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神丘風さん歌集「異界をさがす」感想

#異界をさがす

神丘風さんの歌集「異界をさがす」を読みました。
連休中にBOOTHで買ってから時間が経ってしまい非常に申し訳ないのですが、でもやっぱり伝えたいな…!と思ったので、少しばかりですが感想を。

歌集、シンプルながらかわいい表紙で、中身も素敵な歌がつまってたので、読んでない方は是非!
あとTwitterで知ってたけど、神丘さんはほんとに字が綺麗です。一筆箋に一言書いて送ってくださったんですが、読みやすいお手本のような字だった!
https://kazenoko.booth.pm/

反り返り歌う校歌の愛おしくそのうちえびになる球児たち/神丘風さん

高校球児は姿勢がいい。校歌を歌ってるときは特に。なぜなら勝者の校歌しか流されないから胸を張って立てるし、なんだったら反り返る勢いで声の限りに校歌を歌う。応援席から見える姿はまるでえびのよう。全力で一生懸命でかわいい小えび。見守る主体の、地域のおとなたちの視線がやさしい。

父のせてゆく飛行機の雲を追う別れのテープにぎる気持ちで/神丘風さん

船旅で遠くに行くひとを見送るシチュエーションに憧れていた頃がある。大きな船から投げられる紙テープを受け取って、テープが千切れてからも船の上の人影が見えなくなるまで手を振り続ける。そしてそっとこぼれた涙をぬぐうのだ。
残念なことに私には豪華客船に乗る祖父母もフェリーで一山当てに出掛ける兄もいなかったので、憧れは憧れのままだ。でも出張で飛行機に乗る父を見送ったことはある。ちょうど船旅を見送りたい欲がある頃だったので、当時の自分にこの歌を伝えてあげたい。あの雲をテープだと思ってみたらいいよって。
そして、主体の感じている微かな不安と心もとなさに寄り添って、大丈夫だよきっとお父さんは無事に帰ってくるよって安心させてあげたいなーと思う。

僕たちも冥王星から見てみればまだ愛しあっているのだろうな/神丘風さん

冥王星は遠い。そんなに離れたとこから見れば、よっぽどのことがない限り変わらず愛し合ってるように見えると思う。ただでさえ狭いところでギュッとひしめき合いながら暮らしているのだし。喧嘩でなにか言い合っていたとしても愛を囁いていたとしても、音声が届かない距離で、しかも表情まで見えなければそれは大きな差ではない。壮大だ。壮大で、とてもさみしい。「地球の長い歴史からすれば、2人が愛し合っていた期間は短くてあってもなくても変わらない」っていう考えに通じる、ような気がする。まだ全然愛し合ってるよ!って言えない諦めが、このさみしさの原因だと思う。そう遠くない別れの気配がさみしさを呼ぶ。

金魚には自分の尾びれが見えないと聞き思い出すあの子の長所/神丘風さん

金魚の尾びれはあんなに綺麗なのに、自分では見えないのか。
長所が見えない金魚から連想されるなら、もしかして「あの子」は自分に自信がない子なのかもしれない。自己肯定感が低いひとは痛々しい。「めちゃくちゃ好きです」と伝えても自虐的な謙遜が返ってきて、ちゃんと伝わらないことが多かったりする。だからこそ感謝の言葉とか褒め言葉は惜しまず伝えるべきと私は思っていて、主体に「君も照れずに伝えてあげてね!」って伝えたい。いつかその言葉が染み込んで、その子の支えの根っこになるかもしれないので。

頬染めて童女のように破顔するきみを白線の内側へ引く/神丘風さん

警戒心の強いひとが意を決して自分のテリトリーに誰かを引き込む瞬間がすきだ。逡巡が深すぎてなかなか決断できなくて悩みまくった挙句、衝動的に身内に引き込む瞬間が描かれている物語が大好きだ。末永く幸せになってくれ!!と心の底から願う。そういうひとは身内に認定したひとを大事に大事にして深い愛情を注ぐだろうから、2人で末永く幸せに、愛して愛されてくれと思う。歌集の最後のこの連作はまさにそんな感じの2人が描かれていて、お幸せに!!としか言えない。(3回目)
いや、ほんとに他に適切な恋人同士の行く先をことほぐ言葉があればそれを使いたいんだけど、残念なことに私の辞書にない。
とにかく幸せになってほしい!

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