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HRデータ活用で社員に働きやすい環境を!パーソルグループのピープルアナリティクスへの取り組みをインタビュー

「はたらいて、笑おう。」をグループのビジョンに掲げ、多様な人材関連サービスを提供するパーソルグループ。従業員数5万人を超えるパーソルグループ全体の人事機能を担っているパーソルホールティングスのグループ人事本部において、HRデータの利活用を推進するのが、2020年4月に新設された人事データ戦略室。長年にわたるデータ活用の取り組みを経て、人事データ戦略室では「人事データやテクノロジーを活用して、社員が活躍できる就業環境の実現」をミッションに掲げ、活動を進めています。今回は室で実際にデータ活用に取り組む藤澤さんに、パーソルグループにおけるHRデータ利活用の現状の取り組みや、人事領域でデータ分析を行うにあたり、成果を出すために大事なポイントを伺いました。

情報提供してくれる社員に還元することが第一

ーー「人事データ戦略室」が生まれた背景を教えてください。

パーソルホールディングス社では、2015年からHRデータ分析の取り組みをスタートしており、私は2017年からチームに参画しています。これまでも様々な試行錯誤を続けてきましたが、データを分析するだけではなくデータ取得や蓄積までを役割として担うことで成果がより出始め、2019年に改めてデータの利活用が人事の重要戦略と位置づけられ、2020年に人事データ戦略室が誕生しました。現在は対応範囲やチームメンバーも増えている状況です。

HRデータを扱うチームとして活動するにあたり、「データやテクノロジーによって、社員がより活躍できる環境を実現する」というミッションを掲げています。そのため、経営の意思決定のサポートというよりも、社員目線での取り組みをしていることが特徴的だと考えています。

ーー社員目線のミッションはどのように生まれたのでしょうか?

2015年の開始直後は「溜まっているデータを分析してみよう」というところからスタートしたと聞いています。一方、取り組みを進めていく中で「人事が意思決定するために必要な情報を提供してくれているのは社員である」ということに改めて意識しなおしたんですよね。

そこで、まずは情報提供してくれる社員に、データ分析で得られたことを還元すべきだと考えました。それからは、社員がより働きやすくなるように、経営や人事が意思決定できるよう貢献していこうという意識で活動しています。

そのため、例えば仮に「社員の退職を促すために分析を促してほしい」というような依頼が来たとしても、それは私たちの方針と逆行する在り方だと考えています。私たちは今活躍できていない社員がいたとしても、その社員の活躍を支援するようなデータ活用を推進していきたいと強く思います。

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アッテルを使って専門的な分析知識を外部から補足

ーーアッテルのサービスはどのようにご活用いただけましたか?

アッテルの塚本さんには、2018~2019年にデータ分析で試行錯誤している段階でコンサルティングを行っていただきました。分析への知見がありソリューション技術もレベルが高いため、決められた分析業務というよりも、蓄積したデータを基に仮説構築をしたり、幅広い探索的なテーマへの分析をお願いしていました。

例えば、社内のアセスメントデータを分析して、属性ごとの社員の活躍パターンを調べたり、上司と部下の相性の可視化を行ってもらいました。また自社で構築した試験的な予測モデルが、本当に正しく使えるものになっているのか、予測モデルのリスク確認もお願いしました。

結果、今ではその予測モデルは活用を再検討するという結論になっているのですが、不透明なデータは活用を見直すという専門的な知見からのアドバイスは、当時の我々にとっては心強かったです。少人数のチームだと、分析の専門家を確保するのは難しかったので、アッテルのコンサルティングには助けられました。

社員のためにデータを使って経営の意思決定を促す

ーー直近の取り組みでうまくいっている事例はありますか?

社員意識調査などの社員からの声を集計したデータを、統計分析やテキストマイニングなどで可視化した事例はうまくいっていますね。単純な情報の整理ではあるのですが、どこに課題があり、グループ各社の経営としてどのような打ち手を打つべきか、示唆を生み出すことができました。

結果として、実際に課題を改善するためのプロジェクトが立ち上がり全社で取り組んでいるグループ会社もあります。データが経営の意思決定に使われて、かつ社員のためになっている非常に良い例だと思います。

ーー分析で終わってしまう事例も多い中、うまくいったポイントは何だと思われますか?

データを使って見えてきた結果に対し、しっかりと「議論」できたことがポイントだと思います。データ分析をすると、現状を把握しただけで改善策を挙げないまま終わってしまいがちですが、結果に対し各社人事の課題を導き出してコミュニケーションを取ることで、改善策が出てきたことはよかったですね。

人事データ戦略室では、各社人事の方が、経営や社員向けにやるべきことをプレゼンするところまでサポートしているので、我々もデータをただ出すだけの位置付けではなく、コンサルタント領域まで踏み込んでいるかなと思います。

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データを使ったレコメンド機能で新しいキャリアパスを社員に提案

ーーデータを活用することで社員に還元できたような事例はありますか?

