

 また、ナカモト作品の常連、大迫茂生がタケシの父親役で出演。白石晃士監督による伝説のホラーシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』で数々の怪奇現象を追い、口裂け女とも戦ったディレクター・工藤を演じた大迫。そんな彼に、木戸が「都市伝説、信じる?」と聞くシーンに、コワすぎファンは思わずニヤリとしてしまうだろう。本作では、息子へ渡された、ある物がタケシを都市伝説の世界へ誘う。親から子へ、オカルト文化が継承されていくのだ。

タケシを見守る父親を演じた大迫茂生

 そして、この映画のもうひとりの主役でもある口裂け女を演じきったのは、日本を代表するアクション俳優の屋敷紘子。レザーを着込んでバイクにまたがる、恐ろしくもカッコイイ、新たな口裂け女像を体現。集団相手に大立ち回りを演じるバトルシーンでは、武器や格闘を駆使し、口裂け女史上トップクラスの戦闘力でスクリーンを真っ赤に染め上げる。

本作の口裂け女は、ブラックレザーに身を包むワイルドな風貌だ

 舞台挨拶に登壇したナカモトは、制作のきっかけを聞かれ、「本当にあったことをモチーフに」とまさかの回答をするも、すぐに「口裂け女に会ったわけではないんですけど(笑)」と言い添える。映画でも主人公たちが行っていた原付の窃盗事件のことをかつて耳にしたことがあり、そこに都市伝説を絡めて、足が速い口裂け女とバイクとのチェイスを構想したそうだ。また、猛スピードで走る怪人とのチェイスについて、思い入れのある『ターミネーター2』での逃げる主人公たちと追うT-1000の追跡劇からの影響も口にした。
 司会者から、「T-1000ばりにめちゃめちゃ速い」と称賛された屋敷だが、意外や「実はわたし、めちゃめちゃ足が遅いんです!」と明かす。だが、完成した映像では、T-1000と肩を並べるスピードの追跡者が見事な走りを見せていた。
 タケシたちは口裂け女に対抗するため、武器を用意し、策を練る。戦闘に赴く彼らはアクション映画のヒーローよろしく、サングラスをかけてポーズを決める。その勇姿は、『DEAD COP』や『いけにえマン』、『死霊軍団 怒りのDIY』など、過去のナカモト作品のキャラクターたちと重なる。

武装するタケシたち。サングラスはナカモト作品に欠かせないアイテムだ

 劇中、登場するバイクについて、木戸は「今回、僕が乗っている”ゴリラ”というバイクは、この映画のために監督のポケットマネーで」と驚きの事実を明かす。これには客席もざわめいた。ナカモトは「どうしても主人公を乗せたくて。よし、じゃあ買っちゃおう!」と当時の心境を説明。いまはナカモトの家にあり、時々、乗車しているとのこと。さらに、里々佳が乗るバイクもナカモトが普段、乗っている私物だという。
 過去のナカモト作品には、映画マニアがよく登場していたが、本作に出てくるキャラクターは主人公をはじめ、皆バイク好き。バイクはナカモトが映画と同様、心血を注ぐ対象であり、自身の「ナカモトフィルム」のサイト内のブログやyoutubeチャンネルでも、『マッドマックス』のカワサキ・KZ1000や『ウォーキング・デッド』の人気キャラクター・ダリルが乗車していた、ヤマハXJR1200などの愛車を紹介している。

ナカモトがこだわったバイクにも注目

 本作が映画初主演となった木戸だが、脚本を読んだときは「なんだ、この映画は
!?」と面食らったそう。しかし、ナカモトと初対面時に、本作で実現したいことを熱のこもったテンションで説明され、監督の熱に当てられて撮影に臨んだ結果、「自身の単独初主演がこの映画でよかったな」と思うに至ったことを壇上でしみじみ語った。
 映像でどう仕上がるのか不安だったのは上野にとっても同じだった。「どう完成するのか全然、予想できなかった」と言いつつ、「(完成作品を)観て、想像できなかったところのインパクトがすごかった」とコメント。
 これまで、主に70~80年代のジャンル洋画にオマージュを捧げてきたナカモト。本作では、80~90年代に見られた日本の映像作品を意識した画作りに挑戦。劇中のテレビで流れる怪奇番組のタイトルが「あなたの知らない世界」ならぬ「わたしの知らない世界」であるなど、小ネタも楽しい。
 また、こだわりは映像だけではなく、音にも現れている。サングラスの装着や武器を構える際、特撮もののように鳴り響く効果音が耳に残る。音楽についても、時代を意識したそうで、「80年代や90年代のシティポップな感じの音楽を作っていただくようにお願いしました」とナカモトは振り返る。衣装やテロップも「昔っぽくしてみた」と言い、「どことなく懐かしい気分になるように」と意図を説明。

