世界一ダサいバディ ❶

 2人の青年はネット内で互いを敵視していた。




 ネットで悪口を書き込まれた俺は、まる1年張り込んで知人のハッカーに書き込んだ者を、特定してもらった。
 ネットには詳しくないが、匿名でもアドレスというもので、バレることがあるらしい。そんなものなくても相手は、クラスメートでオタク趣味仲間の山田に違いないのだが!
 疑いながら、訴える前に、仲裁役となる同伴者を連れ、相手に会って話し合いをすることになった。
 万が一別人の可能性もあるから冷静になれと諭されたのだ。

 名指しではなかったそれが、俺に向けられたものでなかったら、無実の相手に罪を被せてしまうからだ。

「あんたら僕のIPからメルアドを特定したKAZU?」
「山田こそ……(ってえ……!? こいつ……誰だ?)」

 現れたのは山田ではなく、若干二十代の若い二人。声をかけてきたのは気難しそうな165センチくらいのアイドル系の男。そしてボディーガードのような同伴者はタッパがある無表情の男。

「ほんじゃ、あすこのカフェで話すでござる」

 

 はじまりはほんの些細な一言だった。高校生2年になってあこがれのスマートホンを買ってもらい、ネットに初めて触れた俺は、好きな芸能人を調べているうちに、匿名で書き込みのできる気楽な掲示板を見つけた。
 ファンが感想を書くっていう場所、ネット初心者の頃はわくわくしながら読んだ。

 たまにアンチとかいう中傷行為もあって有名人は大変だなって、でも人気ある芸能人はたくさんの味方がついてるし、大丈夫だろうと他人事のように笑った。その芸能人は引退して行方知れずとなってしまったので、そういうことじゃないんだとなんとなく理解した。

 そんな中でネットサーフィンをしていて、日常の愚痴を書き込む場所が目についた。それが掲示板を見はじめたきっかけだった。
 クラスメートがウザい、部下が使えない。そういうことばかりが書き込まれて、こんなの読んでも、気が滅入るだけで、しかたないと思いながら、ついつい目で追ってしまう。

「クラスメートが今頃になってスマホ買ったって、遅れてる」

 その何気なさそうな書き込みがちょうど俺に刺さった。みんなは中学、早くて小学生でデビューしてる。けど俺は時代に取り残されてる自覚はあった。
 きっとクラスの誰かが書き込んだに違いない。こんなことくらいどうってことないだろ。

 次の日に教室でブドウパンを食いながら書き込みをチェックしていると「美味しかった?」や「葡萄」という言葉があり、時間も俺の昼飯時で背筋が凍った。たまたまだ。美味しい、なんてしょっちゅう出てくる単語だ

 そう断言できるくらいの強い心は持ってなかった。あれから今日まで毎日自分に当てはまることをチェックしていた。あの段階でやめられていたなら今こんな状況になっているはずがないのだから。


「ご注文はお決まりですか?」

「じゃあレモンアイスティー」

友人ハッカー

「単刀直入に聞きますけど、昨日の日付のこの書き込みはあなたのですか?」
「ああそうだよ、カラオケしてたらあんたにメール送られて特定とかマジか、って思ったことそのままその場で書き込んだ」
「あーこれカラオケ店から書き込んだのかーこりゃやっちまったわー」
「じゃあ、このパンの話は?」
「そんな前の書き込み覚えてない」
「それじゃ俺とは初対面ですよね、遠くから監視とかないですよね?」
「ないね、何が楽しくて男監視すんだよ」
「じゃあこのクラスメートの話は?」
「知らない、ていうかさ、クラスメートって言い方大嫌いなんだよね。クラスメイトじゃないとしっくりこない」

 この人はすごくストレートで正直にものをいうんだな。平成世代って感じだ。

「サイヒコさんまさか」
「最近の書き込みから思念読んでもろたんで! アドレスは店のもんちゅーことは候補は不特定多数や!」
「いやこんな状況でふざけないでください」
「せやかて九条」
「結局なんだって?」
「すみません! 人違いでした!」

 初めから俺に中傷を書いたやつなんていなかったんだろう。迷惑はかけたものの最悪な事態はギリギリ回避できてよかった。

「お前、その性格直さないといつか名誉棄損で訴えられるかもよ」


お互いに関係ないから、これで話がおしまい。


なんてそんな簡単にはいかなかった。

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