直近では、社員個人に向いている研修やキャリアパスに関するレコメンドの分析を進めています。

例えば、グループ各社が社内募集しているポジションのジョブディスクリプションを分析し、業務内容が似ているポジションを定量的に紐づけています。これを行うことで、他のポジションへの応募を考えている社員がいた時に、自分が応募しようとしていたポジションと似ているポジションのレコメンドができるようになるんですね。そうすることで、社員自身から見えている範囲だけでなく、他にもあり得る可能性をデータで拾い上げてレコメンドしてあげることができるようになります。

この取り組みのよい点は、データ分析によって人間では気づけないキャリアパスの可能性もレコメンド機能によって提示してあげられるようになっていることです。今後クリアしなければならない論点も多いですが、検証段階でも成果が出てきており、今後の展開として社内でも期待が高まっていると感じています。

成果につなげるために、高度な分析よりも人事担当者のスキルアップを重視

ーー反対に難しいと感じている部分はどんなところでしょうか?

予測モデルの構築や運用は難しいと思います。専門的なタレントに入ってもらい、しっかりと中身のロジックを把握した上で予測モデルを意思決定に使うことができれば良いのですが、アルゴリズムや活用上のリスクについて理解が不十分な人事だけで、予測モデルを組み立ててしまうのは懸念がありますね。

AIをそのまま使ってしまうとブラックボックス化し、自分たちの言葉で説明できなくなってしまうので、運用にのせたり周囲の理解を得ることが難しくなると感じています。そのため今は予測モデルの構築より、データの可視化や物事の要因や理由を明らかにするような分析に重点を置いて注力しています。

実際の運用面を考えると、初歩的な内容でよいので、グループ各社の人事がデータへの理解をより深めていくことのほうが重要ですね。直近ではいろいろなHR Techサービスがでていますが、正直、玉石混交だとも感じており、それぞれの人事がテクノロジーやデータを正しく活用できるようにサポートすることが喫緊の課題になっていると考えています。

現在の大きな新しい取り組みの1つとして、人事向けのデータ活用リテラシー向上のための教育パッケージ作成企画を進めています。やはり成果を出すためには、現場に一番近い人事がデータ分析の結果を正しく理解し、それを打ち手につなげられることがとても重要だと考えているからです。

成果だけではなく、個人情報の取り扱いなどの注意点もインプットできる内容になっています。このパッケージの開発もアッテル塚本さんに助言いただいたことで、専門性の高いものが提供できるようになっているとも思います。

ーー将来的に人事の情報リテラシーが向上すると、高度な分析は使われるようになるのでしょうか?

予測モデルはデメリットばかりではないので、段階的に使われるようになっていくのではないかなとは思います。たとえば、社員が自分でも気づかないような不調を未然に見つけてフォローできれば、社員にとってもメリットがあるように活用できると思います。

予測結果の提供や社員のフォローをする人事が、予測モデルの導入背景や社員にデメリット・気持ち悪さがないかを正しく説明できる形で活用ができれば、社員とも良いコミュニケーションが取れるのではないでしょうか。なので、今後の展開として予測モデルの活用も広がっていく可能性はあると思います。

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データ分析をして終わりではなく、結果に対して議論して解釈する

ーーデータ分析や活用をする上で、どんなところがポイントであると考えられますか?

データ分析においては、分析の前行程と後行程がとても大事だと考えています。どうしても「分析」に注目が集まりがちで、データが溜まっているから、なんとなく分析してみようとしている方も結構多いのではないかと感じています。

我々のデータ分析もそのような出発点でしたが、「分析」だけを組織の機能として限定すると、どうしてもできることに限界がありました。社員や組織に関わるデータは、今あるモノだけではなく、しっかりと設計されたうえで新しいデータを収集し、それを整理された形で蓄積していかないと、意味のある分析までたどり着かないと思っています。

そうした課題認識もあり私たちの組織は、分析する人でなく、データを収集する人と管理する人をきちんと配置するようにしています。これが前工程部分の気づきです。

後工程としては先ほども触れたのですが、分析結果に対してどのように周囲とコミュニケーションを取って打ち手に落としこんでいくのか、きちんと戦略を立てられないとデータは使われないんだと実感していますね。分析結果を出して終わりではなく、なぜそのような結果がでたのかを、様々なステークホルダーを巻き込んで議論していく。議論していくことで新たな観点がうまれ、よりよい分析につながっていきます。

ひとえにデータ分析と言っても前後に色々なプロセスがあり、むしろ前後のプロセスがしっかりしていないと、中長期的な成果にはつながりにくいのではと考えています。

ーーデータ分析を打ち手に繋げて、成果を出すためのポイントはなんだと思いますか?