昔懐かしい、昭和・平成テイストも本作の特長

 黒崎は自身の演じたアヤカの役づくりについて、タケシたちとの関係性に言及。「男性、男性、女性っていう、性別は分かれるんですけど、ズッコケ三人組のように男女の壁を感じさせないようにということで、撮影の合間も一緒にいてお話させていただきました」とアヤカを自身に取り込むために行ったアプローチ方法を語った。
 司会者から、怪奇な役のオファー歴について聞かれた屋敷は「めちゃめちゃ演ってるんですよ。なので、ナカモト監督も想像しやすかったのかな」と話す。ナカモトは「屋敷さんしか演じられないキャラだったと本当に思ってます」と言い、この役が当て書きだったことを明かした。
 ナカモトはホラーへの愛も深い。彼がホラー映画に登場する殺人鬼やモンスターに強い思い入れがあることは、過去作を観れば明らか。『いけにえマン』(自身が手掛けた自主映画の中で、一番お気に入りの作品とのこと)のDVD特典に収録されている作品解説でナカモトは「ジェイソン・ボーヒーズやレザーフェイスとかマイケル・マイヤーズ、そういったマスクを着けた怪人が昔からすごい好き」とヒーローにあこがれる少年のように熱く語っていた。スラッシャー映画の殺人鬼や怪奇映画のモンスターを人間から忌み嫌われるだけの単なる悪役として描かず、ギレルモ・デル・トロと同じく、愛ある接し方をしてきたナカモト。本作に登場する口裂け女にも、最大限の敬意と愛情が感じられた。

ナカモトのホラー愛が詰まった口裂け女

 撮影を振り返った屋敷は、集団相手の大バトルより、アパートの二階から飛び降りるシーン(屋敷本人がスタントも担当)の方が大変だったと語る。飛び降りたあと、さらに柵を越えて、疾走する流れのシーンだったため、全身のあらゆる筋肉を使うことになり、「その日の翌日がヤバかった。這いつくばって……」と苦笑い。
 だが、撮影現場ではそんな苦労を顔に出すことはなかったという。黒崎は「12時間以上ずっとぶっ通しでアクションシーンを撮ってらっしゃってて」と心配したが、撮影後、屋敷がまったく疲労を見せる様子がなかったことに驚いたそう。屋敷は「ステキな共演者の前で、しんどいとか言ってられないじゃないですか」とプロの矜持を見せ、壇上の他の面々は尊敬の眼差しでアクション俳優・屋敷紘子を見つめていた。
 最後に、それぞれから観客にメッセージが伝えられる。木戸は「コロナとかもあったときに直接、お客さんの顔を見るとか会う環境がなくなってきてる中で、こういう舞台挨拶の場というのはすごくありがたいなと思いました」と感謝の言葉を述べた。
 黒崎は「撮影は半年前で、こうしてキャストの皆で舞台に上がって、皆さんと直接お会いすることができて本当に心うれしく思います」と今日のこの日を迎えられたことを、満面の笑みで喜んだ。
 上野は「長崎県の五島列島出身なんですけど、自分の家族にいつもは”これ観て”とあまり連絡しないんですよ。でも、この作品は”東京に来てくれ”って言うくらい思い入れのある作品」と心情を吐露。
 屋敷からは、皆で映画を楽しむことのかけがえのなさに対する思いが伝えられる。「なかなか、日本でこういうジャンルムービーを観る機会のなかった皆さんが、こうやって来てくれてるのかなと思うので、これを機に、映画って楽しいな、と思っていただけたりとか、また友達とワイワイ、映画館に行って、いい体験しようっていう時間のきっかけになってくれたらすごくうれしい」と語った。
 最後はナカモトから。「僕は自主映画が長くて、やっと今回が初めて、劇場公開の長編映画。めちゃめちゃ今日はうれしく思っています」と感慨深げに話す。また、客席にはナカモトの次回作を期待する応援メッセージボードを手にした観客がおり、ナカモトはとてもうれしがっていた。それに応えるように「このメンツでまた映画を撮れたら」と希望を口にした。
『先生!口裂け女です!』は、全国公開中。(取材・文:後藤健児)
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