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世代交代の瞬間~91年別府大分毎日マラソン(森下広一vs中山竹通)

昨日投稿したバルセロナオリンピック男子マラソン銀メダリスト・森下広一選手の話題をもう一つ。

スポーツの世界では、世代交代を象徴するようなシーンの目撃者となることがありますが、森下選手の初マラソンとなった91年別府大分毎日マラソンで、実際に、その場面に出会いました。

同大会には、当時、男子マラソンの国内第一人者であった中山竹通選手が、同大会に初めて出場しました。同年夏に開催される予定であった世界陸上東京大会・男子マラソン代表に決まっていた中山選手でしたが、その世界陸上への足慣らし的な感じでの参加でした。

レースは、5㎞15分前後のペースで推移し、30㎞過ぎからは、初マラソンの森下選手と中山選手の一騎討ちとなりました。

そして迎えた37㎞過ぎ、その場面が訪れました。冒頭の画像の通り、突然、中山選手が、並走していた森下選手の肩をちょんと叩きながら、一言二言、何かを語り掛けたのです。

優勝を掛けた緊張感が漂う状況の中で、突然の出来事。後に、森下選手は、中山選手から何と言われたか?との取材に対して、「俺は気にせず、行けるんだったら、行っても良いんだぞ、みたいなことを言われたと思います」と答えていました。

中山選手の心中を察するに、その声掛けには、二つの意図があると、私は考えています。

一つは、その言葉通り、初マラソンの有望な若手に対して、「チャレンジしろ!」というメッセージを伝えたかったと思います。ベテランランナーの中山選手にとって、並走している森下選手の実力を肌で感じてこその発言だったのかもしれません。

もう一つは、中山選手自身の余裕があまり無くなって来て、「俺は、まだ余裕が有るんだよ」と相手に分からせる為に、謂わば、意気がって、思わず発した言葉だった可能性もあると思います。それだけ、森下選手の凄さを中山選手が、実感していたと言えます。

私としては、上記二つの理由では、前者の意味合いが強かったのではと思っています。無名選手から這い上がって来た中山選手だからこそ、横で競っているマラソン界の新星に対して、「挑戦しろ!」と純粋にエールを送りたかったと想像しています。

そのシーンの後、中山選手の言葉に勇気を貰ったかのように、森下選手がスパート。そのままゴールし、2時間8分52秒の初マラソン日本最高記録で、見事優勝を飾りました!

そして、翌年2月に行われたバルセロナオリンピック代表選考会となった92東京国際マラソンで、再度、直接対決を繰り広げ、最後のトラック勝負で、再び、森下選手が優勝。2位となった中山選手とともに、オリンピック代表の座を掴み取りました。

世代交代を象徴するこんな場面には、この先、なかなか巡り会えないと思える程のシーン。今でも、私の記憶の中に、鮮明に残っています。









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