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成果の出るHRデータ分析①【優劣なし】の適性検査を使う

数百社に及ぶ様々なHRデータを分析してきたのですが、多くの会社で最も工数少なく成果につながりやすいHRデータは「適性検査(アセスメント)」だと考えています。

もちろん、個社ごとに分析していくと、より効果的なHRデータも存在することもあるのですが、分析をしても成果につながる場合とつながらない場合がわかれるデータも多いため、1つだけ広くお薦めするのであれば「適性検査(アセスメント)」が最適です。

成果を出すためのHRデータ分析の具体的な進め方」の記事で紹介した通り、【活躍・定着人材を増やす × パーソナリティデータ(適性検査)】が、「定量化のしやすさ」「分析のしやすさ」「打ち手のうちやすさ」を加味したときに、最もおすすめできる方法だと感じています。

一方で、50年以上の歴史がある適性検査ですが、実は多くの適性検査が、「入社後活躍・定着を予測できない」アセスメントになってしまっている現実があります。

今回は、適性検査の正しい選び方と効果的な活用方法を紹介します。


適性検査には大きく分けて3つの種類がある

私が調べたところ、現在日本で150種類以上の適性検査・アセスメントが存在していますが、【学力】【性格(優劣あり)】【性格(優劣なし)】の大きく3つに分けられると考えています。

「学力」については別記事にて、成果につながりやすい活用方法を解説することにし、今回は「性格」について深ぼります。

「性格」については、適性検査の種類によっては、「価値観」「資質」「コンピテンシー」「パーソナリティ」などの呼び方がありますが、表現は違えどほぼ同じモノを測定しているため、ここでは大きく「性格」と呼ぶことにします。

「性格」には、弊社独自の呼び方になりますが【優劣あり】と【優劣なし】の2種類があります。【性格(優劣あり)】は、「リーダーシップ」や「ストレス耐性」のように、最終的なスコアに“優劣(よい/悪い)”があり、「スコアが高い/低いとよい人材である」ということがわかるような項目です。逆に【性格(優劣なし)】は、「外向-内向」「拡散-保全」のように、結果には“優劣”がなく、あくまでその人の考え方を定量化する項目です。


【性格(優劣あり)】と入社後活躍・定着の関係

現在提供されている適性検査のほとんどが、「リーダーシップ」や「ストレス耐性」に代表される【優劣あり】の項目を使っています。【優劣あり】の項目は、すぐに理解しやすく、例えば
・「リーダーシップ」のスコアが高ければ採用する
・「ストレス耐性」のスコアが低ければ不採用にする
という形で、採用判断に使われています。

一方、適性検査を利用している企業の多くが、「本当に使っている適性検査のスコアが、入社後活躍・定着に関係性があるか確認していない」というデータがあります。

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弊社では多くの企業で、適性検査のスコアと、入社後の活躍の関係性を調べてきました。以下に、いくつかの例を紹介します。

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一般的には「リーダーシップ」のスコアが高いほうが、活躍しやすい」と言われています。一方、この会社で実際に入社後に活躍した人/活躍していない人と、入社前の適性検査のリーダーシップのスコアを比較すると、「実は、活躍している人(ハイパフォーマー)のほうが、リーダーシップのスコアが低い」ということがわかりました。

また早期離職予防のために「ストレス耐性」を見られている企業も多いのではないかと感じています。別の企業で、「ストレス耐性」のスコアと、退職者/在職者の関係性を調べた結果が以下です。

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こちらも一般的には「ストレス耐性が高ければ、退職しにくい」と言われていますが、この企業で実際に分析してみると「退職者は“むしろ”ストレス耐性が高い」ということがわかりました。

この企業では、早期離職者を減らすために適性検査を導入し、ストレス耐性が高い人を採用していたのですが、むしろ「退職しやすい人をより採用していた」という状況になってしまっていました。


一例として取り上げましたが、実は上記の状況は、多くの企業で起きています。

【優劣あり】のテストでは、最終的に必ず「よい/悪いの点数」がつくため、「ある選択肢を選ぶと点数があがり、別のある選択肢を選ぶと点数が下がる」という構造に必ずなります。そのため応募者からすれば「点数が上がる選択肢を選べば、意図的に点数を高めることができる」ため、「【優劣あり】のテストはごまかせる」状態になっています。

