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ジミー・ウォング一周忌の今年、『スカイ・ハイ』が4Kレストア版でBlu-ray化。シネマート新宿での特別上映後、研究家たちによる裏話で盛り上がり、森累珠がヌンチャクさばきを披露!

見出写真:ジミー・ウォングの勇姿を前にして行われたトークショーの様子

『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』や『片腕カンフー対空とぶギロチン』で知られる、”天皇巨星”ことジミー・ウォング。彼が主演を務めた、1975年製作の香港・オーストラリア合作『スカイ・ハイ』は、シドニーを舞台に、香港からやってきた男・ファン警部が暴れまわるアクション映画だ。イギリスのバンド「ジグソー」が歌うテーマソング「スカイ・ハイ」も大ヒットした。犯罪組織の首領役には『女王陛下の007』でジェームズ・ボンドを演じたジョージ・レーゼンビー。監督はブライアン・トレンチャード=スミス。日本では、1976年に東宝東和配給で公開された。
 2022年に他界したジミー・ウォングの一周忌ともなる今年、4Kレストアされた高画質で日本版Blu-rayが発売。これを記念し、東京・シネマート新宿で特別上映が行われ、上映後には、ブルース・リー研究家・ちゃうシンイチーと、香港映画研究家・古山宏明が登壇。作品裏話を展開し、大いに盛り上がった。
 本編上映の前には、スミス監督によるあいさつ動画が流れた。監督によれば、007シリーズに代表される、白人がアジアを舞台に活躍するアクション映画の定石を覆したかったそうで、そこに、正義の名の下に行われる暴力と殺戮の要素も込めたとコメント。日本版Blu-ray制作にあたり、スミス監督は非常に協力的だったという。この日の上映会を知り、あいさつ動画を撮らせてほしいとスミス監督から提案があったそうで、監督の自宅の庭で撮影された。
 上映後トークショーの司会進行は、「マッドマックス・コンベンション」を開催している「マクラウド」の白石知聖。『スカイ・ハイ』日本版Blu-rayのブックレット編集も担当している。
 トークの出だしでは、ちゃうシンイチーが「Blu-rayの帯に”ジミー・ウォングの華麗なアクション”と書かれていますが、全然華麗じゃないですよね、申し訳ございません(笑)」と笑いを誘う。
 それから、2003年11月2日に新宿ミラノ座で開催された、東京ファンタスティック映画祭2003「映画秘宝スペシャル ギロチンまつり」にジミー・ウォングが登壇したときのことを振り返る。「ちょうど20年前、新宿のミラノ座に1300人の観客が集まり、ギロチンまつりが行われました。あのときは大変だったんですよ。新宿にジミー・ウォングが来るというので、ちょっと怖い人たちが来るんじゃないかと、ひと騒動になったりして(笑)」と述懐。この日、シネマート新宿に集まった観客の中にも、あの日、新宿ミラノ座に駆けつけた人たちがいた。20年の時を経て、ジミー・ウォングがつないだ縁だ。

『スカイ・ハイ』トークショーの様子。(左から)ちゃうシンイチー、古山宏明

 『スカイ・ハイ』を語る上で、よく話題になるのが、本作は元々、ブルース・リーのための企画だった、というもの。しかし、これは正しくない。ちゃうシンイチーが明かす。「スミス監督が元々、オーストラリアで香港カンフー映画のドキュメンタリーを撮ってたんです。撮影のため、香港に降り立ったその日にブルース・リーが亡くなった。スミス監督は自分ならブルース・リーでこういう作品を作りたいと『スカイ・ハイ』の原型となるプロットを作っていた。ただ、このプロットをブルース・リーが見たこともなければ、見たとしても、この映画に出ると言ったかはわからない。ブルース・リーのために作ったプロットが一人歩きして、彼が出る予定だったという説が出回ることになった」と語った。
 続けて、ジョージ・レーゼンビーにまつわる真相も明かされた。「二代目007のジョージ・レーゼンビーがブルース・リーの『死亡遊戯』に出演予定だったんです。ただ、前渡しで出演料をもらったまま、ブルース・リーの死によって、出演話が浮いてしまった。プロデューサーのレイモンド・チョウから、”お金を受け取ってるんだから映画に出てください”ということで、打診されたのが『スカイ・ハイ』。では、『死亡遊戯』のどこにジョージ・レーゼンビーが出るはずだったのか。これがブルース・リー側から出てきた資料のどこにも書かれていないんです。僕らは、ブルース・リーがレーゼンビーにオファーをかけたものだとずっと思っていた。今回、当時のレーゼンビーの雑誌インタビューなどから、もう一回紐解いてみました。レーゼンビーが当時、仕事がなくどうしようもなくて、彼が自分からブルース・リーに売り込みに行き、1973年7月16日にレーゼンビーとブルース・リーが出演契約を交わしたんです。この4日後にブルース・リーは死んでしまいます。レーゼンビーからの頼みを聞いたブルース・リーが”お前の出番をつくるから”と、あとから出番を付け加える予定だった」と当時の資料から導いた真相が語られた。
 他にも、『死亡遊戯』と『スカイ・ハイ』には奇妙な縁があるという。「『スカイ・ハイ』に実際には使われなかった『Power』という主題歌があり、今回のBlu-rayの特典として聴けます(デラックス版にサントラCDが付いている)。この歌を歌っている人がピーター・ネルソン。78年公開版『死亡遊戯』で『ドラゴン怒りの鉄拳』や『ドラゴンへの道』を撮影しているシーンがありますよね。あそこで、サングラスをかけたブロンドで長髪の男がいます。”鉄砲は上に向けて撃て”など指示している助監督、あの人がネルソン。そんな結びつきがあるんですよ」と、ちゃうシンイチーが解説した。
『スカイ・ハイ』といえば、大都会の上空を滑空するハングライダーが印象的だ。そこに着目した古山宏明が話しだす。「ハングライダーは70年代からヨーロッパでスポーツとして流行り始めたらしくて。ハングライダーをテーマにしたアクション映画『スカイ・ライダーズ』を20世紀FOXが(1976年に)作ったんですが、『スカイ・ハイ』をカンヌで買い付けて配給したのもFOX。『スカイ・ライダーズ』の主演はジェームズ・コバーンで、音楽はラロ・シフリン。脚本がスタンリー・マン。マンはその後、(ブルース・リーが出演予定だった)『サイレントフルート』の脚本を書く。だから、ブルース・リーに始まり、ブルース・リーに続いていくような」と古山もブルース・リーと『スカイ・ハイ』の連関に言及した。