データ分析で傾向が見えた時に、その結果をどう解釈するかが非常に重要ですね。

例えば、あるスコアが下がっているときにその要因を考えるのですが、実はそれが会社の統廃合や世間の動きなど外部の影響だったりするんですよね。そのため正しい解釈をするためには、きちんとした分析結果を出すことはもちろん、分析結果が生まれた背景であるドメインの知識、すなわち会社の歴史・状況あるいは世の中の状況を、分析担当者が誰よりも詳しく理解していることが必要です。この結果にはこんなバイアスがかかっている可能性がありますと言えるようになった上で、現場の人事とディスカッションできないと誤った意思決定を招く危険もあると思います。

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実施内容や成果について、説明責任を果たしていくことも重要

ーーそのほかに分析をする上で気をつけているのはどんな部分ですか?

気をつけているポイントとしては3つあります。

1つめは、プロジェクトが終わった後に、必ず関係者にヒアリングをすること。データがどのように役に立ったのか、どれくらいの効果が出たのかなどをうかがい記録するようにしていて、データ分析で出た成果をしっかりと見える化しておくことにはこだわっていますね。またこれからやりたいと考えていることも聞いて次の分析につながるようにし、チームからの価値提供サイクルが回るようにしています。

2つめは、不透明なことはしないこと。われわれはそのプロジェクトを何のために実行していて、法的な論点をクリアしていることも説明しておけるようになっていなければなりません。個人情報の利活用についても利用目的をきちんと定め、透明性のあることをやっていると社員にも説明できるように意識を持ってやっています。極論ですが、リストラのリスト作成のような、社員にきちんと説明ができなかったり、不利益になったりするようなデータの使い方もしないように話し合い、徹底しています。

3つめはデータを提供してくれた方にフィードバックをすること。データを提供したのにフィードバックがないと、使われなかったんだとか変な使われ方したんじゃないかと不安になりますよね。この点については、まだまだ課題もあるのですが、きちんとデータを提供していただいたことで、こんなメリットがあったよと伝えて信頼関係を築くように心がけています。

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事例をシェアして知見を深めていくことでHR業界が促進していく

ーーこれからデータ分析をすすめていく企業に向けてアドバイスをお願いします

データ分析をすることによって会社のどんな困難が取り除かれるのか、どんなメリットがあるのかを議論し、自分たちの成果をきちんと示せるかという点は、しっかりと意識してから取り組まれるとよいかと思います。

データ分析を継続して行っていくためには、経営目線での投資対効果の観点は重要です。規模がそれほど大きくない会社で、データ分析をしなくとも意思決定ができるのであれば、ひょっとするとデータ分析は必要ないのかもしれません。

またデータ分析には専門知識が必要、と考えられている企業も多いのですが、分析を成果に結びつけるうえでは、必ずしもデータ分析の専門知識は必要ではないとも考えています。

ピープルアナリティクス(※HR領域におけるデータ利活用)を実施する場合には、データ分析以外にも、データの収集や管理、プロジェクトのマネジメント力、ロジカルに物事を考える力など必要な要素がいくつかあるのですが、これらのスキルは個人が全部身につけなくてはいけないわけではなく、チームとして揃っていればいいと思っています。そのため、必ずしも分析の高度なスキルが必要というわけではないという考え方も頭に入れておくとよいかもしれません。

例えばデータ分析を外注してしまうのも一つの手です。先ほどの話にもあがりましたが、データ分析を成果につなげるためには、個社ごとの背景知識も重要なので、個人的には、データ分析の専門家を組織内にいきなりそろえるのではなく、今はまだスキルは未成熟だけれども、組織の成長と一緒に分析やその他のスキルが成長していける人がピープルアナリティクスに取り組めるようなやり方だとうまくいきやすいのではと思います。

ーー今後、社会全体でHRデータ利活用を促進させていくために必要なことは何だと思いますか?

HRデータはセンシティブな情報が多いため、分析事例が共有されにくいことが1つのネックだと考えています。どのような失敗があったかはシェアできるといいですよね。実施できる状況は限られてしまうかもしれませんが、例えば大きい会社であればグループ内の会社間で勉強の場を設けて、セキュアな環境でナレッジをシェアすることなどは有意義だと思います。

弊社では信頼できる複数の会社と勉強できるコミュニティを立ち上げて、各社の良い事例も悪い事例もシェアすることで双方の知見を持ち帰るような取り組みを行っています。自社内だけでなく社外にも目を向けて、情報を収集しに行ったり、逆に知見も出していくことを含めて勘案できると、業界全体での知見が溜まっていくと感じています。

業界自体がこれからという部分もあると思うので、自社の利益ももちろん大事なのですが、業界のためにもやるんだというスタンスを各会社の人事の方が持っていただければ、業界全体が促進していくのではないかと思っています。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会などの業界の知見をシェアできるような場も活用して、相互により良い社員の働き方に向けて必要な知見を共有し合えるとよいですね。

オリジナル記事

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(編集後記)
ピープルアナリティクスの最先端を進まれている、パーソルグループでのお取り組み内容を赤裸々に伺いました。私は2018年ごろからご一緒させていただいたのですが、その間も変化し続けられているなかで、「社員に還元することが第一」という方向性は、個人的にすごく素敵だなと感じています。とても参考になるお話しの公開許可をいただき、誠にありがとうございました!



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