もちろん、適性検査を作成する立場としては「質問内容を工夫して、応募者がごまかせないようにする」のですが、「構造上に、ごまかせてしまうという欠陥」がある以上、「質問内容」を工夫したとしても、応募者はごまかせてしまう現状があります。(事実として、「リーダーシップ」や「ストレス耐性」のような【優劣あり】のスコアと、活躍・定着が関係ない、という結果になります。)

もちろん、会社や応募者の状況によって「【優劣あり】のスコアが高ければ、ハイパフォーマーになりやすい」という状況になる場合もあるのですが、多くの会社で【優劣あり】のスコアと、入社後活躍・定着は関係ない」という結果が出ることが多いです。


【性格(優劣あり)】が入社後活躍と関係するパターン

一方、優劣ありの適性検査のスコアが、そのまま入社後のパフォーマンスと関係性がある場合ももちろんあります。

ただし、以下のような特殊な環境でないかは、注意が必要です。

1.従業員として【優劣あり】の診断をうける

上述の通り、「応募者として受験する」場合には、「応募者は採用されたいと思ってごまかす」ため、【優劣あり】のテストと、入社後活躍・定着が関係ないことがほとんどです。

一方、「従業員として受験する」場合には、「従業員はごまかすメリットがない」ため、【優劣あり】のテストとパフォーマンスに関係性が出ることがあります。

これが原因で起こる意思決定の間違いとして、「①従業員で適性検査を受診し、【優劣あり】のスコアと活躍・定着に差がみられた」→「② 応募者にそのまま適性検査を受検させているが、応募者時点のスコアと、入社後の活躍・定着の関係性は分析していない」→「③③ 結果、活躍・定着しない人ばかりを採用してしまっている」というミスがあるため、注意が必要です。


2.応募者が深く考えずに受ける(アルバイト採用など)

「応募者がごまかそうとしない」場合には、【優劣あり】のテストでも、入社後活躍・定着に差が出ることがわかっています。

例えば、過去の例では、アルバイト採用で【優劣あり】の適性検査を使った場合に、正しく入社後活躍・定着を見極められている例がありました。

本ケースでは、「応募者がごまかそうとしていない」ため、正しく優劣ありの適性検査で見極めができているので問題ないのですが、「応募者がごまかす可能性がある」場合には、必ず「自社の環境において、応募者としてのスコアと、入社後活躍が関係しているか」を確認することが重要です。


3.平均に統計的有意差があるが、活躍・定着人材は採用できない

「統計的有意差がある」と聞くと、その指標に意味があるような感覚を持ってしまうことも多いですが、実は「成果にはつながらない」場合も多く存在しています。

適性検査の結果と入社後活躍に統計的有意差があっても、実運用上では意味がない場合(=ハイパフォーマーがリーダーシップのスコアが統計的有意に高くても、リーダーシップのスコアが高い人を採用しても、ほとんどハイパフォーマーにならない)もあるため、「本当に活躍・定着人材が増えるのか?」を確認する必要があります


適性検査は【性格(優劣なし)】を使わないと応募者がごまかせてしまう

【優劣あり】の適性検査については、もちろんうまく予測ができている場合もあるのですが、多くのケースで、入社後活躍・定着を正しく予測できていないため、データ分析の観点でお薦めできるのは【優劣なし】の適性検査です。

ただし、【優劣なし】の適性検査についても、「正しく活用」しないと、入社後活躍・定着を予測できないことがわかっています。

【優劣なし】の適性検査を用いて、正しい採用・配置基準を作るためには「ハイロー分析」が重要になるので、分析手法については、次の記事で紹介します。


「性格」の【優劣あり】と【優劣なし】の見分け方

適性検査を導入されている、また導入を検討されている方のために、適性検査(性格)における【優劣あり】と【優劣なし】の見分け方を紹介します。


【優劣あり】のテストの特徴
1.結果に「ストレス耐性」や「○○力」のような指標がある
2.質問が「はい/いいえ」「あてはまる/あてはまらない」で回答させる
 ※「優劣なし」の検査の多くは「Aに近い/Bに近い」で回答させる
3.設問文を読んで、「明らかにこちらの答えが正しい」という内容がある