『スカイ・ハイ』撮影中にジミー・ウォングが事故に遭ったとされる写真

  続いてスクリーンには『スカイ・ハイ』撮影中にジミー・ウォングが事故に遭ったときの写真が映し出された。ここでも、ちゃうシンイチーが真相を明かす。ゴールデン・ハーベストの当時のニュースでは、50メートル上空から乱気流に巻き込まれて落下するも奇跡的に内出血だけで骨折もせずに無事だったと報じられていたという。しかし、スミス監督の回想録によれば、50メートルではなく3メートルだったそうだ。3メートルの位置でハングライダーにつながれ、送風機で風を当てられている状況だったらしい。写真に写るジミー・ウォングは苦悶の表情だが、単につながれていたことで疲弊していただけなのではないかと、ちゃうシンイチーは推察。なお、実際に上空を飛んでいたのは、サモ・ハン・キンポー演じる犯罪者を射殺するヒットマンを演じた、スタント・コーディネーターのグラント・ペイジだという。ただ、劇中で武術センターに登っていくシーンは、スミス監督の回想録によると、ジミー・ウォング自身がこなしたとのこと。

ソーン役のロス・スパイアーズが掲載されたグラビア

 次にスクリーンに映し出されたのは、ジャーナリストのキャロライン・ソーンを演じたロス・スパイアーズが、香港の雑誌に登場したグラビア。ちなみに当時のゴールデン・ハーベストの記事によると、アンジェラ・マオが出演予定だったが、スケジュールの都合でオーストラリアの女優になったとトークショーで語られた(『スカイ・ハイ』には2人の女優がメインキャストで登場するが、マオがどちらの役で想定されていたのかは不明とのこと)。またマオは、レーゼンビーが『スカイ・ハイ』製作の前年に出演した『暗黒街のドラゴン 電撃ストーナー』でヒロインを演じている。

 ジミー・ウォングの自宅

 そして、最後に映し出されたのはジミー・ウォングの自宅。ちゃうシンイチーが状況を説明する。「この時期、ジミーさんは奥さんに逃げられています。ひとりぼっちになった自分の部屋を、マスコミを呼んで撮らせている写真です」と笑いを交えながら解説。続けて、「ジミーさんはその後、コメディ作品の方に路線を変えつつも、再びアクションへ回帰することになります」と語った。
 ここでスペシャルゲストの森累珠が登場。ブルース・リーに憧れ、「ヌンチャクガール」としての活動でも知られる彼女は、俳優業に邁進しつつ、Youtubeチャンネル「るいちゅーぶへの道(THE WAY OF THE RUITUBE)」でブルース・リー映画のアクションシーンの再現に挑戦しており、その完全再現ぶりが絶賛されている。登壇した森は、壇上で華麗なヌンチャクさばきを披露。映画館の壇上でのヌンチャクは、スクリーンを傷つける恐れがあるため、どこの劇場でも断られており、今回が初だそう(念のため、ソフトな素材のヌンチャクを使用)。
 森は『スカイ・ハイ』を観て、「おもしろかったです。ひとつだけ、気になるのは衣装」と言い、劇中でジミー・ウォングが着ていた、ストライプ柄のトレーニングウェアに着目。「(ブルース・リーが出演したテレビドラマの)『復讐の鬼探偵ロングストリート』を意識してるんですかね?」とマニアならではの着眼点に、ちゃうシンイチーも同調。「僕らはそう思いますよね。『スカイ・ハイ』の2年後に『死亡遊戯』が完成するので、その橋渡し的なものもあったんじゃないかな」と最後もブルース・リーで結んだ。【本文敬称略】
(取材・文:後藤健児)

『スカイ・ハイ』ポスターの前でヌンチャクを勇ましく構える森累珠

『スカイ・ハイ 4Kレストア版』Blu-ray(スタンダード版、デラックス版あり)は現在発売中。
発売元:是空/TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント


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