※もし個別の適性検査が【優劣あり】なのか【優劣なし】なのか、気になられる場合には、別途ご連絡をいただければコメントさせていただきます。

適性検査によっては【優劣あり】と【優劣なし】の項目が混ざっているテストもあります。(この場合、【優劣なし】の項目だけを抽出して、分析を行えば、入社後活躍・定着の予測精度を高めることは可能ですが、一定のデータ分析技術が必要になるため、もし新しく導入される場合には【優劣なし】で設計されているテストをお薦めしています。)

(蛇足)適性検査に関するよくある質問

第三者が評価するアセスメントについて

【優劣あり】の適性検査でも、「自己回答」(=自分で選択肢を選んで回答する)ではなく、「第三者評価」(=他人が対象者を評価する)であれば、適切に見極められるのでは?というご質問をいただきます。

結論としては「第三者評価で、対象者の入社後活躍・定着を正しく予測することは非常に難しい」と考えています。

理由としては以下の3つです。

1.「第三者」が正しく評価することは極めて難しい

人事考課をしたことがある人なら想像つくかと思いますが、評価に慣れた人で、日々一緒に仕事をしていても、正しく評価することは非常に難しいと考えています。

2.「第三者」の評価の“甘辛”を調整できない

1人の「第三者」が全員を評価する形であれば問題ないですが、たとえば「Aさん」が「Xさん」に【3点】、「Bさん」が「Yさん」に【5点】をつけた場合、「Aさんの3点」と「Bさんの5点」はどちらが上か、判断が難しいです。(「Aさん」は辛口評価で、平均1点のところ3点つけており、「Bさん」は甘口評価で全員に5点をつけている可能性もあります)

3.1と2をクリアして実施しようとすると費用対効果に問題がでる

1と2の課題をクリアするためには「評価スキルの高い第三者」が「複数の人を公平に評価する」必要があります。実際にこのようなアセスメントを提供している会社もあり、この方法であれば、一定見極め精度を高められる可能性がありますが、1人当たりのコストとアセスメントに必要な時間が長く、費用対効果を考える必要が出てきます。
※この方法は「外部の専門家が面接する」形に近づいていきますが、「感覚人事の勘違い① 面接で見極めができている」のように、ヒトの面接の精度は非常に低いことがわかっているため、本当に外部の専門家が正しいアセスメントができているかも確認する必要があります。

上記より「第三者評価」の形のアセスメントよりも、「自己回答」×「優劣なし」の適性検査のほうが、工数対効果が高いと考えています。


【信頼性】スコアについて

適性検査の話をすると。「テストの信頼性はどうなのか?」という質問を受けることがよくあります。アセスメントに対する「信頼性」という単語の意味として、以下の2パターンがあると感じています。

①アセスメント自体の信頼性
②回答者が回答した結果の信頼性

一般的な適性検査では「②回答者が回答した結果の信頼性」(=ごまかしていないか)として「信頼性」という項目を記載していることが多いのですが、「ごまかしていないか」の判定基準としては、「回答結果に不整合がないか」を確認している適性検査がほとんどです。

一方、私が分析してきた結果、この「信頼性(回答結果に不整合がないか)」の項目と「入社後活躍・定着」には、ほぼ関係性がないということがわかっています。
※ハイパフォーマーは細かいことを気にしていない場合や、むしろ言葉の機微に敏感で、「回答結果に不整合」に見える回答をすることもあるためと考えています。

適性検査の目的は「入社後活躍・定着を見極めること」だとすると、「信頼性がどうか?」よりも、直接「適性検査のスコアが入社後活躍・定着と関係があるか」を調べたほうが、意味があると個人的には考えているため「信頼性」のスコアについては、(入社後活躍・定着と関係ない場合がほとんどなので)確認する必要がないと考えています。

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